14.逢瀬は成れど穏やかならざり 3

 「馬鹿なことを言ってないで早く行こう。こう見えても今日という日を非常に楽しみにしていたんだ私は」


「え、ほんとですか」


「そりゃプールなんてプライベートではほんと行かないからね。この歳にしてウォータースライダーなるものに乗ったことがない」


「え、マジすか」


「悲しいかな大マジだとも。いや別に悲しくはないけどね。だからキミの誘いにはわりと感謝している面もある」


「その割にはものすごい抵抗を受けたような気がするんですけど」


「それはそれ、これはこれ」


「あ、はい」


「というわけで不二くん、お勧めのやつを順番に紹介してくれたまえ。今日はキミが頼りだ」


「はい!」


 新田が不二を頼りにするなんて冗談でも滅多に口にしない。しかも今回は冗談ではなく明らかに頼りにされている。

 彼のテンションは開幕から爆上げとなった。


 お試しの子供向けショートスライダーからマットに寝そべってなだらかな斜面を滑り降りるサーフスライダー、急なカーブの続く長いチューブを滑り抜けるチューブスライダーに円形のボウルへ向けて滑り込み最後は中央から水面へ落下するボウルスライダー。


「いやあどれも趣向が凝らされていて面白いけれども、しかしよくこんなに色々と思い付くものだね」


「3年にふたつくらいのペースで増えたり改築されたりしてますよ。来年にはまた新しいのがあるんじゃないかな」


「それは大したものだね」


「あはは、また来たくなりましたか?」


「そうだね、キミとならまた来てもいいかな」


 ん?


 不二が言い回しにひっかかりを覚えた一瞬の間に新田は次のスライダーを指さす。


「次はあれがいいかな。ずいぶん大きいね。あー、ゴムボートに乗るやつなのかな?」


 彼女が指さしたのは恋人たちの定番、ふたり乗りボートスライダーだった。

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