3.春暁ペナルティ 4
「ははは、まあ不二くんも男の子だからなぁ」
恐る恐る見上げると、満面に薄っぺらな笑みを貼り付けた新田が見下ろしていた。
「君が来るだろうと思っていながらうたた寝していた私にも非が無いとは言わないけれども」
「はひ」
「キミのそういう自分に正直なところも嫌いではないのだけれども」
「はひ」
「け、れ、ど、も、キミの男の子を容認するのと同様に、遠慮なく私は女の子を行使したいと思う。目を閉じて歯を食いしばりたまえ」
声のトーンがいつもとまったく変わらないところがかえって怖いが口に出す余裕は無かった。新田が左手で抑えていた本を閉じて右手にぐっと握りこぶしを作る姿を見て「ひっ」と引き攣れた短い悲鳴を上げ、慌てて言われるままに目を閉じて歯を食いしばる。
椅子が軋む音、立ち上がった気配を感じる。殴り方を吟味しているのだろうか、まだ衝撃は来ない。衣擦れの音。近い。ふわりと甘い香り。
「ふっ!」
「うわぁっ!?」
げんこつの衝撃に備えて身を固くしていた不二は、不意をついて力いっぱい耳に息を吹き込まれ、驚いて尻もちをつく。目を開くと真横に新田がしゃがんでにやにやと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「げんこつでは私も痛いからな、今日はこの辺で勘弁しておいてやろう」
彼女は真っ赤な顔で爆発しそうな心臓を抑えている不二を尻目に自席に戻ると足を組み背伸びをする。彼もよろよろと立ち上がって向かいの席に腰を下ろした。
目覚めた新田に先ほどまでの隙は微塵もなかった。穏やかな目元も緩んだくちびるも静かな迫力とも感じられる気配を湛えた不敵で冷笑的な表情に取って代わられ、女性らしい柔らかさを感じさせた身体は校則通りにきっちりと着込まれた厚いセーラー服に阻まれてその面影もない。
「陽射しと窓から入って来る風が心地よくてね、ついうとうとしてしまったよ。春眠暁を覚えずというやつさ」
確かに陽射しは強からず弱からず、風も爽やかでひとりで居たらつい眠ってしまっても不思議はないかも知れない。
「ちなみにいつから起きてたんですか?」
「キミが私のおへそ辺りを凝視しているときには気付いてたよ」
「結構早いですね!?」
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