8.勝負にならない負け上手.R 2
【設問】
とある人物の新作が出版されました。
けれどもなんと、その作品は登場する人物も、大まかな筋書きも、結末すら多くのひとが知っている内容だったのです。
ところがそれを糾弾するひとは誰も居ません。何故でしょう。
「なかなからしいテーマで来たね」
「一応文芸部ですしねえ」
「いやいや、一応どころか数少ない積極的に活動してる文芸部員だよ私たちは」
「まあ確かに。ところでもう始まってますよ」
不二はスマホの画面を提示する。残り4分40秒。
「おっといけない。そうだね…作品は本人の過去作品のリメイクだった?」
「Noですね」
「じゃあ何らかの作品の外伝かスピンオフだった」
「それもNoです」
「ふむ。まあこの辺がYesだとそのまま答えになってしまうしさすがに手応えが無さ過ぎるけれども」
「制限時間も短いですしそんなに凝った問題じゃないですよ」
新田は暫し考える。
登場人物も筋書きも結末まで少なからぬ読者が知るにも関わらず糾弾を受けない。そもそも糾弾されるような性質のものではないのだろう。この言葉は盗作を想像させるミスリード要素だと考えるのが妥当だ。
「出版したのであれば、誰も読んでいない、なんてことはないだろうね?」
「Yesです。ちゃんとそれなり数のひとが読んでるものと思ってもらっていいですよ」
「ふむふむ。そうだねえ、映画か漫画のノベライズだったとか」
「んー、まあNoですね」
少し迷っていたな。なんだろう。
「そもそも作品は小説でいいのだよね?」
「それはYesです」
「なるほど」
リメイクでもない、外伝の類いでもないが既に知られている登場人物や物語が許される小説。だとすれば条件を満たすジャンルがもうひとつある。
「そろそろ2分ですよ」
「わかっているよ。そうだなもしかして、その作品の登場人物の多くは実在したひとなんじゃないかな」
「んーYesですねえ」
ならば答えは決まったようなものだ。あれしかないだろう。タイマーを見るとまだ3分弱もの時間を残している。勝負は水物、慢心せず早々に決着をつけるべきだ。
とはいえ。
とはいえだ。
先日のゲーム、それ自体はほぼ一方的に勝利したとはいえ、そのとき味わわされた屈辱は忘れていない。
おあつらえ向きのこの状況、報復のときが来たのでは?
「どうしました?」
「ああ、答えはもうだいたいわかったんだけれどもね」
不審な様子に首を傾げる不二に向けて彼女は笑みを浮かべる。それは不敵で、冷笑的な。
「せっかくだから残り時間でなにか楽しい質問をしようかと思ってね。前回好き放題してくれたお礼をしないと」
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