第131話 女子会?に行ってきます
アルたちがソルエールからカペラに戻り、約一ヶ月半が経過していた。
森にも春が訪れ、朝の寒さもすっかりと緩んできた、そんなある日のこと。
「セアラ、今日は夜遅くなるんだっけ?」
いつものようにアルが朝食の後片付けをしていると、ふと思い出したように、シルと一緒に仕事へ行く準備をしているセアラに問いかける。
「はい、メリッサから誘われて女子会、というんですかね?それに行ってきます」
「そうか、心配は要らないと思うけど、気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
セアラに寝癖を直してもらっているシルが、鏡越しに抗議の視線を向ける。
「え〜、何それ!ママだけずるいよ。ねぇねぇ、女子会だったら、私も女の子だから行ってもいいでしょ?」
「ごめんね、今日は大人だけでって言われてるから……またみんなでご飯でも食べに行こ?」
「むぅ〜、そんなこと言って、この前のお泊まりの埋め合わせもまだなんだよ?」
むくれるシルにセアラがどうしたものかと困っていると、アルがひょいと持ち上げ、抱き抱える。
「じゃあシルは俺とデートでもするか?」
「パパとデート!?うん!行きたい!!」
普段セアラとべったりのアルを独占できる滅多に無い機会とあって、シルは満面の笑みで、尻尾をブンブンと振り回す。
「えぇ、そんなぁ……私もそっちの方がいいです」
「ママはダメ〜!だって約束は守らなきゃいけないんだもんね〜、行ってらっしゃ〜い」
「あうぅ……」
羨ましそうなセアラを横目に、シルはアルにぎゅっと抱きつく。
「はは、まあセアラだって、たまには友達と遊ぶのもいいだろ?じゃあシル、仕事終わったら迎えに行くからな。リタさん、ということで今日は晩御飯は大丈夫ですから」
「りょうか〜い。私も今日は出かけるから、ちょうどいいわね」
「はぁ〜い!!ふふ〜ん、デート楽しみだなぁ〜!行くとこ考えておかなきゃ」
破顔する二人とは対照的に、セアラは口を尖らせる。友人との飲み会が嫌な訳では無いが、どうにも上手く感情を処理することができない。
「うぅ……これでは今日はヤケ酒になってしまいそうです……」
ーーーーーーーーーー
夕方、セアラはシルを迎えに来たアルと泣く泣く別れると、メリッサから教えられた酒場に向かう。
「ここ、ですかね?随分と変わった外観ですけど……なんだかラズニエ王国で見た建築物っぽいような気が……?」
そこは現代日本で言う和風創作料理を出す居酒屋であり、セアラの推測通り、ラズニエ王国に本店を持つ店だった。
「わぁ、すごい……」
店内に入るとまず目に付くのが大きな
その生簀をテーブル席が取り囲み、店の奥には完全に仕切られた三つの座敷が備え付けられていた。
「いらっしゃいませ。お気に召していただけたようで何よりです。有難いことに、今ではこちらの生簀を目当てに、当店にいらっしゃる方も珍しくないんです。お子様連れで来られる方も多いんですよ」
「そうなんですねぇ……確かにこれを見ながら食事をすれば、途中で飽きることはなさそうですね」
「あ、来た来た。お〜い!!こっちこっち!!」
シルにアルを取られた鬱屈とした気分を忘れ、セアラが対応に出てきた店員と言葉を交わしていると、奥の座敷からメリッサが顔を出して手を振る。
セアラは店員に会釈をしてメリッサの元へと向かうと、掘りごたつ席の個室に四人の女性が、何故か横一列に座っていた。
「セアラさん、こんばんわ!」
「こんばんわ〜」
「こんばんわ、アンさん、ナディアさん……って……何してるの……?」
下座からメリッサ、アン、ナディア、そしてあまりにも自然に、堂々とリタがそこに溶け込んでいる。
「何って……私がいたらおかしいの?」
「……メリッサ?どういうことかしら?」
「あ〜……ええっとね……実は今日は合コンでして……」
「合……コン?」
セアラの鈍い反応を認めると、メリッサはわたわたとしながら説明を始める。
「そ、その……合コンっていうのは、フリーの男女が知り合う会、的なものでね……?」
「それは知ってるけど……私、結婚してるんだけど?」
「そ、それは……」
メリッサが助けを求めるように、リタに目配せをする。
「私の提案なのよ、どうしても人数が足りなかったからね」
「ちょ、ちょっと待って……情報が多すぎて処理出来ないんだけど……」
立て続けに叩き込まれる情報に、混乱して頭を抱えるセアラ。メリッサはその両肩をがしっと掴んで、うんうんと頷く。
「セアラ、気持ちは分かるわ……もちろん悪いとも思ってる……でもね!
メリッサの無意味に力強い言葉に、アンとナディアが同じく力強く頷く。
「どういうこと……?」
「要するにね、リタさん目当てでの、合コンの申し込みが殺到してるの。私たちはそれに便乗させてもらっているわけで……」
メリッサの説明によると、全てはセアラたちがソルエールに帰ってきた時に催されたパーティで、リタが恋人を募集する的なことを言ったことに起因していた。とは言え、名乗りを上げた一人一人とお試しデートをする訳にも行かないので、こうして合コンと称した、集団お見合いを開いているとのこと。
以来、少なくとも週に一回のペースでこの集まりは開催されており、それでもなお半年先まで予約待ちの状況。
そして、メンバーはここにいる者たちの他にも、ギルド職員や人数合わせで既婚者のレイチェルが来ていたのだが、今回は都合が悪かったので、セアラに白羽の矢が立ったということだった。
「じゃあ……お母さん、ちょくちょく晩御飯の用意してから出かけてると思ったら、合コンしてたの!?」
「だって私、独身だよ。何か問題でもある?」
「そりゃあ、お母さんは問題ないかもしれないけど……私は問題大アリよ……何が悲しくて母親のお見合い兼合コンに参加しないといけないの?せめて私のいない所でひっそりとやってよ……」
「でもね、考えてごらんなさい?ここはあなたの継父を選ぶ場ってことよ?知らないところで話が進んでもいいのかしら?」
「それは……いいんじゃない?っていうか普通そういうものでしょ!!何で過程を見せようとするのよ?」
勢いで誤魔化そうとしたものの、どう考えてもセアラが正論なので、旗色の悪いリタは議論を切り上げる。
「……あ〜もう!!セアラは居るだけでいいんだって。アル君と結婚してるのは周知の事実なんだからさ、口説くような人はいないわよ。それに費用は全部向こう持ちだからいいでしょ?ほらほら男衆がもう来るから座って座って、まあ人助けだと思ってちょうだい」
「うぅ……アルさんにバレたらどうするのよ……」
「大丈夫だって!アル君は今頃うちでご飯……そう言えばシルちゃんとデートか……まあそんなことを有り得ないって!」
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