4.読書に向かない雨模様 2



「ええ、マジですか」


「嘘だ」


「良かった、本当だって言われたら先輩との付き合いを見直す必要があるなと思いました。退部も視野に入れて」


 頼まれたってやりたくないし自分には引き継ぐ後輩がいるかどうかも怪しい。そんなわけのわからないものを受け継がされるのはまっぴらごめんだった。


「そこまで嫌がられるとちょっと傷付くな」


 新田は不服そうに言いながら机から椅子に降りるとなかが見えないようスカートを抑えながら胡坐をかいた。裸足のままで床に足をつきたくないらしい。


「うーんガードが堅い」


「何か言ったかい?」


「いいえなにも」


 不二は、にこーっと作り笑いで答えて隣の席に腰を下ろす。


「部屋中になにかばら撒かれてるし見慣れない格好のひとが机の上で踊ってるし、危うくドア閉めて見なかったことにして帰るところでした。いったいなんだったんですか?」


「ふむ。順を追って説明しよう。まず、今日は雨が降っているだろう?登校中うっかり水たまりにはまってしまってね」


 つい、と新田が人差し指で示した方向へ視線を向けると、机に広げた新聞紙の上に靴と靴下が置かれていた。周りにはやはり白い小袋が、ここには結構集中的に置かれている。

 次に普段に比べるとずいぶんボリュームを感じさせる跳ね放題の髪を指す。


「そんなわけで朝からうんざりした気持ちで登校してきたのだけれど、これまた運悪くヘアゴムが切れてしまったんだ。私の髪は湿気を吸うと暴れるタイプでね、その場で大爆発した」


「髪が暴れるって。メデューサかな?」


「お前も石人形にしてやろうかー!」


「なんの変哲もない古い校舎の部室から、毎晩少女の悲鳴にも似た叫びが聞こえたり、聞こえなかったりしそうですね」


「万が一そんな怪談じみたことがあっても、それは私ではないとだけは言っておこう」


「むしろこの場合先輩は悲鳴を上げさせる側ですよね」


「だとしたら悲鳴の主はキミが最有力候補だぞ。良い声で啼きたまえよ」


「いったいなにをされてしまうんですかね」


 特に意味のない茶々を入れつつ、段々語調が熱を帯びてきて饒舌になってきている先輩に相槌を打つ。


「それはさておき。こうなってしまうともう簡単には纏まらなくてね。放課後に部室で髪を乾かそうと思ったのだけれど、いざ来てみると部室の湿気もばかにならない。そもそも大量の本が置かれた部屋がこのありさまというのはいかにもよろしくないと思わないかい」


「まあ実習棟とはいえ普通の教室に本を置いてるだけですしね」


 これが図書室なり専用の目的で作られた部屋であれば湿気対策も少しはされていたのかも知れないが、文芸部室は空いている部屋を使わせてもらっているだけなのでその辺りは結構おざなりだった。


「そしてついカッとなった私はこんなこともあろうかとホームセンターで買い込んでおいたシリカゲルを部屋中にばら撒いたのだ」


「シリカゲル?」


「乾燥剤だよ。焼き菓子のパッケージとかにもたまに入ってるだろう?」

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