3.春暁ペナルティ 5

「女の子は視線を物理的に感じるんだ。すぐに気付くよ?でもまだ目覚めたばかりで眠かったから、不二くんも男の子だしな私をいやらしい目で見るくらいは良いぞ苦しゅうない、とか思っていた」


「怖いなー女の子!」


「これに懲りたら女の子を不躾な目で見るのはほどほどにするように」


「そうですね…あ、でもちょっと待ってください。先輩が苦しゅうないとか思ってたなら僕は今回無罪なんじゃないですかね」


「なんだか私が何もかも容認したかのような言い方はやめて欲しいな」


「だいたい先輩が早めにたしなめてくれれば、僕も汚れた決断をせずに済んだんですよ」


「とりあえず意識の無い先輩の肢体を舐めるように眺めている時点ではまだ汚れていないと思っているのであればそれは甘えた幻想だと釘を刺しておく」


「そんな。こんな可愛い先輩が無防備に居眠りしていたら誰だって見ちゃいますよ」


「今あからさまに心にもないことを言っただろう」


「正直に言えば今日まで先輩のビジュアルに肯定的な感想を持ったことは一度もなかったです」


「今日まで」


「…」


「…」


 沈黙。ふたりとも虚無の顔でしばし見つめ合う。


「なんで黙るんですか先輩」


「それは私の台詞なのだが。まあいい。ともあれ、寝ている女の子のパンツを覗こうとするのはひととして蔑まれる所業だぞ」


「結局は覗くまでもなく足を振り上げたときに全開でしたけどね」


「全開」


「…」


「…」


 沈黙。ふたりとも虚無の顔でしばし見つめ合う。


「無地の白は予想通り過ぎてなんだか拍子抜けです。少し捻りが欲しかったですね」


 その言葉に新田が珍しくムッとした表情を浮かべた。不二のすねに、コツコツと上履きのつま先を当てて目を細める。


「鼻先を掠る程度に抑えたのは一応私なりの優しさだったのだけれど、これは鼻が凹むくらい蹴り込むべきだったかな。いや、新事実が発覚したからには改めてもう一回叩き込んでもこれはセーフなんじゃないかな」


「ちょっとやめてくださいよさっきのもまだ痛いんですから」


 新田の不穏な言葉に赤くなった鼻先を隠しながら逃げるように上半身を逸らす。

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