第三章・フィールの夜明け
新婚
Side・プリム
朝起きると、あたしの隣には大和がいた。
裸で一緒のベッドに入ってたけど、昨日のことは夢じゃないって感じられたから、すっごく嬉しかったわ。
なのに、生まれて初めての幸せを感じていたのに、大和の逆サイドで寝ていた母様と目が合ってしまった。
思いっきり恥ずかしいし、まさか母様にリードされながら初夜を迎えるなんて夢にも思わなかったけど、だけどそれも悪くなかったって思っちゃったあたしがいる。
そしてそれを見透かしたかのように、母様がとんでもないことを言ってきた。
「たまにでいいから、私も混ぜてくれないかしら?」
母様は36歳だけど、まだまだ女盛りだから、男に抱かれたい日もあるみたいなのよ。
普通なら使用人とかに手を出したり、知り合いや近所の男の子相手に性教育と銘打って関係を持ったりするらしいけど、母様の場合は父様が亡くなってからまだ1ヶ月ぐらいしか経っていないし、バリエンテから逃げ出してきたこともあって、そんな相手は皆無に等しい。
だから娘婿の大和にってことなんだけど、それはそれでどうなのよ?
父様も、草葉の陰で泣いてるわよ。
「だってフィールに来るまで色々あったし、何より私も女なのよ?それにね、未亡人が娘婿に手を出すことも、珍しくはあるけどないわけじゃないのよ?」
確かに色々あったわよ。
セントロを脱出してからは常に追手に追われていたし、ようやくポルトンの近くに来たと思ったら、追手と盗賊に同時に襲われて、馬も使用人も殺されちゃったんだから、大和に出会わなかったらバリエンテを出られなかったかもしれないわ。
アミスターに入ったら入ったで、異常種どころか災害種まで出てくる始末だし、やっと目的地のフィールに着いたと思ったら、ハンターは全員敵だったていう衝撃の事実まであったんだから、あたしだって大変だったわよ。
そういったことを乗り越えて、やっとあたしは大和と結ばれたのよ?
なのに、そんな娘の苦労に乗っかろうっていうの?
あと未亡人だからって、なんでも許されるなんて思わないでよ?
「乗っかろうってわけじゃないのよ。それにプリムだって、そっちの方がいいんじゃない?」
見透かされたようでドキッとしちゃった。
自分でも意外だったんだけど、あたしは少し乱暴にされたり、見られたりする方が燃え上がる傾向があるみたいなの。
大和のすることなら何でも受け入れられるから、もし大和が母様の参加を認めた場合、あたしは喜んで受け入れると思う。
まさか母様、そんなあたしの性癖を見抜いたっていうの?
「やっぱりそうなのね。初夜の様子を見て、そうじゃないかって思ってたのよ。それはそれで悪いことじゃないし、むしろ夫に尽くすことができるっていう美点だと思うわよ」
確かにそうかもしれないけど、夜の生活に限って言えばどうかと思う。
「大丈夫よ。あなたが寝入った後に、大和君に、プリムは少しいぢめられる方が燃えるって教えてあるから」
余計な事しないでよ!
よりにもよって何てこと教えてるの!
「大丈夫。大和君はそんなあなたも受け入れてくれてるんだから、むしろ誇りなさい」
意味がわからないわよ!
まったく、昨夜から母様に手玉に取られてばかりだわ。
いつかギャフンと言わせないといけないわね。
あれ?
ギャフンと言わせるのはいいけど、これってまた、一緒に抱かれるってことよね?
認めちゃったってことよね?
ベッドの上での借りはベッドの上で返すつもりだったんだけど、これってもしかしなくてもそういうことよね?
……あれ~?
「さて、私はお風呂に入ってくるわ。あなたはせっかくなんだから、大和君が起きてくるまで一緒にいなさい」
「え?あ、ああ、うん」
混乱してるあたしを見て笑みを浮かべながら、母様は裸のまま、部屋を出て行ってしまった。
余裕たっぷりな態度が腹立つわね。
見てなさいよ、いつか仕返ししてあげるからね。
Side・大和
晴れてプリムと夫婦になり、初夜も済ませた。
アプリコットさんも一緒にとは思わなかったから、色んな意味で忘れがたい夜だったな。
朝飯を食った俺達は、今日こそ狩りに行こうと決め、ハンターズギルドに行くことにした。
その前にアプリコットさんをエドとマリーナにも紹介して、合金の進捗状況を聞かせてもらってからアマティスタ侯爵家に送っていかなきゃだから、狩りに行くのは昼過ぎからになるだろう。
「ここがアルベルト工房。あなた達のお友達が働いているお店なのね」
「はい。色々とよくしてもらっています」
「今も大和の持ってる知識が活かせるかどうか、試してもらってるところなのよ」
「それは興味あるわね。それにしてもあなた達、仲が良いのは結構だけど、母親の前なんだから少しは遠慮したらどう?」
アルベルト工房の前でそんな会話をしてる俺達だが、実はプリムは、俺の左腕に自分の体を絡ませている。
俺としては少し、いや、すごく恥ずかしいんだが、せっかくできた恋人、もとい婚約者、もとい奥さんなんだから、これぐらいは耐えるべきだろう。
「いいじゃない別に。あたし達、新婚なのよ?」
新婚っていう概念はあるのか。
男から告白したらプロポーズになって、承諾されたら即結婚みたいな扱いになるこの世界、いつからいつまで新婚って言っていいのかわからなかったし、多くの人は新婚だろうとそうでなかろうと関係ないみたいだから、そこまで気を遣う必要もないと思ってたんだけどな。
「はいはい。まあ、あなたの考えはわかるし、私も反対しない、それどころか大賛成だから仕方ないと思うけど、あんまり大和君に迷惑をかけないようにね?」
「わかってるわよ。それより入りましょう。昨日の話じゃほとんど完成ってことだから、今は配分を変えたりしてるところだと思うし」
「だな。聞いた限りじゃ、かなりいい感じだって話だから、俺としても期待値は高いよ」
エドに頼んだ
だからエドは、三種の混合合金だけじゃなく、
そっちも興味があるし、特に
「おう、おま……えらか?」
「お、おはよう……?」
店に入った瞬間、エドとマリーナから怪訝そうな顔をされた。
なんで疑問形なんだよ?
「あんた達、いつからそんな関係になったの?」
ああ、俺の腕に抱き着いてるプリムを見て、驚いただけか。
いつからと言われると、昨日からってことになるんだが。
「昨日よ。大和にプロポーズしてもらったから、晴れてあたし達は夫婦になったの」
「展開が早すぎるよ!確かにあたしは応援するって言ったけど、なんで日が明けたらそんなことになってるの!?」
マリーナも知ってたのか。
いや、プリムとマリーナも仲良いから、別に知ってても不思議じゃないが。
「手ぇ早いな、お前。先を越されるとは思わなかったが、お前らならいつかそうなるだろうって思ってたぜ」
失礼な奴だな。
というかお前も、残ってる問題はどうとでもなるんだから、そろそろマリーナと結婚したらどうだよ?
「ホントにね。なんにしても、おめでとう。良かったね、プリム」
「ありがとう、マリーナ」
「それで、そちらの人は?プリムと同じフォクシーってことは、もしかしてあの人、プリムのお母さんなの?」
「そうよ。ハンターに狙われないようにってことでアマティスタ侯爵家にご厄介になってたから、フィールを歩くのは初めてになるわ」
「初めまして、プリムの母、アプリコットと申します。2人がお世話になったようで、私からもお礼申し上げます」
活発なプリムとは真逆のお淑やかなアプリコットさんの丁寧な挨拶に、エドもマリーナも戸惑ってやがるな。
「い、いえ、とんでもありません!」
「あたし達も、2人には助けられてばかりですよ!」
テンパってるな。
家名までは名乗ってないが、プリムに家名があることは2人とも知ってるし、立ち居振る舞いも優雅だから、アプリコットさんが貴族出身ってことはわかっちまったかもしれない。
まあ、領代とかギルドマスターとかは知ってるし、こいつらなら別に構わないんだが。
「リチャードさんとタロスさんは?」
「え?ああ、工房だ。フィールにハンターを呼ぶには高品質の武具が必要だってことで、昨日からずっと、武器とか防具とかを打ってるよ」
いや、そんなことしなくても、ここの武具って質がいい物ばかりだろ。
「俺もそう思うんだが、今まではじいちゃんが腐ってたこともあって、本来じいちゃんが作るやつに比べると、どうしても1ランクは性能が落ちるんだよ。ああ、お前らが持ってるミスリルブレードとミスリルハルバードは何年も前に作ったやつだから、そんなことはないぞ」
あのクズどもの弊害か。
全員捕まえたとはいえ、後始末はこっちがしなきゃいけないんだから、この分じゃフィールが正常に戻るまでは、それなりの時間がかかりそうだな。
「なるほどな。じゃあ後で挨拶をさせてもらいたいんだが、それは大丈夫か?」
「問題ないな。お前らが結婚したってことなら、作業を中断させる口実にもピッタリだ」
そんな口実に、人の慶事を使うんじゃない。
っと、それはいいとして、合金がどうなったか聞かないとな。
「それでだ、合金の方はどうなった?」
「今から確認するところだ。昨夜あれから配分を変えたのを3種類ほど、
「そんなに試したのか。こないだの話じゃ、1つ作るだけでもけっこう辛いって言ってなかったか?」
「お前が言ってた
なるほど。
エドがそう言うんなら、マジでかなり効率が上がったんだな。
「エドも言ってたんだけど、これは新魔法としても認められると思う。だから、後で奏上してくるべきだと思うよ」
「新魔法?それに奏上?なんだそれ?」
「ああ、悪い。奏上ってのは、プリスターズギルドで自分が作った魔法を登録することだ。全部が全部登録されるわけじゃないし、それどころかここ数十年で登録された魔法は1つもないんだが、魔法の女神様に認められれば、それは立派な魔法として登録されるんだ」
魔法の登録作業か。
面白そうだが面倒くさそうでもあるな。
「なら、エドがやっといてくれよ」
「できるか!」
そう言ったら脊髄反射で返された。
断るの早すぎないか?
「大和が知らないのは無理もないんだけど、魔法の奏上は、実際に作った人でないとできないのよ」
プリムが教えてくれたが、そういうことなら納得だ。
「なんだ。ならやっぱり、エドが奏上するべきじゃないか」
「なんでだよ!?」
「よく考えろよ。確かに俺はアドバイスをしたが、実際に試して、完成させたのはエドだろ?なら作成者はエドってことになる。違うか?」
「いやお前、それは……」
エドが黙る。
マリーナが納得して頷く。
プリムが面白そうに笑う。
完璧なロジックだ。
「仮にそうじゃなくても、その場合は、俺が後で奏上してみればいいんだろ?」
「そんな話だね。よしエド、後でプリスターズギルドに行こう。あんたのクラフターズランクも間違いなく上がるし、あたし達の結婚の門出にもなるよ」
それはいい。
合金の方はしばらく表に出せないだろうが、この魔法は一切問題がない。
登録されれば、エドは数十年ぶりの新魔法登録者ってことになるから、晴れの日にはこれ以上ないほどピッタリだ。
「わぁったよ。後で行ってみる。無理だと思うから、無駄足覚悟でな」
不貞腐れてやがるな。
まあ頑張れ。
それより合金はどうなったんだよ?
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