4.読書に向かない雨模様 4
「もう少し右、そこ、もう少し寄せてくれるかなっと近いっ、近いっ熱いっ」
不二は新田の背後でドライヤーを持たされ、注文されるままにドライヤーを動かしていた。
「うーん、この辺ですか?」
「おっと、そこ、そうそこでちょっとキープしていて欲しい」
「わかりました」
新田は空いた手でパサパサと髪をほぐしながらブラシを通していく。
「確かにこれはひとりではちょっと大変ですね。というか普通に手が足りてないですよね。いつもどうしてるんですか?」
「根性だよ」
「根性」
「基本的に女子の髪は根性で維持されている。女子力とは即ち根性だよ」
「凄く汗臭くなったんですが女子力」
「女子力と汗は切っても切れない関係にあるんだぞ。お菓子作りの現場を見たことがあるかい?腕力勝負、体力勝負の世界だよ。メレンゲ作りとか重労働過ぎてもはやゴリラにしか出来ないと言ってもいい」
「そんな女の子の秘密知りたくなかった」
「年頃男子の知りたいような秘密を漏らす女子はそうそう居ないと心得えたまえ。男子だって女子に知られたくないことくらいいくらでもあるだろう?」
「それはもちろんそうですが知りたいものは知りたいし見たいものは見たいのが人情ってもんですよ」
根性はさておき、と、不二は視線を髪へ向けた。
いつもは一本三つ編みで束ねられている先輩の髪。普段は正面か、あるいはせいぜい横からしか見ないのでいままでこれといった印象は無かったが、解かれて目の前を舞っている髪はよくよく見れば男子のそれとは比較にならない艶やかさがある。
「うーん、でもちょっと意外かな」
「なにがだい?」
不二の呟きに新田が振り返らず問い返す。
「髪綺麗ですね」
「ん?ああ、ん、うん?」
予期していなかった返答に戸惑いというか混乱した声があがったが、不二は気にせず続ける。
「先輩はあんまりこういうことには労力を割かない方だと思ってたんですけどね。クラスの女子とかよりよっぽど手入れされてるなと思って」
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