14.逢瀬は成れど穏やかならざり 9

 口元にだけ笑みを浮かべ、背中越しに彼らをながら二歩三歩と距離を取る。

 彼らが新田の言葉の意味を理解して顔色を真っ赤に変えるまで数秒。

 片割れが恐ろしい形相でビールの小瓶を振り上げた。周囲がざわめき悲鳴があがる。


 新田も追われて掴まれたり殴られたりするくらいはあるかもと予想していた。

 けれどもいかに知恵が回ろうとも悲しいかな彼女は一介の学生に過ぎない。アルコールで勢いがついたガラの悪い連中を煽ったときに彼らがどんな行動にでるか完全に見誤っていた。


 これはちょっと馬鹿にならない怪我をするかもしれないな。せっかくのデートなのに不二くんには悪いことをしてしまった。

 などと早々に走馬灯じみた後悔を済ませた新田の眼前にはすでに瓶が飛んできている。


 運が良ければ直撃は避けられるかもしれない。とにかく顔と頭だけは拙いと苦し紛れに浮き輪をかざす新田の前に、灰色の影が飛び込んでくる。


「ぎゃふっ!」


 ビール瓶は間一髪、飛び込んだ不二の肩に当たって地面に割れて散らばった。

 彼は悲鳴をあげながらもそのまま新田と男たちの間に立ち塞がる。

 それとほぼ同時にプール監視員と警備員らしき男性たちがその場を取り囲んだ。


「おい!お前たちなにしてる!!」


「るっせえ邪魔すんな!そのアマぶっ殺してやるっ!!」


「やめなさい!この、大人しくしろ!!」


 二人組は物騒な言葉を吐きながら新田に飛び掛かろうとするが、周りのほうが体格も人数も上では成す術もなく取り押さえられるより他にない。

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