11.明日への優待券 3
「努力してないのだから自業自得ではあるんだけれど…さすがにちょっと傷つくな」
虚無顔で珍しくアイスコーヒーをすする新田。
学校帰りに寄るときは夏休み直前でもホットコーヒーを注文していた彼女だが、よほど暑いのだろう。
「なんならこのあと服買いに行きましょうか?付き合いますよ僕」
「え、あ、えっと、暑いからやだ」
視線を泳がせながら断る新田。
「ここからならバスでちょっとのとこじゃないですか」
「うーん、しかしねえ」
「なんですか歯切れの悪い」
ちらりと視線を向けて横へと露骨に逸らす。
「私も男子に服を選んでもらうのはさすがに抵抗があるし、君だって女子の服屋には入りにくいだろう?」
「先輩にそんなデリケートな心があるとは知りませんでした」
「君にそういうデリケートな心がないことは知ってたよ」
「つまり僕は気にしないんですよねえ」
「私が気にするんだよ」
ふたりして小さくため息を吐く。
「服、どうにかしたほうがいいですよ」
「わかってる、わかってるので、もう少し時間が欲しい…ところで」
時間が欲しいということは、その気がないわけじゃないのかな。などと不二が思っているあいだに話を切り替えてきた。
「わざわざ呼び出して話をしようと思ったのは他でもない。プールの件だ」
「ああはい。ついに覚悟を決めたんですね」
その言葉に新田は戻したばかりの視線をまたすっと逸らす。
「やはりその、なんだ。行きたくない」
「ええ…」
期待を圧し折られどんよりとした目を向ける不二。
「いえまあ、別に約束をキャンセルされたってわけではないですけど」
とはいえ直々のランチのお誘いからのコンボである。
当然それなりに期待していたにも関わらずこの宣告なので受けたショックは推して知るべし。
「まあ僕が勝手に盛り上がってただけですけどね。ええ、いいんですよそんな気を使わなくても。でもだったらそれこそSNSでぱっと済ませてくれれば僕も期待せずに済んだんですけどね。暑い中出かけて来たのは別に構わないんですけどなんていうか、そう、悲しいなあ」
「ま、まあちょっと待って欲しい。この話はこれで終わりじゃない」
いいと言いつつもぶちぶちと恨み節を紡ぎ出す不二を焦って制止する新田。
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