メモリアの新体制

Side・リカ


 フィールでの執務を終え、大和君達がイスタント迷宮から帰ってきたと聞いたから久しぶりにアルカに来たんだけど、まさかラインハルト陛下、エリス殿下、マルカ殿下、レスハイト殿下、サユリ様がおられるとは思わなかったわ。

 レスハイト殿下は、もう小峰殿でお休みになられているそうだけど。

 私が到着した時はオーダーズギルド専用の獣車の話をしていたはずなのに、気が付いたらメモリアのオーダーズギルドの話になっていたから、私としても聞き流すことはできないわね。


「オーダーズマスターはクリス・エーデルシュタイン、サブ・オーダーズマスターはダート・シュヴァルブランだ」


 やっぱりオーダーズマスターには、クリスが就任したか。

 クリスはフロートのすぐ東にあるエーデルシュタイン伯爵領の生まれだけど、実家の伯爵家は姉が継いでいるため、エーデルシュタイン伯爵領でオーダー登録をし、10年前に総本部のエスコート・オーダーに任命されていたの。

 結婚していて、お子さんも間もなく成人するから、オーダーズマスターに就任しても、すぐに休職するようなことにはならないでしょう。

 だけどクリスは分かるけど、何故サブ・オーダーズマスターにダートを?


「クリスさんは分かるけど、ダートがサブ・オーダーズマスターなんですか?」


 大和君も、私と同じ疑問を感じてるみたいね。

 いえ、ダートもアライアンスに参加していたし、私も知らないオーダーじゃないから、むしろありがたいお話なんだけど。


「ああ。まだ経験は浅いが、フィールでの経験は得難いものだし、君達とも親交がある。ロイヤル・オーダーになってもらうことも考えたが、先日結婚したばかりということもあるから、王家の都合に左右されやすいロイヤル・オーダーや遠征に出ることの多いエスコート・オーダーより、サブ・オーダーズマスターにした方が落ち着けるだろうという意見もあってね」


 そういうことですか。

 ロイヤル・オーダーは他国だと近衛騎士になるから、基本フロートから離れることはないけど、陛下が外遊や視察などでフロートを離れる際は、同行することになる。

 全員がハイオーダーだから、アライアンスにも参加することが多い。

 エスコート・オーダーは国王以外の王族や重要人物の護衛を担っているけど、こちらの方がフロートを離れる可能性は高い。

 実際クリスもダートも、ユーリ様のエスコート・オーダーとしてバリエンテまで護衛として同行していたんだから。

 エスコート・オーダーにはBランクオーダーが任命されることも珍しくないけど、これは経験を積んでもらう意味もあるわ。


 だけどサブ・オーダーズマスターは、任命された街のオーダーズギルドに勤務することになるから、遠出をするにしても近隣の街や村までで、基本的にはその街を離れることはない。

 同じエスコート・オーダーで幼馴染のリアラと結婚したダートにとっては、ロイヤル・オーダーへの任命やエスコート・オーダーを続けることより、1つの街に落ち着けるサブ・オーダーズマスターの方が、これからのことも落ち着いて考えられるのは間違いないわ。


「ということは、リアラもメモリアに赴任ということになるわね」

「そうなるな。ミューズもレックスと結婚してフィールに赴任してしまったから、エスコート・オーダーは一気に人手不足だ。マナとユーリがフロートを出ているから、まだ何とかなっているが」


 それはそうでしょうね。

 ユーリ様に同行してバリエンテまで行ったエスコート・オーダーは、Sランク1名、Bランク4名が殉職している。

 生き残ったエスコート・オーダーはGランク1名、Sランク3名、Bランク2名だけど、その中からミューズがフィールへ、クリス、ダート、リアラの3名がメモリアへということになるから、殉職者も含めるとユーリ様のエスコート・ハイオーダーは全員がフロートから移動ということになる。

 Bランクオーダーの2名にも褒賞は出ているけど、オーダーズギルドで役職に就こうと思ったら、最低でもハイクラスに進化していなければならないから、白金貨1枚ずつだったはずだわ。


「それはそうでしょうが、4人もハイクラスがいなくなってしまって、総本部は大丈夫なのですか?」

「ギリギリだな。先程も言ったが、マナとユーリは嫁ぐ形でフロートを離れたし、エリスとマルカも進化できたから、自分の身は自分で守れる」


 それもそれで問題なのよね。

 確かにエリス殿下はハイエルフに、マルカ殿下はハイアルディリーに進化されたし、ラインハルト陛下なんてレベル58とグランド・オーダーズマスターすら超えてしまってるから、そこらにいる盗賊程度なら何十人襲ってきたとしても、簡単に返り討ちにできてしまう。

 魔物だって、3人で連携してP-Rランクモンスターのマクロナリアを、大和君の援護無しで倒したそうだから、余程の事がない限りは大事には至らないでしょう。

 だから下手にエスコート・オーダーが護衛に付いたとしても、護衛される側の方が強いから、場合によってはどっちが護衛なのか分からない事態だって十分考えられてしまう。

 それでも王に王妃なのだから、護衛を付けないわけにはいかない。

 本末転倒な結果になろうと、それがエスコート・オーダーの仕事でもあるから。


「もしかして、総本部のオーダーも鍛えた方がいいんですかね?」

「可能なら、そうしてもらいたいな。それに私だって、エンシェントクラスと手合わせをしてみたいんだ。相手にならないことは重々承知だが、得られるものも多いだろうからな」


 大和君は二度ほど、フィールのオーダーズギルドとホーリー・グレイブに、戦闘訓練を行ってくれている。

 訓練内容はものすごく厳しくて、終わる頃にはハイクラスでも立ち上がれないぐらい疲弊していたわ。

 だけど多くのオーダーがレベルを上げているし、さらにはハイクラスへの進化者も何名か出ているから、フィールの戦力は以前より遥かに増強されている。

 近い内に3回目の戦闘訓練が予定されているけど、その時はまた私も参加する予定でいるわ。

 元々は陛下がご依頼されたことなんだけど、フィールのオーダーだけというのも問題だから、おそらくどこかのタイミングで、総本部を含むいくつかの支部に打診してみるつもりだったんでしょう。


「予定が付いたら、ですかね。それでクリスさん達ですけど、いつメモリアに赴任するんですか?」

「3日後に任命式を行う予定だから、それ以降だな」


 ということは、任命式が行われる時間にもよるけど、赴任までは最短で3日、遅くても1週間は掛からないわね。

 フロートとメモリアは、陸路なら3日程かかるけど、海路を使えば1日も掛からない。

 どちらもラソ湾に面しているし、週に何度かは定期便も出ているから、上手く船便を使えば日帰りも不可能じゃないわ。


「3日後か。祝いに剣でも贈ってやろうかと思ったけど、微妙な日取りだな」

「そうでもないでしょう。3日だと依頼料割増になるけど、クラフターズギルドなら請け負ってくれるし」

「ああ、そうか。いつもエドに頼んでたから、すっかり忘れてたな」


 確かに私達の武器は、エドワード君に頼んでいたものね。

 今は新しいアーマーコートの作成に忙しいから、クリス達の就任祝いを頼むわけにはいかないけど、プリムさんの言うように、クラフターズギルドに製作依頼を出せば解決する。

 3日で、というよりもう2日後になってしまうからさすがに難しいかもしれないけど、それでも腕利きの鍛冶師なら出来ないわけじゃない。

 しかも急ぎでということにもなるから、当然依頼料も割増になるけど、大和君からしたら全然大したことない金額ね。

 そのエドワード君とマリーナ、フィーナは、夕食後から工芸殿に籠っているそうだけど。


「それじゃあ明日、クラフターズギルドに依頼を出すか」

「ええ。翡翠色銀ヒスイロカネは十分に在庫があるだろうから、後でデザインを考えましょう」


 それが最大の問題かもね。


「そういえば私達に献上してもらったゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーンの素材だが、私達用の防具に使ってほしいと言っていたな?」

「ええ、そうよ。戦場に立つかどうかは分からないけど、一国の王なんだから、それなりの装備は必要でしょう?もっともお兄様達の場合は、普段使いすることの方が多いだろうけど」


 大和君達はイスタント迷宮に入る前に、ソルプレッサ迷宮で倒した魔物の魔石を献上している。

 献上した魔石はゴールド・ドラグーンやディザスト・ドラグーンを筆頭にPランク以上の魔物を1つずつ、アミスター王家が所有していなかったソード・ドレイクとプレートスケイル・ドレイクの魔石もあるわ。

 さらにマイライトで倒したらしいルドラ・ファウルの魔石も献上しているから、一気に15種類もの魔石が増えたことになる。

 いえ、イスタント迷宮の守護者ガーディアンミスリル・コロッサスやノーライフ・キング、リッチ、ヘビーアーマー・デュラハン、デモンズ・ドレイク、ビッグシザーズ・スコーピオンの魔石も増える予定だから、そろそろ魔石専用の宝物庫を用意した方がいいんじゃないかっていう気もするわ。


 そのソルプレッサ迷宮の魔石を献上した際に、ゴールド・ドラグーンとディザスト・ドラグーンの革や骨、爪も、陛下方の防具用に献上させていただいているの。

 王代アイヴァー陛下なら、喜んで仕立てて下さるでしょうからね。


「それは当然だろう。だが王や王妃に相応しく、それでいて普段使いできる物となると、デザインが難しいから、父上もかなり悩んでいたな」


 そうでしょうね。

 そもそも王や王妃に相応しい物となると、実用性を重視したとしても、一目で分かる物にしておく必要がある。

 それでいて普段使いできる物ということは、ハンターとして使いやすい物ということになるでしょうけど、それらが両立できるかは疑問だわ。


「大和君達のクレスト・アーマーコートは、大和君の世界の物だと聞いている」

「つまり俺の刻印具に入ってるデザインで、その条件が満たせる物があるかを確認したいってことですね」

「そうなる。構わないか?」


 やっぱりそうなりますよね。

 私も着用しているクレスト・アーマーコートは、普段使いもできるし、侯爵としての正装にも使える優れ物。

 だから陛下方が興味を持たれるのも当然ね。


「それは勿論。だけど陛下達のお眼鏡にかなう物があるかは分かりませんよ?」

「そうかもしれないが、見てみないことには判断できないだろう?」

「ごもっともで。ちなみにご希望は?」

「クレスト・アーマーコートのようなコート系だな」

「了解です」


 そう言って刻印具を取り出した大和君は、トランス・イリュージョンっていう光の刻印術を使って、次々にデザインを表示しだした。


「ず、随分沢山あるんだね……」

「希望がコートですから、結構絞ってますけどね」

「あっ、あたし、これにしよっかな」


 予想以上のデザインに引き気味だったマルカ殿下だけど、早速お決めになられたみたいだわ。


「私達のコートに似ていますね」

「同じ系統ではあるな」

「そうなんだ。でもあたしとしては、この帽子が気に入ったんだよ」


 ああ、そっちですか。

 確かにマジック・サークレットの応用で作れるでしょうし、何より素材がドラグーンだから、下手な兜より防御力が高くなりそうだわ。


「なるほど。それじゃマルカ殿下は、帽子込みでこれ一式ってことで?」

「よろしく!」

「じゃあフラム、ドローイングを頼む」

「分かりました」


 いつもならマリーナがドローイングで紙に描き写してくれるんだけど、今は工芸殿で作業中だし、何よりマリーナの仕事量が一番多いから、ここで呼び出すのも躊躇われる。

 幸い大和君とフラムもクラフター登録をしているし、フラムは仕立師や裁縫師を目指しているそうだから、これはいい練習になるわ。

 フラムのドローイングも、マリーナに劣らない出来だしね。


「私は……そうね、これかしら。私もこの帽子が気に入ったのよ」


 エリス殿下が選んだのは、マルカ殿下の選んだデザインとよく似ているけど、全体的な雰囲気は柔らかくなっていて、雅な装飾もされているわね。

「あー、これか。このままでも行けそうではあるけど、ちょっと装甲が弱いんだよな。それも含めて、マイナーチェンジってことでいいですか?」

「ええ、もちろん」


 エリス殿下も決定ね。

 奇しくも王妃様お2人が似たような感じの装備になるけど、どちらも実用性は高そうだし、マイナーチェンジすれば十分にラインハルト陛下の要望を満たせるでしょう。

 後はそのラインハルト陛下ね。


「私はこれにしよう。シンプルなデザインだが、逆にそれが良い。さすがに兜を被るつもりはないから、私も帽子にするつもりでいるが」

「となると、これに合うような帽子も探さないとだな。何かあったかな……」


 ラインハルト陛下の要望を叶えるべく、今度は帽子のデザインを探す大和君だけど、結構大変そうだわ。


「ああ、あった。これなんかどうです?」

「おお、いいな。コートにも合いそうだ」


 どうやらラインハルト陛下もお決まりのようね。

 シンプルなデザインのコートだから、普段使いもしやすそうだわ。

 それに大きな羽が飾られた帽子を被ることで、国王としての威厳も示せる。

 帽子の羽飾りはエリス殿下とマルカ殿下が選んだ物にもあるから、火属性魔法ファイアマジックに適正を持つエリス殿下にはイグニス・バード、風属性魔法ウインドマジックに適正を持つマルカ殿下にはルドラ・ファウルの羽を献上させていただくこともできるし。

 ラインハルト陛下には、その両方を使っていただくのがいいかしらね。

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