試作翡翠合金武具
リディアとルディアの武器、それからコートのデザインも決め終わった。
普通ならこれからハンターズギルドに行くことになるんだが、俺とプリムにはもう1つ、聞かなきゃならないことがある。
「エド、俺の剣とプリムの槍って、今どんな感じなんだ?」
「もうちょいって感じだな。だけど確かタロスさんが、従来の方法でできるか試してたから、形になったのはあったはずだ」
まだできてなかったか。
だけど従来の方法って、ヘリオスオーブの一般的な方法ってことだよな?
何でそんなことを?
「俺やじいちゃん、タロスさんは、お前から教えてもらった日本刀とやらの打ち方を取り入れてるが、他のクラフターは、基本的に今までの製法で作るだろ?」
「なるほどな。だから今までのやり方で、どれぐらい魔力を使うかってのを調べてたのか」
「正解だ。っつっても、さすがに
つまり
「それ、売ってもらうわけにはいかない?」
「聞いてみないとわからねえが、そんなことを聞くってことは、さては壊れたか?」
「ああ。昨日、連中を捕まえた後でな」
「普通なら、こんなに早く壊しやがって、って文句の1つも言うとこだが、使い手がお前らなんだから、逆によく持ったってとこだな」
「だね。何体も異常種や災害種を倒してるんだから、今まで使えてたことが驚きだよ」
俺のミスリルブレードもプリムのミスリルハルバードも、けっこうな数の異常種や災害種を倒してるからな。
鉄はもちろん、
なのに俺達は、ゴブリン・クイーン、エビル・ドレイク、カース・トレント、マーダー・ビー、デビル・メガロドン×2、マッド・ボアと、けっこうな数の異常種、災害種を倒すのに使ってるから、エドやマリーナの言うように、よく持ったって言っても過言じゃない。
もっとも実際にトドメを刺したのはプリムの方が多いから、ミスリルブレードの方は、エンシェントヒューマンに進化した俺の魔力に耐えられなかったのかもしれないが。
「そういうことなら、直接タロスさんに聞いてくれ」
そう言うと、エドは工房に引っ込み、しばらくするとタロスさんを連れてきてくれた。
「エドから話は聞いた。武器が壊れたんだって?」
「ええ。これです」
俺もプリムも、ストレージから壊れてしまった武器を取り出した。
俺のミスリルブレードは、刃毀れしまくってる上に折れていて、プリムのミスリルハルバードなんて穂先が崩れ落ちちまってるから、さすがにどうしようもない。
「確かに、これはどうしようもないな。僅か2週間で、と言いたいところだが、君達の戦果からすれば、こうなっても当然か」
タロスさんの目に、驚きとも呆れともつかない色が浮かんでいる。
改めてこいつらを使って倒した異常種や災害種を説明すると、さらに呆れられちまったが。
「それだけの数の異常種を倒していたとは、さすが師の作と言うべきか。そうなると、今君達が持ってる剣や槍じゃ、一度使っただけで壊れてしまいそうな気がするな」
実際問題として、既に何本も使い潰してるんだよな。
だから
「わかった。俺が打った武器は、君達に渡そう。だが試作でもあるから、いくら
「ありがとうございます」
「助かるわ」
「値段は……そうだな、発案は大和君だし、試作でもあるから、1万エルでどうだ?」
タロスさんが快く承諾してくれて助かったが、その値段は安すぎませんかね?
「いや、それは安すぎるでしょう。まだ公表してないから値段が付けにくいとはいっても、その倍は確実なんだから」
「そうよ。それに無理を言ってるのはこっちなんだから、そのお値段じゃ、逆にこっちの気が引けちゃうわ」
「そう言ってくれるのはありがたいが、テストにもなるわけだしな。本来、新しい技術で作った武具は、クラフターズギルドがハンターやオーダーに品評依頼を出し、それを報酬にしてるんだぞ?」
品評依頼ってのは初めて聞いたが、俺達は発案者なんだから、そもそもその依頼を出す側じゃなかろうか?
「大和が提案したんだから、あたし達だって依頼者側でしょ?」
「それは……確かにそう言えなくもないが……」
「というわけで、お値段は2万エルで決定ということで」
「わかったよ。今持ってくるから、少し待っててくれ」
プリムの決定に、タロスさんが苦笑しながら工房に下がった。
俺としても一安心だ。
「お前らも変わってるよな。普通、買う側が値段を釣り上げるなんてしないぞ?」
エドも呆れているが、こいつと初めて会った時は、もっと熾烈な戦いを繰り広げたんだから、それと比べれば穏便だろ。
「お待たせ。これが大和君の刀とプリムさんの槍だ。希望通りのデザインになっていると思うが、形を見るだけのつもりだったから、色は
「
リチャードさんも来たのか。
後で進捗状況を聞いてみよう。
っと、これが俺の刀、そしてプリムの槍か。
「す、すごい綺麗ね……」
「ですね……」
ルディアとミーナが、その美しさに息を飲んでいる。
「聞いてはいたけど、すごいデザインですね」
「だよねぇ。特にプリムさんの槍なんて、ハルバードなんかより、よっぽど使いにくそうだよぉ」
ラウスとレベッカは、見た目の奇抜さに、若干呆れてる気がする。
「別にいいでしょ。それじゃ失礼して……。うわぁ……すっごく手に馴染むわ。これが試作なんて、とてもじゃないけど信じられない……」
俺も刀を受け取り、鞘から抜く。
すると、翡翠色をした美しい刀身が姿を現した。
「こっちも馴染むな。それに軽いから、取り回しも楽そうだ」
「マナリングを使ってみてくれ」
「わかりました」
俺もプリムも、今までと同じ感じでマナリングを使い、武器の強化を始める。
おお、
「ふむ、これはすごいのぅ。初めての武器じゃと、どうしても魔力の流れが不均等になりがちじゃ。じゃが2人は、しっかりと均一に流しておるし、
俺が合金を提案したのもそれが最大の目的だったから、実際に分かるとすごくありがたく感じる。
「問題があるとすれば、大和君はエンシェントヒューマン、翼族のプリム嬢ちゃんも近い魔力を持っておるようじゃから、テストには向かんということじゃな。まあ、そこはハイクラスのハンターなりオーダーなりに、品評依頼を出せばええじゃろう」
エンシェントクラスが使えるんなら、ハイクラスでも問題なく使えるのは間違いない。
だけどエンシェントクラスは、俺以外はグランド・ハンターズマスターしかいないし、プリムは翼族だから、普通のハイクラスより魔力量は多いし、質も高い。
だから新武器の品評に向かないってのは、ある意味じゃ仕方ないことだ。
「さっきも言ったが、これはあくまでも形を見るために打った物だ。もちろん精魂込めて打っているが、過信だけはしないでくれ」
「わかってます」
「勿論よ」
試作の試作みたいなもんだから、銘もないんだよな。
だけど名前がないとイークイッピングが使えないから、取り合えず試作翡翠合金刀、試作翡翠合金斧槍と呼ぶことにしよう。
「それでいい。試作にちゃんとした銘を付けられても困るからね」
それを伝えると、タロスさんも笑って承諾してくれた。
「それにしても、これが試作って凄いわね」
「だよね。
「
「私達の武器って、この
「それは俺も同感」
「というかハイクラスでもないんだから、
ルディア、リディア、ミーナ、レベッカ、ラウス、フラムがそんなことを言ってるが、せっかくなんだから使ってくれ。
「ところでリチャードさん、
「さすがに大変じゃな。じゃが大和君から聞いた日本刀の製法も、多少じゃが理解できたから、今日から本格的に製作に入るつもりじゃ。まだ納期は未定としか言えんが、それでも1ヶ月もかからんじゃろう」
それは朗報だ。
この試作翡翠合金刀や試作翡翠合金斧槍なら、1ヶ月どころか1年でも大丈夫だろうが、その名の通り試作品だし、何より俺もプリムも楽しみにしてるから、早くできるんならそれに越したことはない。
「それとコートの方だけどな、あと3日くれ。そうすればリディアとルディアのも、まとめて渡せるからな」
「わかった、3日後だな。それで頼む」
コートの方は、俺とプリム、ミーナの分は、後は微調整だけらしいんだが、全員のをまとめて貰えるんなら、そっちの方がいい。
残ってたウインガー・ドレイクを、プラダ村に行く前にクラフターズギルドで解体してもらっておいたたんだが、正解だったな。
おかげで、ウインガー・ドレイクの在庫が無くなっちまったが。
近い内に、また狩りに行くか。
その後、
エドとマリーナは、コートを仕立てなきゃってことですぐに工房に戻り、俺達は試し斬りも兼ねて依頼を受けたんだが、そこでゴブリン・プリンスに出くわすことになるとは思わなかった。
試作品の試し斬りとしては最適な相手だったんだけどな。
魔力を今まで以上に流しても問題なかったし、つっかかりや魔力疲労も感じられなかったから、
そして3日後、アルベルト工房でコートを受け取った俺達は、その足でフレデリカ侯爵の屋敷へ向かった。
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