6.未知との遭遇:性癖編
6.未知との遭遇:性癖編 1
「そういえば先日二年生の男子に校舎裏に呼ばれてね」
カフェチェーン店フタバのカウンター席でそう切り出した先輩の新田に対して、後輩の不二は露骨に訝しげな視線を向ける。
「今度は何をやらかしたんですか」
制服を校則通りに着こなして、ひとつ結びの三つ編みに紺色でフルリムのセルフレーム眼鏡という組み合わせの絵に描いたような文学少女。という地味な見た目とは裏腹に問題行動は枚挙に暇がない。
クラブ紹介でガラの悪い新入生にわざと恥をかかせて部室に乗り込まれたこともある曰くつきの先輩だ。当時現場に立ち会っていた不二にしてみれば当然の反応と言えた。
「失敬だなキミは。好意的な呼び出しだよ、人前では話せない類のね」
ふふん、と得意げに胸を反らす彼女とは対照的に顔色を失う不二。
「ま、まさか告は…」
「踏んで欲しいって頼まれた。土下座で」
うへぇ、と半眼で引きつり気味の笑みを浮かべた彼女の隣でコーヒーが変なところに入ってむせる不二。
「そ、それは…けふっけはっ…なかなか、ええと、ひとを見る目がありますね」
新田は組んでいた足を下ろすとローファーを脱いで笑顔で不二の足を踏んだ。
「ちょっと周りの喧騒でよく聞こえなかったな。もう一回言ってくれるかい」
笑顔のまま足の甲をぐりぐりと丁寧に踏みにじる。
「ちょ、ま、なんでもないですっ。それはそのなんと言えばいいのか…痛い、痛いです先輩」
後輩の態度に満足して足を上げるとそのまま組み直してホットコーヒーをすする。
「まあ、ええ、確かに人前では話せない類の好意的な話でしたね。嬉しいかどうかはさておき」
「幸か不幸かあんまり嬉しい気持ちにはならなかったかな」
「そうですかー」
「なんだね」
「なんでもないです。で、踏んだんですか?」
向けられたジト目に、にこーっと笑顔を返して話を戻す。
「結論だけ先に言うと踏まなかったよ」
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