2人の王女
翌日の夕方、俺達は再び、フレデリカ侯爵の屋敷に呼ばれることになった。
今回はエドとマリーナ、昼に奴隷から解放されたフィーナも一緒だ。
「連日来てもらって申し訳ないけど、エドワード君も同行を快諾してくれたから、改めて予定を決めてしまおうと思ってね」
なんでも魔導具を使うそうなんだが、その魔導具、魔法の女神像が持っている本みたいな形状をしていて、それに内容を記入し、グランド・クラフターズマスターのみが使える
グランド・クラフターズマスターにしか使えないから、伝令とかを使って公表するよりも早く、確実にアミスター国内に広められることになる。
だから伝達途中で、ソレムネやレティセンシアに知られる恐れも無い。
その魔導具を使えば、今回みたいなこともすぐに連絡できるんじゃないかと思ったんだが、残念ながら製法や技術の公開に用途を限定しているため、それは無理なんだと。
グランド・クラフターズマスターにしか使えないし、使えたとしても厳しいのは間違いないか。
その関係で、エドも王都に行くことになったんだが、ついでに結婚の報告も兼ねることになっている。
「まさかグランド・ハンターズマスターに、王都まで連れて行ってもらうことになるなんてねぇ……」
マリーナが、若干遠い目をしながら呟く。
最初は俺達に護衛してもらいながら王都に向かうつもりでいたエド達だが、領代やグランド・ハンターズマスターも事の重大性を理解しているから、喜んで協力してくれることになっている。
さすがにグランド・ハンターズマスターには報酬の1つも必要になるだろうから、リチャードさんが
「エドワード君が公表する合金という技術は、それだけ重要度が高いのよ」
「ああ。特に
「つまり相手からしたら、あなたの身柄を抑えることが重要になってくるのよ。そうなってしまえば、そこから
リベルターにも
だからソレムネが
さらにその
だがリベルターを占領できれば、その隣のレティセンシアは相手にならないから、すぐにでも占領して、アミスターと国境を接することになるだろう。
「気になってたんだけど、ソレムネにはギルドがないよな?」
「ええ。元々はプリスターズギルドだけが、排除の対象だったのよ。宗教は惰弱な考えだから、強者であるソレムネには必要ないって。それでプリスターズギルドだけじゃなく、全ての宗教を追放したの」
それは知ってる。
フレデリカ侯爵は追放っていう穏やかな表現を使ったが、実際に行われたのは虐殺で、プリスターズギルドは関係者ごと皆殺しにされたそうだからな。
その非道さに怒ったのがハンターズ、クラフターズ、トレーダーズ、バトラーズギルドで、すぐにソレムネからの撤退したんだが、帝王はギルドすら疎んでいたから、嬉々として追い出したとか。
だから今のソレムネには、
「じゃあどうやって、合金を作るつもりなんだ?いや、別に魔法を使わなくても、物理的に作れなくはないと思うけど」
これは俺だけの疑問じゃなく、みんなも多かれ少なかれ思っていたことだ。
魔導具を使えば多少の問題は解決されるんだが、その魔導具は付与魔法を使って作られているから、
残るのは俺の世界のように、設備を整えて、人力で行うことぐらいだろう。
「ソレムネは他国との国交も、ほとんど断絶状態だから、内情はよくわかっていないのよ。ハンターズギルドがないから、ハンターだって滅多に行かないそうだし」
ハンターがソレムネに行くとしたら、
だけどソレムネに限らず、
ソレムネはハンターの来訪は黙認しているが、その理由は自分達の手を煩わせずに
だから余程の物好きしか、ソレムネには行かないそうだ。
さらに隣国の島国トラレンシアとは小競り合いが絶えないから、船も出ていない。
確かにそんな国、行く価値を見出せないな。
だけどその
食料自給率なんて、150%を超えてるって話だから、どんな人間でも餓える心配は皆無に近いんだとか。
「わからないことを、ここで考えてても仕方ないわよ。今は王都まで、ユーリやエド達の護衛をすることを考えましょう」
プリムの言う通りだな。
だけど実際問題として、王都まではグランド・ハンターズマスターのトラベリングでだし、王都に着いたらすぐに引き渡せるように手筈を整えてくれてるそうだから、注意しなきゃいけないのはユーリアナ姫の身辺と、グランド・ハンターズマスターがトラベリングを使う瞬間ぐらいか。
エドに関しては、グランド・クラフターズマスターに報告するまでは、しっかりと張り付いとかないといけないだろうが。
「それと、あなた達が快諾してくれたことを王都にも伝えなければならないから、もう一度グランド・ハンターズマスターが、王都まで行って下さることになっているわ」
申し訳なさそうな顔をする領代達だが、気持ちはわかる。
グランド・ハンターズマスターっていうハンターズギルドのトップであり、さらにエンシェントウルフィーでもあるんだから、そんな人を伝令代わりに使うなんて、普通ならあり得ないからな。
「ハンターズギルドの不手際が原因でもあるんじゃから、ワシとしてはこれぐらい、なんて事はない。それよりもフレデリカ侯爵、もう1つの方はよろしいのか?」
「そうですね。グランド・ハンターズマスターが王都に行って下さるのは明日なんだけど、その前にユーリアナ殿下に、マリアンヌ王女と面会してもらうことになりました。だから大和君、プリムローズ嬢、あなた達に殿下の護衛をお願いしたいんだけど、頼めるかしら?」
王都から第一王子なり第二王女なりを連れてくればとも思ったが、その次はあいつらの引き渡しになるから、それまでに一度は王家の者が会っておく必要があるってことか。
以前もそんな話をしてたし、その場合は護衛ぐらいはするつもりだったから、何も問題はないな。
「わかりました」
「もちろんよ。ユーリには指一本、触れさせないわ」
プリムにとって、ユーリアナ姫は妹みたいなもんだからな。
「それで、これからですか?」
「悪いけど頼める?」
「よろしくお願いします、大和様、プリムお姉様」
「任せておいて。不審な動きをしたら、すぐに止めるから」
今回もニブルヘイム辺りを使っておくか。
我ながらワンパターンだと思うが、こんな時は便利だし、使いやすいんだから仕方ないよな。
Side・プリム
フレデリカ侯爵の要請に従って、あたしと大和はユーリの護衛についている。
ユーリが、侯爵別邸の一室に軟禁されているレティセンシアの王女に会うためなんだけど、一国の王女が護衛も無しに犯罪者と会うわけにはいかないし、なによりその王女、マリアンヌ・レティセンシアはハイヒューマンだから、隷属魔法で行動を縛っているとはいえ、生半可な実力者じゃ逆にやられてしまう可能性がある。
だからあたしと大和にってことなんだけど、あたしにとってもユーリは妹だから、二つ返事で引き受けたわ。
大和も首を縦に振ってくれたし、既にミラー・リングを生成してニブルヘイムを発動させているから、万が一の事態が起きても簡単に制圧することができると思う。
「初めまして、マリアンヌ・レティセンシア王女。私はアミスター王国第三王女、ユーリアナ・レイナ・アミスターと申します」
「アミスターの王女だと?そうか、ようやく自分達の非を認め、私を解放する気になったか」
勘違いも甚だしいわね。
なんでそんな自分に都合のいいことばかり考えられるのか、理解に苦しむわ。
「仰っている意味がわかりませんね。そもそも今回の件は、明らかにレティセンシア側の侵略行為です。しかもハンターまで利用しているのですから、既にグランド・ハンターズマスターも動かれていますよ」
「だからどうした?たかがハンターごときの元締めが動いたところで、レティセンシアを動かすことなどできん」
グランド・ハンターズマスターにそんなことを言うなんて、命知らずにも程があるわね。
だけどいくら何でも、エンシェントウルフィーの力を見くびりすぎでしょう。
どうせ魔化結晶があるからとでも思ってるんだろうけど、そもそも自分達じゃ対処できないんだから、最終的にはハンターの力を借りることになる。
そのハンターの元締めを見下すなんて、ハンターの力を借りれなくなるわよ?
「なるほど、次期皇王とは言っても、所詮はその程度ですか。まあ、彼我の実力を測れないどころか、真実すら捻じ曲げるレティセンシア王家に、何を言っても無駄だということは知っていましたが」
「小娘の分際で、この私を侮辱するつもりか!」
「おっと、動くなよ。それ以上動いたら、また氷り付くことになるぞ?」
怒りの形相を浮かべてユーリに襲い掛かろうとしたマリアンヌだけど、大和がニブルヘイムで動きを止め、剣を突き付けた。
いくら魔法を封じられているとはいえ、ユーリに襲い掛かろうなんて、短慮にも程があるわ。
「ありがとうございます、大和様。ではマリアンヌ王女、あなたを侮辱したということですが、あなたがグランド・ハンターズマスターを見下している最大の理由は、アバリシアからもたらされたという魔化結晶があるからですよね?」
「当然だ。どんな魔物でも異常種に進化させることができる魔化結晶。あれさえあれば、アミスターどころかソレムネやバレンティア、トラレンシアでさえ、我が国の前に屈することになる」
確かに異常種が群れを成して襲ってきたら、ハイクラスであってもタダではすまない。
ノーマルクラスなら尚更ね。
あ、ノーマルクラスっていうのは、ハイクラスに進化する前の人達のことよ。
ハイクラスに進化できる人の方が少ないから、ほとんどの人がノーマルクラスになるんだけどね。
その異常種を使って、各国を襲撃しようって考えは持ってるだろうけど、その後はどうするつもりなのか、あたしとしてはそっちを聞いてみたい。
「その異常種ですが、どうやって制御するつもりなのですか?そもそも異常種は、制御などできません。制御出来るようなら、町や村が滅ぶようなこともないでしょうから。しかもあなた方は、自分達が進化させたマーダー・ビーによって天然の結界を壊され、工作員もほとんどが殺されたと聞いていますよ?」
「簡単なことだ。従魔や召喚獣にすればいい。どちらも契約者を裏切ることはないのだからな」
やっぱりそう考えてたか。
確かに従魔魔法は
エビル・ドレイクでさえ、サーシェスに従っていたでしょうからね。
だけどその考えには、大きな落とし穴があるのよね。
「つまり、
「何だと?」
ユーリの言葉に、またしても顔を歪めるマリアンヌ。
というか、本当に気付いてないみたいだわ。
「では聞きますが、あなたは
「……私には使えない」
隷属魔法の効果で、偽証も沈黙も禁止されてるから、素直に答えるしかないのよね。
そして予想通り、この女は
魔力を全身に巡らせることで、フィジカリングやマナリングに似た効果を出すことはできるけど、これは魔法じゃないから、神を信仰していないソレムネやレティセンシアでも使うことができる。
だからこそソレムネは、他国に戦争を仕掛けることができるって言えるわね。
「あなたの国で、
「……ギルドに登録している者は使える。だが他の者は、おそらくは無理だろう」
「あなたの国で信仰されている神はどなたですか?」
「……アバリシア様だ」
話には聞いたことがあるけど、王女の口から断言されると、結構な衝撃がくるわね。
アバリシアって、グラーディア大陸で信仰されてるっていうアバリシア正教の主神じゃない。
確か12柱の女神様は、父なる神に騙され、捕らえられていて、本来の創造神であるアバリシアの名の下に女神様を救い出そうとかっていう、わけのわからない教義があったはず。
そもそもアバリシア正教がフィリアス大陸に伝わってきたのは、確かアバリシアの侵攻と同時期だったはずだから、あたし達からしたら意味不明の新興宗教、邪教に過ぎないわ。
そのアバリシア正教を信仰してるということは、完全にアバリシアの属国に成り下がってるわね。
「なるほど、グラーディア大陸で信仰されている邪教ですか。ということはギルド登録者であっても、使える方は少なそうですね。違いますか?」
「……そういう報告があると聞いた覚えはある」
「さらに言わせてもらうと、あなた方が頼りにしている従魔魔法も召喚魔法も、どちらも
まったくもってその通りね。
つまり、全くの無策ということになるわね。
「お兄様から聞いてはいましたが、やはりレティセンシアには滅んで頂くしかないでしょう。これだけの事をされたのですから、いかにアミスター王家が戦を好まないとはいえ、黙っているわけにはいきませんから」
ライ兄様?
あの人、何か知ってたの?
「王都でレティセンシアのハンターと揉めたことがあるそうですが、その時にアバリシアの名を出されたことがあるそうです。それが昨年の話ですから、かなり前からレティセンシアは、アバリシアの属国になっていたということでしょうね」
ああ、なるほど。
バリエンテはアミスターが間にあるし、レティセンシアとしても魅力を感じてないみたいだから、バリエンテに来るレティセンシアのハンターはいなかったってことなのね。
ということは王都に限らず、レティセンシア方面の街じゃ、それなりに問題が起きてそうだわ。
「それと、お父様から、アミスター王国国王からの言伝です。『レティセンシアが正式に謝罪し、アバリシア正教を含むアバリシアの影響力を完全に排除しない限り、アミスターとしては戦争も辞さない。その場合、暗愚なレティセンシア王家の首だけではなく、それに追従した愚鈍な貴族の首も差し出してもらう。それに先立ち、マリアンヌ・レティセンシア王女、サーシェス・トレンネル、バルバトス・ジャヴァリーは王都で公開処刑とする』です」
その話も、昨日ユーリから聞いてるから、あたし達はもちろん、領代やグランド・ハンターズマスターも知っている。
ソフィア伯爵が陛下からの書状を預かっていて、そこに記されていたそうなのよ。
他にも大和への褒賞についても、少しだけ触れられてたから、王都に行ったら謁見することになるのは確実ね。
って、大和が少し驚いてるけど、なんでよ?
あんたも聞いてたはずでしょうに。
ああ、ミーナのご両親する挨拶で頭が一杯で、そこまでは覚えてないってことか。
「なっ!?わ、私を処刑するというのか!?」
「当然ではありませんか。むしろあれだけのことをしておいて、御自分は無事に皇都に帰れるとでも思っていたのですか?」
ユーリがそう告げると、王女は思ってもいなかったとばかりに大きく目を見開いた。
「馬鹿な!?そんなことをすればレティセンシアはもとより、アバリシアも黙ってはおらんぞ!」
「先程も申しましたよね?アミスターは戦争も辞さないと。もしあなたの処刑を理由に挙兵すれば、アミスターは全力を以て迎え撃ち、皇都を攻めることになるでしょう。その覚悟があれば、挙兵でも何でもお好きにされればよろしいかと。処刑されるあなたに仰っても、意味はありませんが」
アミスターとレティセンシアの国力は、全てにおいて、圧倒的にアミスターが勝っている。
アミスターが兵を挙げれば、レティセンシアは瞬く間に全土を占領されるだろうことは、他国の子供でも知っている。
なのにレティセンシアは、その現実を見ようともせず、それどころか度々アミスターに文句を言ってきてたんだから、よく今までアミスターが黙っていたと感心するほどよ。
だけど今回の件は、温厚なアミスター王家にとっても、許容できる範囲を超えていた。
それでも猶予を設けてるから、いきなり宣戦布告されるよりはマシでしょうに。
もっともレティセンシアが、アミスターの要求を呑むとは思えないけど。
「ば、バカな……。ではアミスターは、レティセンシアを滅ぼすというのか!?」
「それは皇王の出方次第かと。あなた程度の命では足りませんが、公式に謝罪し、こちらの要求を呑めば、滅ぼすまではしないでしょう。もっとも愚鈍な皇王家が、それを認めるとは思えませんが」
「アバリシア正教を含む、全ての影響を排除だと?そんな馬鹿なこと、本気で出来るとでも思っているのか!?」
「処刑されるあなたには、関係のない話でしょう?それに出来るかどうかではなく、やらなければアミスターがレティセンシアを滅ぼすことになるだけですから、結果的には同じです。ですが戦争となると、オーダーズギルドを動かさなければなりません。当然お金も掛かりますし、怪我をしたり亡くなったりしたら、見舞金だって必要になります。何よりオーダーも、大切な国民です。何故、レティセンシアごときを滅ぼすために使わなければならないのでしょうか?」
ユーリにしては辛辣だけど、さすがに王家の教育を受けてるだけあるわ。
内心じゃ震えてるでしょうけど、あたしや大和が護衛に付いてるからか、ハッキリとものを言えているし、態度に出すようなこともしていない。
グラーディア大陸が、というかアバリシアがフィリアス大陸に侵攻してきたのは、今から200年前と言われてるけど、その時はフィリアス大陸の国家が団結し、撃退することに成功した。
以降もアバリシアは、何度かフィリアス大陸に軍を送り込んできているけど、その都度連合を組んで撃退している。
だけど国によって軍事力、派遣できる人員には質、量ともに大きな差がある。
だから、今までは撃退できてもこれからは保証はないということで、当時のソレムネ帝王がフィリアス大陸に統一国家を作るべきだと宣言して、周辺国を瞬く間に滅ぼしてしまった。
それに対抗するためにいくつかの小国が併合、合併、吸収を繰り返して建国されたのがリベルター連邦、そしてレティセンシア皇国なんだけど、それがまた帝王の癇に障ることになり、当時のアミスターやバレンティアをも巻き込んで、戦乱の時代に突入することになる。
バリエンテ連合王国が建国され、バシオン教国が割譲されたのもこの頃になるわ。
つまり現在のフィリアス大陸の情勢は、アバリシアによる侵略を問題視したソレムネ帝王による強行が原因なのよ。
代々のソレムネ帝王がフィリアス大陸統一を掲げているのも、全てはアバリシアを倒すためね。
もっとも、それは建前だって、どこの国も知ってるけど。
だけどレティセンシアは、いつからかはわからないけど、完全なるアバリシアの属国に成り下がってしまっていた。
アバリシアとしてもアミスターが手強いことは知っているから、国力の劣るレティセンシアを標的に絞り、レティセンシアを足掛かりにしてフィリアス大陸を戦火に包み、ヘリオスオーブの統一を果たすつもりだったんでしょうね。
「そしてレティセンシアは、フィリアス大陸で最初にアバリシアに従属した国家ってことで、フィリアス大陸にある国々の中では優遇されることになる。つまりレティセンシア王家は目先の利益に目が曇って、国はもちろん、この大陸をアバリシアに売ったってことか」
「貴様、我がレティセンシア王家を侮辱するのか!?」
「我が身可愛さに国を売り、大陸まで売り、自分達が安穏と過ごそうとしてたことが侮辱じゃなければ、何が侮辱なんですかねぇ?教えてもらえますか?高貴なお姫様?」
大和も怒ってるわね。
すごく慇懃無礼な態度だけど、この王女に対する態度としては正しいと思う。
あたしだって気分が悪いわ。
「聞きたいことは聞かせていただきましたから、もうあなたに用はありません。王都に護送する際にまた顔を合わせることになりますけど、それ以外でお会いすることはもうないでしょう。残り少ない命、しっかりと噛みしめて生きてくださいね」
ユーリの宣言で顔色を変えた王女様には目もくれず、あたし達は部屋から出た。
出る直前に王女様が恨みがましい視線を向けてきたけど、もうあんたにできることは何もないのよ。
ユーリの言う通り、残り少ない命を噛みしめて、処刑に怯えながら、その日まで生きるといいわ。
「大丈夫ですか?」
「ご、ごめん、なさい……。少しだけ……少しだけでいいので、このままでいさせてください……」
部屋を出ると、ユーリが大和に抱き着いた。
すごく震えてるし、やっぱり怖かったのね。
隷属魔法は魔法の使用を禁じているけど、魔力を全身に巡らせる身体強化は、使い方によっては魔法とは認識されないから、ユーリが襲われていた可能性はあった。
マリアンヌはレベル46のハイヒューマンだから、レベル15のユーリの命なんて、簡単に断つことができてしまうんだから。
あたし達だってそんなことをさせるつもりはなかったけど、可能性があったというだけでも、ユーリの心労は計り知れない。
だから大和に抱き着くことで、少しでも心を癒せるなら、それぐらいは許容してあげないとね。
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