ドワーフのハンターズマスター

 無性S級無系術式アイスミスト・エクスプロージョンによる爆風は内側に向ける改良を加えてみたが、どうやら正解だったようだ。

 ミスリル・コロッサスの核を破壊できたんだから、これで本当に完成したと言える。

 プリムの新固有魔法スキルマジックフレア・トルネードも同じく完成したから、俺の悩みだったデカい魔物への対策と、プリムが懸念していた対多数用の魔法を手に入れることができた。


 プリムのフレア・トルネードは、極炎で作り出した竜巻にフレア・スフィアを紛れ込ませ、フレア・ニードルを乱射する魔法だ。

 それだけでも十分凶悪だが、極炎の翼は火と風の翼でもあるから、フレア・トルネードは普通の竜巻と同じように上昇気流を発生させ、物体を巻き上げる効果も持っている。

 ミスリル・コロッサスの巨体すら巻き上げていたんだから、あれに耐えるのはかなり難しいだろう。


「出てきたな」

「そうね。ここも守護者ガーディアンの死体と同じ所に出てくるってことは、他の迷宮ダンジョンもそうなんでしょうね」


 ソルプレッサ迷宮もそうだったが、ここイスタント迷宮の迷宮核ダンジョンコアも、ミスリル・コロッサスの死体、というか残骸があった場所に出てきた。

 プリムの言う通り、これも迷宮ダンジョンの仕様ってことになるんだろうな。


「それじゃあ戻るか」

「そうね。さすがに攻略した以上、ハンターズギルドにも報告しないといけないから、フロートに戻るのは少し遅れそうだわ」


 こればっかりはな。

 ソルプレッサ迷宮は元ニズヘーグ公爵領にあって、当時は俺達と敵対してたから、報告はドラグニアのハンターズギルドでしたけど、普通は迷宮ダンジョンのある街のハンターズギルドだから、後でイスタントにも行かないといけない。

 アミスター国内だし、何より陛下がいるから、その点は気が楽だが。


「ん?どうかしました?」


 迷宮核ダンジョンコアを回収し、みんなの所に戻ると、ウイング・クレストの面々や陛下達は地上に戻る準備を進めていたが、アライアンスの皆様は茫然としていらっしゃった。


「どうかも何も、あんな戦いを見せられたら、誰でもこうなるわよ」

「そうだよねぇ。あたし達も驚いたよ。大和君とプリムさんが凄いのは知ってたけど、A-Cランクモンスターをああも一方的に倒せるなんて、さすがに思わなかったんだから」


 なんてエリス殿下とマルカ殿下に言われてしまった。

 いや、そう言われましても、道中でMランクのサンド・ドラグーンも倒したし、そもそもの出会いだって、Aランクのノーライフ・キングから助けたことがきっかけみたいなもんなんですが?


「AランクとA-Cランクは大分違うぞ?Aランクは人数が必要だが、討伐が不可能というわけではない。だがA-CランクともなるとOランクに匹敵かそれ以上だから、討伐できない可能性の方が高いんだ」


 なんて陛下に言われてしまった。

 確かに災害種は2つ上のランクに相当するって言われてるが、ランクはOランクが最上位になるから、A-CランクだとOランク相当ってことになる。

 そのOランクもピンからキリまでいるが、人間の手には負えない魔物ってことは共通している。


「でもあたし達が終焉種を倒したことは、さっきライ兄様が教えてたんだから、そこまで驚くようなことでもないと思うけど?」

「無傷でA-Cランクのミスリル・コロッサスを倒しておいて、よく言うわね。私達は慣れてきてるし、お兄様達も何度も話を聞いてるから耐性があるけど、アライアンスのみんなはそんな耐性なんてないわよ」


 そんなもんかね?

 だけど相手が魔物や人間なら、勝てない道理はないと思うぞ。

 なにせ生物なら必ず弱点があるし、アンデッドやパペット系にも核っていう弱点があるんだからな。


「それはそれとして、いつまでもここにいても仕方ないから、さっさと出ましょう」

「賛成。この後ハンターズギルドにも行かなきゃいけないんだから、余計な時間を食ってる暇はないわ」


 話を逸らすわけじゃないが、プリムも即座に賛同してくれた。

 本来ならイスタント迷宮を出たら、すぐにフロートに戻るつもりだったからな。

 だけど攻略しちまった以上、ハンターズギルドに行かないわけにはいかない。

 マナや陛下達もそれは理解してるから、スレイさん達が我に返ると同時に、俺達は守護者ガーディアンの間に現れた魔法陣を使い、イスタント迷宮を離脱した。


 イスタント迷宮を出ると当然のように騒ぎになったが、駆け寄ってきたオーダーに軽く事情を説明してから、俺達はイスタントのハンターズギルドに向かった。

 イスタントは10年程前に生まれたイスタント迷宮から、だいたい30分程の距離にある。

 迷宮が生まれたってことで急遽イスタントの街が建造されることになったんだが、元々は村だったらしく、村の名前が街の名前になったらしい。

 建造が始まってから10年ってこともあって、イスタントにはまだ建築中の建物が多く、常に活気で溢れている街でもある。

 そのイスタントの街の中心部に、ハンターズギルドはあった。


「私達は全員が行なかければならないが、そちらはどうする?」

「こっちも全員で行きますよ。獣車の見張りは、悪いけどマリサさん達に頼むつもりですし」


 マリサさんもシェル・セイレーンとの戦いでハイヴァンパイアに進化できたし、エオスにも見ててもらうから、余程の馬鹿が手を出してきてもどうとでもできるだろう。


「かしこまりました。それではバトラー4人で獣車の見張り、従魔のお世話をしてお待ちしております」

「悪いけど頼みます」

「それでは行こうか」


 40人近い人数がドカドカとハンターズギルドに入っていくが、あまり珍しい光景ってわけでもない。


「あ、スレイさん!戻られたんですね!」


 受付から声が響いた。

 どうやらエルフの受付嬢さんが、スレイさん達に気が付いて声を掛けてきたみたいだ。


「ああ、今戻った。報告があるんだが、ハンターズマスターは?」

「すぐに呼んできます。第10鑑定室でお待ちください」

「分かった」


 やっぱりここでも第10鑑定室か。

 アライアンスの報告は第10鑑定室ってことになってるから、不思議でも何でもないんだが。

 スレイさん達は何度か使ったことがあるらしく、特に案内もされずに第10鑑定室に向かい、俺達もそれに続いた。

 俺達に訝し気な視線を向けてくるハンターはいたが、アライアンスに同行してるってこともあるから、ちょっかいをかけられるようなことがなかったのは助かったな。


 第10鑑定室に入ること10分ちょい、ハンターズマスターもやって来た。

 ここのハンターズマスターって、ドワーフだったのかよ。

 いや、ハンターズマスターになるためにはハイクラスに進化してないといけないから、ハイドワーフか。

 スレイさんが紹介してくれたが、名前はガドラーというそうだ。


「おう、無事に帰ってきたな。いや、リスティスの姿が見えねえが……スレイ、どうなった?」

「規約違反で、プラムが処断しました。陛下の御前であれだけの無礼を働いたのですから、規約以前の問題でしたが」

「陛下?って、ラインハルト陛下!?な、なぜイスタントに!?」


 さすがにハンターズマスターともなると、陛下の顔は知ってるか。


「それについてはスレイ達の報告と重なる所があるんだが、私達もイスタント迷宮に入っていたんだ。私達がここにいる理由も含めて、まずはアライアンスの報告を聞いてほしい」

「わ、分かりました。それじゃスレイ、早速頼む」

「はい。イスタント迷宮に入って2日目に、私達は第4階層に到達しました」


 スレイさんの報告を聞くと、本来ならもっと早く第4階層に到達できてた感じだ。

 だけどリスティスっていうハイヒューマンが足を引っ張りまくったせいで、全体の進行が遅れ、第4階層では近くにセーフ・エリアがなければ、そこで誰かが犠牲になってた可能性も高かったらしい。


「そして第5階層に到達したのですが、第5階層は迷路階層でした」

「迷路?いや、特に珍しいわけじゃねえか。魔物は?」

「アンデッドです」

「迷路にアンデッドって、最悪の組み合わせだな」


 ガドラーさんが顔を顰めるが、俺もそう思う。


「さらに、今まで見たことも聞いたこともない罠がありました」

「ほう。どんな罠だ?」

「宝箱です。あからさまに不自然でしたから無視したのですが、私の指示を無視したリスティスがそれを開けてしまい……」

「あのバカ、マジでロクなことしやがらねえな」


 既に死んでる人に対して散々な言いようだが、それだけそのリスティスって奴が、周囲に迷惑をかけまくってたってことなんだろう。

 実際レベル41でハイヒューマンに進化したことを理由に、何をしても許されるって考えてたしな。


「その宝箱からは、魔物が出てきました。毎回同じ魔物なのかは分かりませんが、今回出てきたのはノーライフ・キングです」

「な、なんだと!?」

「しかもリスティスは、私達の元までノーライフ・キングを連れて戻ってきてしまったため、私達も全滅寸前になりました。そこを、通りがかった陛下方やウイング・クレストに助けていただいたのです」

「そ、そうなのですか?」

「ああ。ノーライフ・キングを倒したのは大和君だが、彼らの傷を癒したのはユーリとキャロルだ。他にも回復魔法を使える者はいるが、ノーライフ・キングが出てきた以上、他にも危険な魔物がいるかもしれないと考えられたから、彼らにはすまないと思ったが、魔力を温存させてもらうことにした」


 実際プリムとレベッカも回復魔法を使おうとしてたが、そんな理由で最低限のことしかさせてもらってなかったな。


「それは当然ですな。むしろ第5階層なんていう未知の階層で救援があっただけでも、十分にありがたい話です」

「私達もそう思いました。ですがリスティスだけは、そうではなかったのです」

「……何があった?」

「恩人であるウイング・クレストの女性を襲おうとして、返り討ちに合っていました。しかも下半身を剥き出しにしたままで外に放り出されましたから、陛下にも粗相を働いたことになります」

「……それは斬られて当然だな。しかも恩人を襲おうだなんて、普通にクズの所業だぞ。分かった、リスティスの件は規約違反で処理しておく。あいつに迷惑を被ってた奴は多いから、死んだって聞けば祝杯を挙げるだろうな」


 余程の事がなければ、ハンターがハンターを殺すことは罪として裁かれる。

 だが俺の場合もそうだったが、国やハンターズギルドに不利益をもたらす場合は、依頼ということで処理されるため、その場合は盗賊として処断することが可能になる。

 リスティスっていう奴も同じで、規約違反を犯した時点で罪人扱いになったため、プラムさんが処断しても罪には問われない。

 仮に規約違反じゃなくても陛下の御前で粗相って時点で、普通に斬り捨て御免案件だったが。

 それにしても死んだって聞いて祝杯ってことは、よっぽど嫌われてたってことだぞ。

 マジで何やってたんだよ、そいつは。

 いや、気分悪くなるだけに決まってるから、知りたくもないが。


「で、そのノーライフ・キングはどうした?全員で倒したのか?」

「いえ、こちらにいるウイング・クレストの大和君が、単独で倒してしまいました」

「……なんだと?」


 ガドラーさんが俺に、驚愕の視線を向けてくる。


「本当だ。ハンターズマスターなら、彼の功績も多少は耳にしているだろう?」

「それはもちろんですが……いくらエンシェントヒューマンでも、Aランクの単独討伐が出来るとは……」

「普通ならな。だが事実だ。だからこそ私達は無傷だし、アライアンスも助かったと言ってもいい」

「陛下の仰る通りです。もし彼が単独で倒してくれなければ、少なくとも私達の半数はここにいなかったでしょうから」


 スレイさんの一言に、アライアンス全員が大きく首を縦に振る。

 いや、そんなことはないと思うんだが……。


「一度話を纏めさせてくれ。第5階層は迷路階層で、高ランクのアンデッドの巣になってる。しかも宝箱に擬態、かどうかは分からねえが、そんな感じの罠があって、開けたらノーライフ・キングが出てきた。そこにウイング・クレストが通り掛かり、その大和っていう小僧っ子が単独でノーライフ・キングを倒しちまって、その後でリスティスが問題行動を起こしてプラムに処断された。間違いはねえか?」

「それで合ってます」

「そ、そうか。それでお前らは、これ以上の調査は不可能と判断して、やむなく撤退してきたってわけだな?」


 うん、普通なら即撤退って判断になると思う。

 だけど残念ながら、そうじゃないんですよ。


「いえ、負傷者が動けなかったという理由もありますが、ウイング・クレストが調査に協力してくれたこともあって、私達は第6階層にも到達しています」

「なんだと?いや、負傷者を無理に動かせないっていう理由は分かるが、いくらエンシェントハンターがいるレイドが協力してくれたとはいえ、負傷者だけでも先に撤退させることは出来ただろう?何故無理に調査を続けたんだ?」


 ガドラーさんが俺達を非難するような視線を向けてくるが、確かに負傷者だけ先にエスケーピングで撤退させるっていう方法もあった。

 だけどそれをしてしまうと、こちらもユーリかキャロルがついていくことになっただろうし、そうなると護衛として俺達の何人かもついていくことになる。

 それに下手に地上に戻すより試作獣車の方が快適だと判断したから、負傷した人達の了承もとって同行してもらっていたんですよ。


「なるほど、そういうことか。確かにアライアンスとは別口で探索してたんだから、ウイング・クレストとしても戦力が減るのは好ましくない。だが、アライアンス全員を運べる獣車だと?そんなものがあるのか?」

「それについても報告したいと思っています。幸い、大和君達の理解は得られていますから、後程実物を見てもらうことになるかと」

「分かった」


 ドワーフだからなのか、目の奥が光った気がする。

 ガドラーさんはハンターズマスターだが、もしかしてクラフター登録もしてるんだろうか?

 ハンターズマスターだからユニオン登録をしちゃいけないって規則はないし、そもそも就任前に登録してる可能性の方が高いんだから、特に珍しい話でもないが。

 だけど今は報告が先だから、ガドラーさんはスレイさんに報告の続きを促した。

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