3.春暁ペナルティ 2

「いくらひとの出入りがないからって、不用心だなぁ」


 若干の戸惑いを覚えたものの、こんな機会は滅多にない。日頃傍若無人な先輩の無防備な姿でも観察して過ごそうと思い立ち、不二はその場にしゃがみ込むと自分の膝に頬杖をついて彼女を見上げた。


 窓から吹き込むそよ風に揺れる髪、僅かにずれた眼鏡。今までじっくりと見る機会は無かったのだが、まつ毛は長くて多いほうだ。いつもならやたらと眼力めぢからがあってじっと見ることは憚られるけれど、それも閉じられている今は穏やかそのもの。

 緩んだ口元、小さなくちびるは薄っすらと濡れて…と言えば聞こえもいいがはっきり言えば少しよだれが垂れかかっている。

 さらけ出された白い首筋とわずかに乱れて掛かる髪のコントラストがなんだか妙に扇情的で、無意識に生唾を飲み込んだ。


「僕もいちおう男の子なんですけどねぇ」


 言い訳のように小声で呟きながら視線を下ろしていく。

 窓枠と椅子の背もたれに身体を預けた姿勢から脱力しているため、制服がところどころ引き吊れていつもは隠されている女性らしいラインが浮き上がっていた。

 細い首と肩、緩やかながらもしっかりと存在を主張する膨らみを経て線は再びか細く収束していく。

 数センチほど捲れたセーラー服の下にはキャミソールかなにか薄手の肌着を着込んでいるようで、お腹のあたりがちらりと見えていた。その密着した薄布から微かに見通せる肌の色彩でも年頃の男子には充分刺激的だ。過不足ない年相応のシルエットが寝息に合わせて静かに上下しているさまを見ているだけで、鼓動が高鳴り息が浅くなるのを感じる。


「早く起きて、くださいよー…」

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