合金完成
Side・マリーナ
大和とプリムに急かされて、エドが工房に寝かせておいたインゴットを持ってきた。
エドはフェアリーハーフ・ドワーフだから、普通のドワーフより魔力は多いんだけど、そのエドでも、三種混合合金は一度に2つ、頑張っても3つ作れるかだって言っていたから、実際に作れるクラフターはかなり少ないと思うんだけど、大和にアドバイスをもらって試してみたら、すっごく楽になったって言ってたよ。
「緑色のインゴットが
プリムのお母さん、アプリコットさんには初めて会ったけど、プリムに似て、綺麗というより可憐な人だよね。
「それじゃ早速試してみるぞ」
「ええ、お願い」
「わかった。それじゃ相性が良いだろうから、
「おう。『メジャーリング』」
アミスター在住のクラフターとしても、けっこう興味深いよ。
エドがそれぞれのインゴットの魔力強度、硬度、魔法伝達率を調べるために、メジャーリングを使うと、一番左の緑色をしたインゴットに、エドの魔力が吸い込まれるように消えていった。
メジャーリングは
精度は使用者の魔力に左右されるけど、大まかな大きさとか重さとかはちゃんと計測できるから、
ちなみに鉱物の重さはそういうものだって認識されてるから、普段は気にしないんだけど、今回は
このインゴットの重さは、鉄だと1キロだから、1,000グラムってことにして、それを基準にすることになるかな。
「6,6,7,800か。微妙だな、こいつは」
だね。
確かそのインゴットは、
金属は魔力強度、硬度、魔力伝達率の順番に、鉄をオール5として10段階の数字で表してるんだけど、
四つ目の数値は重さになってて、800グラムあるってことになる。
だけどこのインゴットは、魔力強度は
というか、費用効果を考えても、
「まあ、最初から成功するとは思ってなかったしな。それにこういうこともあるって思ったから、配分を変えていくつか作ってるんだろ?」
「まあな。一応、合金ってのができそうってわかっただけでも良しとしとくか」
確かに、実際に硬度は上がってるしね。
っと、エドが真ん中にある緑色のインゴットにメジャーリングを使ったから、結果を待たないと。
「マジか、これは……」
「どうかしたんですか?」
エドが驚愕してるっぽいけど、マジでどうしたのさ?
アプリコットさんも心配そうだし、大和やプリムも眉を顰めてるよ?
「マリーナ、お前も見てくれ。俺の見間違いじゃなきゃ、こいつはとんでもないぞ」
マジで?
「それじゃあ、『メジャーリング』。何これ!?」
あたしは驚いた。
そりゃあもう、心の底から驚いたよ。
だってさ!
「7,7,8,600って、嘘でしょ……」
「やっぱり俺と同じ数値か」
エドも同じ数値だったか。
でもこれ、マジでとんでもないよ。
魔力伝達率こそ
総合的に見たら、
「す、すごいわね……」
「だな。俺としても、いきなりこんな高性能なもんができるとは思わなかった」
これは
ホントにこんなすごい金属ができるとは思わなかったけど、これは革命だよ!
「まあ待て。気持ちはよくわかるが、インゴットはまだまだ残ってるんだぞ?他のもちゃんと見てみてくれよ?」
あ、ごめん。
けっこう舞い上がっちゃってたけど、確かに大和の言う通りだし、あたしとしても他のインゴットはすごく気になってきた。
「だな。それじゃ最後の
最後のは
「ってことは、
「そうなるわね。総合的には
あたしもそう思うけど、さすがに槍だと、
まあフィジカリングがあるし、ハイフォクシーのプリムなら、本当に変わらないかもしれないけどさ。
「さすがにテンション上がってくるな」
「気持ちはわかるよ。じゃあ次は、
「あいよ!今度は3つまとめて行くぜ!」
あ、これはマズい。
エドは数字が苦手だから、目分量でやることも珍しくはない。
いつか手痛い失敗をするんじゃないかって思ってるし、リチャードじいさんやタロスさんからも、口を酸っぱくして言われてるのに、全然反省してないよ。
仕方ない、あたしも使っておこう。
1つぐらいは、絶対に間違えるからね。
「左が7,8,6,2200、真ん中が8,7,4,2000、右が7,9,2,3400だ!」
ほらね。
「左と真ん中は合ってるけど、右のは間違ってるよ。7,6,4,3400だよ」
「げ、マジだ……。悪ぃ……」
まったくもう。
でもこの
魔力強度は
「こっちのインゴットは、
プリムの言う通り、そこが引っかかるところだよね。
重量武器は
鉄の倍以上は重いから、そんなに使い勝手が変わるとは思わないけど、それでも人によっては不満がでるかもしれないなぁ。
「魔力を加減しながら使うより、断然使いやすくはなりそうだから、そこまで気にしなくても大丈夫じゃないか?」
「俺もそう思う。そもそも重量武器を好む奴らだって、最終的に行き着くとしたら
そういえばそうだった。
むしろ
「それにしても、
それはあたしも同感。
さすがに
「だよな。それじゃ行くぞ。『メジャーリング』。5、4、6,1100か。こいつはダメだな。3種類ともってことだし、どうやら
確かにこれはダメだね。
もともと
魔道具には多く使われてるけど、それは魔石をはめ込む基幹部とかに組み込むと、魔道具の性能も一段上がるからだから、合金の場合も必要以上に使わない方がいいってことなのかも。
「それも大きな収穫だろ」
「ああ、デカいな。っと、次は6,7,7,800か。悪くはないが、これなら
全部の金属を、1:1:1にしたインゴットか。
確かに悪くはないんだけど、さっきの成功を見た後だと、すっごく微妙だね。
これなら3本も使う意味はないね。
「他の2種類もそうだが、配分比を同じにすると、金属の性能が食い合ってる感じがするな」
ああ、そうかもしれない。
3種類とも微妙な性能だしね。
これも収穫かな。
「確かにそうかもしれねえな。となると、残ってるのは
「そうなるわね。あたし達としては軽い金属が希望なわけだから、楽しみは後に取っておきましょう。先に
「了解だ。『メジャーリング』。8,7,5,2400か。普通に考えたら成功なんだが、
むしろ魔力伝達率が低い分、こっちの方が性能的には下だね。
それに大和もプリムも、軽い金属の方がいいんだから、
「残念ながら、そうなるか。さすがに三種混合ともなると、配分が難しいな」
それはあるね。
「比率ともなると、凄まじい数を試す必要があるからな。まあ、そこまでする必要はないだろうし、まだ1つ、
あたしも大和に賛成。
というか、配分比まで考えてたら、いくらお金があっても足りないよ。
「まあな。それじゃ、最後行くぞ。『メジャーリング』。おおっ!」
エドの顔がほころんだってことは、成功って判断してもいいよね?
「ああ。8,8,7,700だ」
いや、ちょっと待って。
それって強度がちょっと低いだけで、ほとんど
それって
もしかして配分比を上手くすれば、
「落ち着けよ、マリーナ。できなくはないかもしれないが、いくらかかるかわからないぞ?」
「あ、ごめん。まさか本当に、
思ったより舞い上がっちゃったよ。
だけどこの合金、完璧に近い感じで大和の理想通りだと思う。
「確かに俺としても、
「異議なしよ。こんなすごい金属ができるなんて、思ってもみなかったし」
ホントにそうだよ。
この技術が広まれば、間違いなくヘリオスオーブの歴史が変わるよ。
「俺としてもけっこう楽しかったし、実際に出来たんだから感無量だ。だけど、まだ完成じゃねえぞ?」
いや完成でしょ。
もう少し配分とかをいじれば
いくら大和とプリムがお金を出してくれてるとはいっても、さすがにそれは無理じゃないかな?
「名前だよ。合金って言っても、種類はあるんだろ?実際、この場だけでも3つもできたんだからな。それに、いずれ製法を広めるんだから、名前がなかったら不便すぎるだろ」
それは確かにね。
それならエドがつければ……いや、ここは大和がつけるべきかな。
大和が提案してくれなかったら、試そうとも思わなかったんだからね。
「というわけで大和、お前が決めろ」
「俺かよ?」
「俺達はお前の提案に乗ったが、あくまでも手伝いに過ぎない。それに金を出したのはお前とプリムなんだから、ここは言い出しっぺのお前が決めるのが筋ってもんだろ」
さっきの魔法の意趣返しって気もするけど、あたしもその意見に賛成。
プリムもうんうんって首を縦に振ってるし、アプリコットさんも期待するような顔をしてるから、大和に逃げ道はないよ。
「わかったよ。それなら
「悪くはないと思うが、何か意味でもあるのか?」
「ああ。俺の世界、というか暮らしてた国には、
なるほどね。
そうすると
響きも良いし、綺麗な見た目も取り入れてるんだから、あたしはけっこう好きだな。
「綺麗な名前じゃない。あたしもそれでいいと思うわ」
「ああ。大和の世界の、伝説の金属にあやかった新金属か。
あたしもそう思うよ。
それじゃあ三種混合合金は
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