合同訓練の結果

Side・レックス


 大和君とプリムさんの模擬戦の最中、ホーリー・グレイブやオーダー達は唖然としていた。

 私も気持ちはよく分かる。


「な、なあバークス。あいつらが何やってるか、分かるか?」

「まったく分かんねえよ……。というか、今どこだ?」


 グラムとバークス君が2人を探しているが、無理もない。

 先程まで訓練場を所狭しと駆け回っていたのに、今や2人の戦場は空になっているのだから。

 私にも2人の動きはよく見えなかったし、何より訓練場が彼らのせいでボロボロになってしまっているのだから、ある意味では当然かもしれないが。

 模擬戦でこれなのだから、実戦だったらどうなっていたんだろうか?


「あれがエンシェントクラスの……」

「模擬戦とはいえ、本気ってことなのか……」

「地形変わっちゃってるね」

「だね。これ、どうやって元に戻すの?」


 アテナさんとルディアさんは呆れた顔をしているが、私達と違ってウイング・クレストは誰も驚いていない。

 ウイング・クレストはバレンティア最難関のソルプレッサ迷宮を攻略したと聞いているが、だからこそ彼らが本気で戦う姿を見たことがあるということなのだろう。

 いや、フィーナさんの2人の妹さんは、何が起きたのか分からないという顔をしているな。

 あの子達は、驚いたことにレベル一桁だという。

 クラフターということだが、今のままでは作業もままならないし、色々と問題があるのは間違いないから、今日はクラフターとしての作業は一切させずにこの場に連れてきたと聞いている。


「大和が何とかするでしょう」

「というか、さすがにこれはやり過ぎでは?」


 妹のミーナの意見に、全面的に賛成したい。

 大和君とプリムさんが戦った跡は、恐ろしいことに所々焼け焦げているし、氷っている所もある。

 地面もひび割れどころか、上空から何かが落ちてきたかのような窪みも1つや2つではない。

 これだけのことをされているのだから、模擬戦のために貸し出した木剣、木槍が粉々に砕けていることなど、大した問題に感じられない。


「もう、また勝てなかった」

「いや、前もそうだったが、今回も危なかったからな?」


 模擬戦ではあったが、前回の決闘同様に大和君が勝利したようだ。

 プリムさんが地面に着地した一瞬のスキを付いて地面を陥没させ、アクセリングを全開にして接近したのだが、プリムさんも不十分な体勢から槍を繰り出して迎撃。

 だがそれは大和君が見せていた幻影であり、当の本人はプリムさんの背後に回り、首筋に剣を突き付けていたのだ。

 地面を陥没させた魔法もだが、幻影も刻印術で作り出したものだと言っていたな。


「お疲れ様って言いたいけど、どうすんの、この惨状?」

「あ~、ヨツンヘイムを使えば何とか……」


 ルディアさんにツッコまれた大和君は、ヨツンヘイムという刻印術を使い、驚いたことに10分程で訓練場を直してしまった。

 彼のやることに一々驚いていたら身が持たないことは重々承知しているが、先程の模擬戦といい訓練場を簡単に直してしまったことといい、本当に規格外であることを思い知らされる。


「よし、オッケーだな。じゃあ次はハイハンターとハイオーダーが組んで、俺と模擬戦。それが終わったらノーマルクラス全員とです」


 大和君のセリフに、ホーリー・グレイブだけではなくオーダーからも絶望的な声が上がる。

 あの模擬戦を見てしまった以上、とてもではないがこの場のハイクラスが総出で挑んだとしても、掠り傷1つ付けられるとは思えない。

 いや、この場のハイクラスの半数以上はアライアンスに参加していたのだから、そんな考えは欠片も持ってはいないか。


「よし、ではハイクラスは準備を。ファリスさん、指揮はどちらが執ります?」

「レックスに任せるよ。アライアンスじゃそうなるし、実績もあるからね」


 アライアンスの際は、騎士や軍人がリーダーを務めることになっている。

 これは参加するハンターが、その国に所属しているとは限らないからだ。

 実際最高レベルの者が他国のハンターだった場合、少々の被害でも撤退してしまったことが過去に何度もあったという。

 アライアンスは国の命運を左右する重大な任務だが、そんなことをされては全体的な被害が大きくなってしまうのだから、これは当然とも言える。

 だから前回のアライアンスでは、私がリーダーを務めていた。

 ホーリー・グレイブも参加していたから、私が指揮を執ることに不満はないということだろう。


「よし。ではプリムさん、審判を頼みます」

「ええ。頑張ってね」


 今回参加するハイオーダーは私とローズマリー、ミューズ、イリスさん、グラム、エレナさん、カザム、ラースラの8名だ。

 カザムはハイアルディリーの男性でレベルは45、ラースラはハイドラゴニュートの女性でレベル46だ。

 この2名はアライアンスには参加せず、ローズマリーとともにフィールの防衛に回ってもらっていたが、先日陛下がお越しになられた際にマイライトの調査に同行し、2つほどレベルを上げている。

 ちなみにアライアンスに参加していたカルディナさんは、今はプラダ村へ赴任されているため、フィールにはいない。

 この8名にホーリー・グレイブのハイハンター7名が加わり、総勢15名で大和君と相対することになるのだが、正直な話オーク・クイーンを相手にしていた時の方が、はるかに楽だったと思う。

 だがこれは訓練なのだし、何よりエンシェントヒューマンと手合わせできる機会なのだから、全力で行こうと思う。


「それじゃ、はじめ!」


 プリムさんの合図で、模擬戦が始まった。

 彼の攻撃を1人で受け止めきれるわけがないから、私とミューズが防御を受け持ち、他の者には背後から攻撃するよう指示をする。

 果たして大和君を相手に、我々はどこまでやれるだろうか?


Side・プリム


「それまで。お疲れ様」

「マジで疲れたよー!」

「も、もう動けねえ……」


 ハイクラス相手の模擬戦後、ノーマルクラス50名超を相手にした大和だけど、結果は掠り傷1つ負わず、息すら乱れてない。

 対照的にノーマルクラスのみんなは地面にへたり込んで、肩で大きな息をしている。

 文句を言ってるハーピーのライラやタイガリーのルーカスは、まだマシな方ね。


「『リフレッシング』。ふう、少し楽になったか。まったく、ノーマルクラスじゃ何百人集まっても、どうにかできるレベルじゃないな」


 エルフのイライザさんが騎士魔法オーダーズマジックリフレッシングを使って、大和との模擬戦で消耗した体力を回復させる。

 確かに大和の相手をするなんて、ハイクラスでも大変だしね。

 そのハイクラスでも、広域系の刻印術を使われたら一網打尽にされちゃうけど。

 今回は模擬戦ってことだから刻印術は使ってなかったけど、それでもハイクラスの猛攻を涼しい顔で受け流してたし、ノーマルクラスなんて大和の圧力に屈しちゃって、攻撃できる人の方が少なかったわ。

 イライザさんやライラ、ルーカスはまだ動けてた方ね。


「でもイライザさん、進化できたでしょ?」

「できてしまったな」


 微妙な顔をするイライザさんだけど、大和との模擬戦で先陣を切り、もっとも長く攻撃を繰り出していたためか、イライザさんはレベル44になり、さらにはハイエルフにも進化していた。

 今回の訓練はレティセンシアとの戦争を見据えているから、参加者には強くなってもらう必要があったんだけど、初回でいきなりハイクラスへの進化者が出るとは思ってなかったわ。


「おめでとう。進化できたことは目出度いんだから、まずは喜びましょうよ」

「ありがとうございます、マナリース殿下」


 姿勢を正し、敬礼するイライザさんだけど、そこまで畏まる必要はないと思うわよ?

 自国のお姫様が相手なんだから、そうなっちゃうのも仕方ないんだけどさ。


「でもイライザさんは進化できちゃったから、この後のメニューは免除ってことになるのよね?」

「そうなる」

「そうなのですか?」


 ええ、そうなのよ。

 本来ならこの後は、希望者を募ってマイライトに行くことになってるんだけど、移動はあたし達の獣車で、エオスに運んでもらうことになってるから、そんなに多くを連れて行くことはできない。

 オーダーの多くが疲労困憊っていうこともあるから、フラム、リディア、ルディア、ラウス、レベッカ、キャロルはフィールに残ることになっている。


「とはいえ初回だから、希望者が出るかも分からなかった。だから彼らと面識のある者に、優先的に参加してもらうことにしている」

「はいっ!?」

「マジでっ!?」


 レックスさんの一言に驚いてるのは、大和と面識があるどころか親しいと言ってもいいルーカスとライラ。

 うん、あんた達は強制参加よ。

 あとはヴァンパイアのジェミニアさんもね。


「オーダーズマスター、冗談ですよね~?」

「大真面目に事実だ。あとはハイクラスから、マリーとグラムも参加することになっている」

「俺も!?」


 ハイクラスってことで自分は大丈夫だと安心しきっていたグラムが、思わぬ一言に驚愕している。

 さっきの模擬戦じゃ、バークスさんと一緒に優先的に狙われてたから、まだけっこうなダメージが残ってるのよね。

 一応あたしがハイ・ヒーリング使ってるけど、あたしはヒーラーじゃないから効果はそれなり。

 使ってあげてるだけありがたいって思って。

 対照的にローズマリーさんは、自分から参加を希望しているから、表情にやる気が漲っているわ。


「っていうか、なんでバークスは参加しねえんだよ!?」

「いや、本当は拉致るつもりだったんだが、サリナさんとクラリスさんに懇願されちまったからな。それにバークスさんはハンターだから、連れて行くとしたらホーリー・グレイブ全員の方が効率良いし」

「マジか!サリナ、クラリス!俺も助けてくれ!」


 恥も外聞も捨て去り、サリナさんとクラリスさんに助けを求めるグラム。


「イヤよ」

「こないだバークスを連れて、娼館に行ってたわよね?バークスには私達がいるのに、なんでそんなとこに連れて行ったのかしら?」

「い、いや、それは、その……」


 だけど怒りの形相をしたハイエルフとハイヴァンパイアに詰め寄られる始末。

 というか、そんなとこ行ってたの?

 そりゃサリナさんもクラリスさんも、怒るに決まってるじゃない。


「独り者は辛いな、グラム」

「やかましいわ!」


 グラムはハイヒューマン、Gランクオーダー、男爵家の跡取りっていう肩書があるのに、未だに恋人の1人もいないのよね。

 普通なら女の方が放っておかない優良物件なんだけど、中身が残念だってことはフィールじゃ有名だから、それが原因なんでしょうけど。


「はいはい、諦めなさい。出発はお昼を食べてからだから、少しは休めるでしょう?」

「ライラ、往生際が悪いですよ?」

「ミーナ……うう、分かったよ。ハイハーピーには進化したいって思ってたから、覚悟を決めて頑張るよ!」


 ライラはミーナの同期で同い年だけど、その中じゃ一番将来を渇望されているそうよ。

 実際、今のレベルは39だしね。

 相方のルーカスはレベル34だから、大和としてはこっちを何とかしたいみたいだけど。


 そんなこともあって、マイライトに連れて行くオーダーは、ローズマリーさんとグラムを含めて10人。

 その中のライラ、ルーカス、ジェミニアさん、そしてルーカスの姉のミレイナさんは顔見知りだけど、他の人達もプラダ村に行った時に一緒だったオーダーだったりするから、本当にあたし達と面識がある人を選んでくれたみたいだわ。


 今回はフィールの対岸に行ってみたけど、そこはフィールからも遠いし、陸路だと何日も掛かるから、ほとんど探索されることはなかった。

 そのせいでオーク・プリンスやプリンセス、更にはオーク・キングまでいたけど、放置するわけにはいかないからしっかりと狩ってある。

 これもオーク・エンペラーとオーク・エンプレスがいた影響なんでしょうね。


 全部で5つのオーク集落を潰してからフィールに帰ることにしたんだけど、参加したオーダーは全員レベルが上がっている。

 ローズマリーさんはレベル50に、グラムもレベル51になったわ。

 ミレイナさんはレベル40、ルーカスはレベル38、ジェミニアさんはレベル33になったけど、ライラはレベル43になった上にハイハーピーにも進化できてたりするし。

 あと女性オーダーのフリーデさんもレベル47になって、ハイタイガリーにも進化できたわね。

 最初の訓練で3人もハイクラスへの進化者が出るとは思わなかったから、お姫様のマナはすごく満足そうだったわ。

 普通なら装備をどうするかで頭を悩ませるところなんだけど、既に翡翠色銀ヒスイロカネを使った装備がオーダーズギルドの全支部に行き渡っているから、そちらも問題ないのも大きいと思う。

 次はプラダ村に赴任しているオーダーが帰ってきてからになるけど、できることならまた何人かは進化してもらいたいわね。

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