第112話 セアラの誕生日とアルの浮気疑惑② もしかして浮気?
アルが謎の女性とカフェで『お話』をしている頃、別行動のセアラたちは、雑貨店や家具屋などを巡る。今は順調に買い物リストを消化し、そろそろ家に向かおうかというところだった。
「セアラ〜、他に何かいるものあったっけ?」
収納魔法を発動させ、買ったものを手際良く収納空間へと入れていくリタ。
「ううん、多分買い忘れはないと思うけど……アルさんの方は大丈夫かな?」
二人の会話から、買い物の終わりを察知したシルが、セアラの袖をくいくいと引く。
「ねぇねぇ、買い物終わったなら本屋さん行こうよ。まだ時間も早いでしょ?最近新しい本を買ってもらってないよ」
「う~ん、本屋さんか……仕方ないなぁ、じゃあちょっとだけね」
シルが可愛らしくおねだりをすると、セアラは口では渋りながらも、娘の頭を撫でて微笑む。
「わ〜い、ありがとう!ママ大好き!」
「ふふっ、相変わらずシルちゃんはおねだり上手ね。ところでセアラは、何か欲しいものとかないの?」
今こそが自然に聞き出せるタイミングと踏んで、リタが誕生日プレゼントのヒントを得ようと果敢に斬り込む。
「え?別にないよ?」
「は?何も無いの?新しい服とかアクセサリーとかさぁ、何かあるでしょ?」
「だって服はアルさんにいっぱい買って貰ってるし……アクセサリーだって、指輪もペンダントも持ってるからいいよ。それにこれからはずっと家族一緒にいられるんだよ?それが私が一番欲しかったものなんだから、それで十分だよ。これ以上何かもらおうなんて罰が当たっちゃうって」
一切の迷いなく、眩しい笑顔で言ってのけるセアラ。これ以上突っ込むと、まるで自分が物欲にまみれているように思えてしまいそうで、リタは引き下がる。
「そう……じゃ、じゃあ本屋さんに行こうか」
「うん!行く〜!」
(アル君、ごめん……まあセアラはアル君からなら、どうせ何でも喜ぶから大丈夫!)
三人は並んで本屋への道を歩いていくと、顔見知りの三人組の冒険者たちから声をかけられる。
「あ、セアラさんじゃないですか。今日はアルは一緒じゃないんですか?」
「ええ、アルさんとは別行動で買い出しですね。多分市場の方に行かれてると思いますよ、何かアルさんに御用でしたか?」
「じゃあさっきのはアルで間違いないのか……」
「なぁ、セアラさんに言ったほうがいいんじゃねえの?」
「ああ、もはや奴は俺らの敵だからな」
冒険者たちはひそひそと密談を交わした後、セアラに対して神妙な面持ちで向き直る。
「ええっと、みなさんどうされたんですか?随分と真剣な顔をされて」
「セアラさん……落ち着いて聞いてくれ。アルが市場でナンパしてた!あ、いや違うか、逆ナンされてた!」
満を持して発せられた言葉であったが、セアラたちの反応は鈍い。
「すみません、逆ナン、とは何でしょうか?」
「セアラ、逆ナンっていうのは、町中とかで女性が面識のない男性に声掛けをすることよ」
「はぁ……アルさんはこの町では有名ですから、そういったことも有りうるんじゃないでしょうか?」
「うん、パパは私たちといても、よく声をかけられてるよ?」
リタの説明を受けても、いまいちピンと来ていないセアラとシルが、首を傾げて冒険者たちを見る。
「それはちょっと違うかしらね、ただ声をかけるだけじゃないのよ。一緒に食事に行きましょうとか、そういうアプローチをすることなの」
「そう、そういうことなんですよ。アルの野郎、その女と一緒にカフェに入っていきやがったんですよ!セアラさんというものがありながら、許せねえって思いましたよ。アイツ、いつの間にあんな軽いヤツになりやがったんだって!」
冒険者たちが拳を震わせて怒りを露わにすると、セアラもようやく理解が追い付き焦り出す。確かに、今、聞かされたそれは、セアラの知るアルが取るような行動ではない。
「えと……で、でもただのお知り合いの方、という可能性もあるのでは?アルさんも色々な依頼を受けられているようですし、カペラではそれなりに顔が広い方ですから」
「いや、それがね、アルに声を掛けたのは相当キレイな姉ちゃんだったんですよ。この町の者で、キレイな姉ちゃんの情報なら俺らの頭に入ってない訳は無いんですよ。つまり他所から来た姉ちゃんに、ほいほい着いていきやがったってことなんすよ!あぁ思い出したらムカムカしてきた、くそぉ、アルのヤツ、ちょっと顔がいいからって調子に乗りやがって!」
嫉妬交じりに、なかなか気持ちの悪いことを自信満々に
「そ、そんな……何かの間違いじゃないでしょうか……アルさんに限ってそんなことある訳が……」
「そうそう、私から見てもアル君が、セアラ以外の女性を見るなんて思えないけど?その話が本当だとしても、何かしら理由があるんだと思うけどね」
「そうだよ〜、パパがママ以外の人を好きになるわけないじゃん」
「そ、そうだよね!うん!きっとそう!」
自分に言い聞かせるように、リタとシルの言葉を肯定するセアラ。しかし冒険者たちはなおも食い下がる。
「いいですかい、セアラさん?男っていうのはね、例え好きじゃなくても女を抱……」
シルがいるというのに、教育上よろしくないことを言おうとしている冒険者の眼前に、風の刃が渦巻き、鼻先を僅かに切る。
「教えてくれてどうもありがとう。でもそれ以上言ったら、舌が無くなると思ってちょうだい」
氷よりも冷たいリタの微笑みと眼差しに、冒険者たちは震え上がる。
「は、はい!それでは失礼いたします!!」
「まったく……」
「ねぇねぇ、おばあちゃん。あの人たち何を言おうとしてたの?」
無邪気に小首を傾げるシルに、リタは嘆息する。
「そうねぇ、シルちゃんが、もうちょっと大きくなったら分かるかもね……分からなくてもいいけど……」
「ふ〜ん……まあいいや。じゃあ本屋さんにしゅっぱ〜つ!!」
大きく腕を振って、スキップをしながら先導するシル。そしてそれを微笑ましく眺めながら歩くリタ。セアラは心ここに在らずといった感じで、どうにかその後ろをついて行くのだった。
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