聖なる鉾
ユーリアナ姫がマリアンヌ王女と面会してから3日、またしても俺達は、フレデリカ侯爵の屋敷に来ている。
俺達の依頼受諾を告げに王都に行ったグランド・ハンターズマスターが戻ってきたこともあるが、今回は俺ではなく、プリムがメインだ。
なにせグランド・ハンターズマスターは、第二王女のマナリース姫がプリムに宛てた手紙を預かってきてたんだからな。
ちなみに今日から女性陣は、先日買ったお洒落着を着てたりする。
プリムはショートの赤いフレアスパッツ、白のへそ出しキャミソール、袖の短いピンクのサマーカーディガン。
フラムは丈の長い紺色のフレアスカートに、黒と白のストライプのシャツ、麦わら帽子。
リディアは水色のタイトスカートに白いシャツ、肘先まである黒い夏用の上着。
ルディアはプリムと同じショート丈のグレーのフレアスパッツ、赤いポロシャツ。
レベッカは青い帯のついた白いワンピースだ。
ミーナはオーダーズギルドに出勤してるからこの場にはいないが、当然お洒落着を購入している。
だけどなんでかミーナが買ったのは、スカートまで白いセーラー服だったりする。
なんでヘリオスオーブにセーラー服があるのかだが、どうやら
「ありがとうございます、グランド・ハンターズマスター」
「ワシとしても、将来有望なハンターであるマナリース殿下が落ち込まれている姿は、見るに忍びないからのぅ。これぐらいは構わんよ」
グランド・ハンターズマスターの話では、そのマナリース姫はプリムが無事だったことを喜び、フィールまでついて来ようとしたそうだが、陛下や王太子のラインハルト第一王子に止められたんだそうだ。
本人としては大いに不満だったそうだが、今のフィールにハンターがいないという現状は理解してくれているから、懇意にしているレイドに頼み込んで、わざわざ派遣してくれたそうだからありがたい。
なにせ今のフィールには、俺達ウイング・クレストの他にはBランクレイドが1組、Cランクレイドが2組しかいないんだからな。
「話には聞いてたけど、フィールの状況はすごく良くないね。稼げはするんだろうけど、その分キツそうだ。おっと、自己紹介がまだだったね。私はホーリー・グレイブのリーダーをやっている、ファリス・リーンベルだ。エンシェントヒューマンに会えて嬉しいよ」
「そこまでですかね?エンシェントとか言われても、俺自身はあんまり自覚ありませんし」
そのレイド、ホーリー・グレイブは、グランド・ハンターズマスターと一緒にフィールに来てくれたんだが、人数は12人で、内5人がハイクラスに進化している。
俺の目の前にいるのは、そのホーリー・グレイブのリーダーで、Gランクハンターのハイフェアリー ファリス・リーンベルさんだ。
フェアリーの中でもさらに小柄で、身長は110センチ程度しかなく、それなのに身の丈程もある
「事前に説明はしておるが、ファリス君はもちろん、夫のクリフ君もかなりの実力者じゃし、他の者も歴戦の強者じゃ。ゴブリンの異常種ぐらいならば、おそらくは彼らだけでも狩れるじゃろう」
「よしてくださいよ、グランド・ハンターズマスター」
こっちのがっしりした体形のハイヒューマンが、ファリスさんの夫のクリフ・リーンベルさん。
180センチ近い長身で、見た目通り頼りになりそうな人だ。
他にもハイヒューマンで武闘士のバークスさん、槍を使うハイエルフのサリナさん、弓術士をしているハイヴァンパイアのクラリスさんがいる。
ちなみに武器は、ファリスさんとクリフさんは
「それじゃあ行きましょうか」
「ああ、すまないけど頼むよ」
今回フレデリカ侯爵の屋敷に呼ばれた理由は、プリムへの手紙とホーリー・グレイブの紹介だから、俺達から報告することはなかったりする。
挨拶もそこそこにフレデリカ侯爵の屋敷を後にした俺達は、まっすぐにハンターズギルドへ向かった。
まだ昼前だから十分狩りにいける時間だし、正式にハンターズマスターに就任したライナスのおっさんに挨拶はしときたいみたいだ。
ライナスのおっさんにしても、まさかホーリー・グレイブが来るとは思ってないだろうな。
「まさか、このタイミングでホーリー・グレイブが来るとはな。さすがに想定外だったが、こっちとしては助かる。なにせ指名依頼は、こいつらにしか頼めなかったんだからな」
ハンターズギルドのマスタールームに通されて、開口一番、ライナスのおっさんのセリフがこれだ。
気持ちはわかるし、俺達としても指名依頼が分散されるのは助かる。
特に緊急指名依頼なんかが重なったりすると、今までは俺とプリムしかいなかったから、その緊急依頼に優先順位をつけなきゃいけなかったんだからな。
「そんなとんでもない状況だったのに、この2人は苦も無く全ての依頼をこなしたって聞いてるけど?」
「それも事実だな。特にたった2日でマイライトの依頼を片してきた時なんか、本気で報告聞くのが怖かったからな」
「……どんな依頼だったんだよ、それって」
「エビル・ドレイク討伐だ。しかも体長10メートル以上もあったから、従来のG-Iランクじゃなく、もう1つ上になっててもおかしくなかったな」
あっさりと依頼内容をバラすライナスのおっさん。
人のプライバシーを、勝手に暴くんじゃねえよ。
「……もしかしなくてもこの2人、化け物なんじゃないのかい?」
「化け物だな。そうじゃなきゃ、それぞれが単独で異常種の討伐なんてできねえだろ?」
「無理だね。私だってできないよ」
驚くホーリー・グレイブをよそに、話を進めるライナスのおっさんとファリスさん。
だから人のプライバシーで盛り上がるなよ。
「エンシェントヒューマンにPランクの翼族って聞いてたけど、マジでとんでもなさすぎだろ」
「だよねぇ。しかも2人とも、まだ17歳なんでしょ?この先どこまでレベルが上がるのか、わかったもんじゃないわ」
「初のレベル100も、夢じゃないかもしれないわね」
バークスさん、サリナさん、クラリスさんも、勝手なことを口走ってるな。
最近はレベルも上がりにくくなってきてるから、さすがにそれは無理だと思うぞ。
「上がりにくくなっただけで、上がってはいるだろうが。昨日だってマーダー・ビーを、その前はゴブリン・プリンスを狩ってきてるじゃねえかよ」
だから人の戦果をバラすなよ。
ライナスのおっさんの言う通り、昨日ようやく、もう1匹いると思われていたマーダー・ビーを、その前の日にはゴブリン・プリンスを狩ったから、残ってる魔化結晶を使われた魔物はブルーレイク・ブル1匹とオーク2匹を残すのみとなっている。
ブルーレイク・ブルの異常種サージング・バッファローは、異常種にしては珍しく、積極的に人を襲ったりはしない魔物らしいので、漁師への危険も少ない。
だから後回しになってるんだが、問題はオークの方だ。
オークの希少種は何匹か狩ったが、異常種には出くわしたことがない。
ただでさえマイライトは広いから、簡単に見つけられないことはわかってたし、そっちの方にはあまり行ってないから、この分じゃいつ見つけられるかもまったくわからないんだが。
「オークか。マイライト山脈は広くて険しいし、森も深いから、見つけるのは簡単じゃないね。しかも今フィールにいるのは、君達ウイング・クレストを除くとBランクレイド1組、Cランクレイド2組だから、マイライトに向かってもらうには力不足だ」
「ああ。マイライトに行くなら最低でもSランク、欲を言えばハイクラスが数人は欲しい所だな」
それは俺達も同じ見解だ。
俺とプリムだけならともかく、みんなを連れてとなると、さすがに安全が確保できない。
だから最近は、遠出しても採掘場辺りまでが精々だ。
ちなみにこれが、今の俺達のライセンスだ。
ヤマト・ハイドランシア・ミカミ
17歳
Lv.65
人族・エンシェントヒューマン
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:プラチナ(P)
プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ
17歳
Lv.61
獣族・ハイフォクシー
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:プラチナ(P)
ミーナ・フォールハイト
17歳
Lv.27
人族・ヒューマン
ユニオン:ウイング・クレスト
オーダーズギルド:アミスター王国 フロート
オーダーズランク:カッパー(C)
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
フラム
18歳
Lv.23
妖族・ウンディーネ
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
リディア・ハイウインド
16歳
Lv.36
竜族・ハイドラゴニュート(氷竜)
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ハンターズランク:ブロンズ(B)
ルディア・ハイウインド
16歳
Lv.36
竜族・ハイドラゴニュート(火竜)
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ハンターズランク:ブロンズ(B)
ラウス
13歳
Lv.29
獣族・ウルフィー
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
レベッカ
13歳
Lv.26
妖族・ウンディーネ
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
こんな感じで、偏り具合が半端じゃない。
もしマイライトに行くとしたら、最低でもリディアとルディアがSランクになってからだな。
あ、プリムは昨日のマーダー・ビー討伐でレベルが上がったから、Pランクに昇格しているぞ。
「俺達としても、マイライトの調査はしなきゃいけないってわかってるんですけどね」
「仕方ないさ。場合によっては、私達5人と君達2人で調査ってことになるだろうね。もっとも、君達が王都から帰ってきてからになると思うけど」
ファリスさん達がフィールに来てくれた理由は、ハンターがいないってこともあるが、俺達がフィールを離れることになるからだ。
王都までマリアンヌ王女、サーシェス、バルバトスを護送し、ユーリアナ姫を送り届け、グランド・クラフターズマスターに合金の報告と、1日2日で終わるような内容でもないからな。
さらにミーナのご両親にご挨拶もしなきゃだし、陛下との謁見もあるって話だから、どう考えても数日、下手したら1ヶ月ぐらいはフィールに戻ってこれないんだよ。
マナリース姫もそれを分かった上で、ホーリー・グレイブを派遣してくれたから、俺達としてもありがたい話だ。
「さすがに今日は無理だけど、近い内にマイライトには行ってみるよ。うちはハイクラス5人だけど、他に連中もレベル40近いから、よっぽどのことがなければ大丈夫だからね」
質が量を覆すことができるヘリオスオーブだが、質ではカバーできないことがあるのも事実だ。
特に広範囲の捜索となると、どうしたって人手がいる。
俺とプリムは、ジェイドとフロライトに乗れば空から捜索できるが、それだって死角はあるから絶対じゃない。
「助かる。だが無理はするなよ?オークの異常種ってことはオーク・プリンスかプリンセスだが、あいつらはG-Iランクだし、その上の災害種に進化したやつだっているんだからな」
それが厄介な所だな。
レティセンシアの工作員が魔化結晶を使った魔物は、グラス・ウルフが3匹、ブルーレイク・ブルが2匹、フォレスト・ビーが2匹、トレントが1匹、ゴブリンが3匹、オークが2匹、そしてサーシェスの従魔だったフェザー・ドレイクだが、その中のグラス・ウルフとゴブリンには、災害種のブラック・フェンリルとゴブリン・クイーンに進化した個体もいた。
ブラック・フェンリルはG-C、ゴブリン・クイーンはS-Cランクモンスターだが、それでも災害種だから、2つ上のランクに相当する存在と言われている。
つまりブラック・フェンリルはMランク、ゴブリン・クイーンでさえPランクモンスター相当って事だ。
もしオークが災害種に進化していた場合、P-Cランクモンスター、つまりAランクモンスター相当になってしまう。
Aランクモンスターはヘリオスオーブでも数が少なく、見る機会そのものがないため、生態どころか姿形すら曖昧な魔物が多い。
仮に討伐隊を組むとしたら、ハイクラスだけで数十人は必要になり、しかもその内の何人が生きて帰って来られるかといった話になってしまうらしい。
その上のOランクモンスターは、討伐そのものが不可能とも言われているな。
「わかってるさ。というか、本当にキングやクイーンが生まれていたら、一目散に逃げるよ。私達だけじゃ勝ち目はないけど、逃げることぐらいはできるだろうからね」
相手がAランク相当とはいえ、ランクはP-Cだから、逃げることは可能だろうな。
あくまでも”相当”であって、そのランクの魔物ってわけじゃないし、オークは人型だから、動きも予測しやすい。
実際、亜人の災害種、キングやクイーンになるんだが、こいつらは何度も討伐履歴があるから、討伐隊を組むことができれば何とかなるだろうとも思う。
ただ気になるのは、ここまでフラグを立てると、マジで出てきそうな気がするってことだ。
フラグを立てる、ってのは、
願わくば、そんなとんでもない存在が出てこないことを祈るだけだ。
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