救国の褒賞
マリアンヌ王女とのやり取りを見て、強い子だと思っていたんだが、それは虚勢だったみたいだ。
「はしたない姿をお見せしました。もう大丈夫です。その……ありがとうございます」
「いえ、大丈夫なようならいいんです。お疲れ様でした」
俺から離れて、そんなことを言ってくるユーリアナ姫だが、眼尻には涙が浮かんでいるところを見るに、本当に怖かったんだろうな。
ハイヒューマン相手にあんな啖呵を切るんだから、それも無理もないのかもしれないが。
「ユーリ、大丈夫?」
「はい。プリムお姉様も、ありがとうございます。お2人がいてくださらなかったら、きっと私は、会おうとも思わなかったでしょうから」
それだけ信頼してくれてるってことなんだろうが、それでも怖いものは怖いはずだ。
一応慰めの言葉をかけはしたが、まだ震えてるからな。
「ところでプリム、いつ陛下からの書状の内容を聞いたんだ?」
プリムもその空気を察しているようで、別の話題を振ってみた。
いや、内容が内容だから、完全に別の話題ってわけでもないんだが。
「やっぱり覚えてないか。ミーナのことで頭が一杯だったから仕方ないんだろうけど、話はしっかり聞いとかないといけないんじゃない?」
そこまで言われて、何となく思い出してきた。
そういえば、ミーナのご両親に挨拶がどうとかって考えてた時に、そんな話をしてた気がする。
確かにそっちに意識が向いてたから、ほとんど内容は覚えてないが。
実際にグランド・ハンターズマスターやソフィア伯爵が帰ってきたのは、一昨日の夕方頃だ。
ユーリアナ姫宛の書状も預かってたそうだが、グランド・ハンターズマスターもソフィア伯爵も、肝心のユーリアナ姫がフィールに来てることは知らなかった。
だけどユーリアナ姫は、バリエンテから戻る際にフィールにも来る予定だったそうだから、それを見越して渡されたってことらしい。
フレデリカ侯爵に挨拶した後でアーキライト子爵の屋敷に赴き、ソフィア伯爵が直接手渡したんだそうだ。
俺達が呼ばれたのは昨日だが、その時にはユーリアナ姫は書状を読み終わってたから、話が終わってから教えてくれたってことか。
マリアンヌ王女との面会が今日になった理由は、昨日はユーリアナ姫の決心がつかなかったからだから、これは仕方ない。
「悪かったな。で、俺に対する褒賞は何だって?」
その書状には、俺への褒賞についても、軽く触れられていたらしい。
正直、褒賞にはあんまり興味がないんだが、話題を逸らす必要を感じるから、とりあえずだな。
「フィールを救い、多くの異常種や災害種を倒されていますから、騎爵位を贈りたいみたいですね。その場合はオーダーズギルドに登録していただくことになりますけど、大和様はエンシェントハンターでもありますから、アウトサイド・オーダーとして登録されることになります」
騎爵っていうと、当代限りの爵位だけど、貴族とは違うって話だったな。
それにアウトサイド・オーダーで登録ができるんなら、オーダーとしての仕事は緊急時以外はしなくてもいいってことになるけど、戦闘用の
完全にアミスターに所属ってことになるけど、アミスターには特に不満はないし、俺の立ち位置をはっきりさせるって意味でも悪くはない。
「昨日も思ったんだけど、アウトサイド・オーダーとはいえ、大和がオーダーズギルドに登録するってことは、いきなりOランクオーダーってことになるわよね?」
「いや、ちょっと待て。なんでそうなるんだよ?」
「忘れたの?Oランクオーダーになるための条件は、エンシェントクラスに進化してることよ?」
そうだった!
昨日フレデリカ侯爵に教えてもらったってのに、完全に忘れてた!
「い、いや、だけど登録して1年は、Tランクから昇格できないって話だろ?それに俺にはオーダーはおろか、ハンターとしての実績だって少ないんだから、いくら条件を満たしてても、さすがにOランクオーダーはないだろ?」
オーダーズランクは一足飛びに昇格することがあるが、だからといって登録と同時にOランクなんて、さすがにあり得ないだろ。
「インサイド・オーダーならそうみたいですが、アウトサイド・オーダーの中には、大和様のように褒賞として騎爵位を賜り、登録を許された方もいますよ。その方達は登録と同時にGランクオーダーになっていますから、大和様がいきなりOランクオーダーになっても、おかしくはないと思います」
ユーリアナ姫から、全く嬉しくない情報がもたらされた。
そのGランクのアウトサイド・オーダーは、ハイハンターが多いらしいが、それでも叙爵されてるのは数人だけらしい。
だがハイハンターの経験が足りないってことはあり得ないし、国王陛下からの褒賞でもあるわけだから、一気にGランクオーダーとして登録ができるってことみたいだ。
つまりその線でいくと、マジで俺は、いきなりOランクオーダーになってしまう可能性があるってことになる。
「イヤなの?」
「そういうわけじゃないし、
「ああ、そういえばそうだったわね。つまりそんな自分が、いきなり最上位のOランクオーダーになるのは抵抗があるってこと?」
「有体に言えばな」
そう、俺はヘリオスオーブに来た時点で、既にハイヒューマンだった。
つまり魔法を使ったり、狩りをしたりしてレベルを上げたわけじゃない。
刻印術のことがあるし、父さん達につけてもらった修行はガチで死にそうだったから、それは関係してるとは思うが、それでも実戦経験は、一般的なハイクラスより少ないと言ってもいいだろう。
「でしたら規定通りGランク、いえ、大和様のお力を考えたら、最低でもPランクオーダーが相応しいと思います。もちろん、判断されるのはお父様ですから、どうなるかはわかりませんが」
確かに国王陛下は、グランド・オーダーズマスターより上の立場になるから、国王が決めたら覆せないよな。
「それと、まだ確定じゃないけど、陛下はユーリかマナを、あんたに嫁がせてもいいって考えてるみたいよ」
……マジか。
ある意味一番困る褒賞なんけどな、それ。
「私としては嬉しいです!まだお父様も、今回の事をご存知じゃありませんけど、それでも私達が望めばと仰ってくださっていますから!」
花が咲いたような、満面の笑みを浮かべるお姫様。
助けてからずっと、俺の嫁になるって言ってたからな。
王様がそう考えてるってことは、ユーリアナ姫としてはほとんど決まりに近いんじゃんかろうか?
「ユーリはあたしにとっても妹みたいなもんだから、できれば希望を叶えてあげたいわ。というわけで大和、あたしとミーナ、フラムは賛成してるからね」
しかも既に、外堀は埋め尽くされていますのか。
「話はわかったが、さすがにここじゃ決められないだろ。陛下に会えるなら、その時に聞いて、それからだな。ただ俺としても、みんなの許可があるんなら、受け入れるのは吝かじゃない」
ヘリオスオーブの結婚観も、ミーナを受け入れてから、少しは理解できるようになってきたからな。
それに打算がないわけじゃない。
ユーリアナ姫を受け入れてしまえば、他国のお姫様を押し付けられることもなくなるだろうし、
「さて、いつまでもこんなとこにいないで、戻るとしよう。報告もしなきゃいけないしな」
「そうね。明日グランド・ハンターズマスターが王都に行かれるし、その時にあたしのことも頼まないといけないから、手紙を書かないとだし」
「プリムお姉様のことは、私も手紙に書いてあります。どうしようか迷ったんですけど、お姉様があれだけ心配されていましたから、やっぱりお伝えしておくべきだと思いましたから」
ユーリアナ姫との結婚のことで不安要素があるとしたら、やっぱりこれになるよな。
ソフィア伯爵から聞いたんだが、王都ではプリムやアプリコットさんが生存し、亡命を希望した場合、受け入れる用意があるって話だ。
だから問題はないと思うし、プリムもそれを理解した上で、ユーリアナ姫を受け入れることにしたんだろうから、お互いに打算に塗れてる気もするな。
まあ、プリムがユーリアナ姫を可愛がってるのも間違いないから、そっちの比重の方が大きいんだろうが。
ソフィア伯爵は、プリムやアプリコットさんのことを伝えていないそうだが、これはレティセンシアとの間で開戦する可能性が高いからで、そのタイミングでバリエンテと事を構えるのは得策じゃないって判断したからだ。
もちろん、後で処罰が下るかもしれないが、それを承知で黙っててくれたんだから、ホントに感謝だよ。
プリムも感謝してたし、手紙にはそのことも書くだろうけど、俺からも何かお礼しないといけないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます