第155話 お着替えしましょう

 アルとレイチェルの交渉が終わって約一時間後。準備を終えたシルを連れて、セアラとメリッサが会場に到着していた。


「おぉ〜!!」


「何……これ……?」


 いつもは黒主体の服が多いシル。今日は華やかなレモンイエローのワンピースを身にまとい、パレード用の馬車を見上げて歓声を上げる。一方でセアラはアルと同様、驚きと呆れが入り混じったリアクションを見せる。


「どう?シルちゃん、すごいでしょ?」


「うん!本当にすごいよ、メリッサお姉ちゃん!!真っ白なお馬さんもすっごくキレイ!これ乗っていいの?」


「もちろんよ、みんながシルちゃんのために用意したんだから!」


 目をキラキラと輝かせるシルに向かって、サムズアップをするメリッサ。セアラは主役のシルがはしゃいでいる手前、表立って文句を言うことが出来ない。


「ママも一緒に乗ろうよっ!!パパも一緒がいいけど……どこにいるのかなぁ?」


「わ、私はちょっと遠慮しとこうかなぁ……?」


 見世物になるのは勘弁とばかりに苦笑するセアラに、シルはプクッと頬を膨らませる。


「え〜、ダメだよ!今日は私の誕生日なんだよぅ?」


「うぅ……」


 残念そうに耳を垂れさせ、潤んだ瞳を上目遣いにしてねだるシル。溺愛する娘のその仕草には、さしものセアラとて抗えるはずなどなく、とぼとぼと馬車へと歩を進める。


「セアラ、ちょっと待って!せっかくのパーティーなんだから、あなたも『相応しい服装』に着替えなきゃダメよ!」


「えぇ?私も?」


「そ、ほら、あっちにセアラにピッタリないいものがあるわよ!」


 そう言ってメリッサが指差したのはシルのグッズ売り場。


「わわっ!!何コレ〜?あははははっ、私になれるの?」


「……メリッサ……どういうこと……?」


 シルは自分のなりきりグッズなどに興味津々といった様子で喜んでいるが、セアラはさすがに看過できないと低い声で問い質す。


「え、ええっと……」


「セアラさんっ!」


 セアラの迫力にメリッサがジリジリと気圧されていると、グッズの中から自信に満ち溢れた声とともにレイチェルが姿を現す。


「えっ?レイチェルさん?」


「いくらセアラさんのお願いでも撤去は出来ませんよ?アルさんとは既に話がついてますからっ!!」


「アルさんと……?」


 困惑するセアラを横目に、メリッサとレイチェルはあわよくばと抱いていた目的を達する為、アイコンタクトを交わす。


「ねぇ、レイチェル。アルさんから伝言があるんじゃない?」


「ええ、もちろんありますよ!」


 レイチェルが取り出したのは、シルなりきりセット(大人用)。


「アルさんはこれを着たセアラさんが見たいと仰ってました!!」


「あ〜、私も見たいっ!ママ着てみてよっ!」


「ほ、本当なんですか?」


「ええ、(心の中で)セアラさんがこれを着たら、きっと似合うだろうなぁと!!(思ってたはずです)」


「う〜ん…………」


 聞こえないほどの小声を織り交ぜるという、姑息な手段に打って出るレイチェル。しかしアルの望みというセアラにとっての金科玉条を掲げられようとも、セアラもその言葉には疑問符をつけざるを得ない。


「ほら、セアラ。つべこべ言ってないで、アルさんが居ないうちにさっさと着替えるわよ。サプライズしてあげないと」


 これ以上考えさせてはマズいと、レイチェルが半ば強引にセアラをギルドの中へと押し込む。


「あ、ちょっ、押さないでよ……本当かなぁ……」


「「行ってらっしゃ〜い」」

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