BLOOD・My・Heart ~吸血鬼のオレ様、地球とかいう場所に来ちゃったので逆異世界生活頑張るぜ!!~

霜月

第1話:最低最悪なヴァンパイアとの出会い

 その日、私は吸血鬼と出会った。


 ********************


 バイト終わり、珍しく人っ子一人いない月夜と街頭に照らされた明るい道をあかねありすは鼻歌を歌いながら歩いていた。


「~♪~~~♪」


 気分高らかにスキップしたりフィギュアスケーターの真似事をしてみたりしていると、ふと空に浮かぶ月が気になった。

 なんだかいつもよりも大きく感じる月は吸い込まれてしまうのではないかという魅力を持ち、ありすは思わず届くはずのない月に手を伸ばした。


「ん?」


 不意に指と指の間からが見えた。


「――――――――――――ァァァァァ…………!!!」

「ハ?あ?ウェ?」


 その何かなにかに気が付いた時にはもう手遅れだった。

 ありすとそれは勢いよく衝突した。『ゴツン!』という効果音が似合う程、強烈に。


「―――――――――!!!!!」


 声にならない声で叫んだ。否、悶絶した。

 ハッとすぐに目を覚ますと頬に鈍い痛みを感じた。


「痛い!」


 両頬を押さえ叫ぶと目の前の男が憫笑していた。


『……誰だ?』


 初めてみる人だった。だがどこかで見たことがある。

 なのに誰なのか全く思い出せない。

 必死に思い出そうとしていると、突然脳裏に失っていた記憶がよみがえった。


「アーーーーーッ!アンタさっきはよくも……っていうかアンタ、私の頬っぺた叩いたでしょ!めっちゃ痛いんだけど!」


 ありすはものすごい剣幕で詰め寄った。しかし―――

 男は両掌を上にして何を言っているのか分からないというポーズをとった。

 思わず顔面に拳をめり込ませるところだった。が、ありすは何とか平常心を保とうと努力した。

 だが、男の完全に人を馬鹿にしているその表情と動きに、平常心の糸はいとも簡単に切られてしまった。

 ノーモーションで放たれた拳は見事に顔面に突き刺さり、華麗に吹き飛んでいった。

 一息ついて手を払っていると、倒れていた男がゆらりと立ち上がった。

 そして、ありすに近づくとありすの頬をムギュッと片手で掴んだ。


にゃにしゅんのよなにすんのよ


 突然空から降ってきた全身黒ずくめの長身シルクハット外国男という不審者まっしぐらの男に掴まれても、ありすは臆することはなかった。

 それどころか噛みつかんとする勢いだった(頬を抑えられているため噛みつくなんてことはできないが)。


はにゃせ離せ


 数秒の沈黙の後、ありすは金的蹴りを見舞ってやろうとした。

 しかし、男が自分を見ずにその奥を見ていることに気付き、足を止めた。

 そして次の瞬間、ありすは地面に突っ伏していた。


「イッたい!もう許さな……い……?」


 ありすは直ぐ様立ち上がり、とっちめてやろうとしたが男はありすの背を向け何かを見ており、ありすはおもわず手を止めた。

 ありすも男が見ている方に目をやるとそこには―――


「何アレ?」


 塀の上に翼の生えた子どもくらいの大きさの生物が座っていた。


「ガーゴイル」

「え?」


 男はありすの疑問に答えるかのように呟いた。

 ありすが問い詰めようとすると、男は黙らせるようにありすの前に手を出した。

 そして、ありすからは見えなかったがもう片方の手を口元へと持っていった。


「ギャギャギャギャギャギャギャ!」

「―――ッ!」


 塀の上にいた男がガーゴイルと言った生物が飛び上がった。

 ありすは思わずたじろいだ。しかし男は驚く素振りすらなかった。

 男は歯を使い指を切り、そして―――


「・・・・フッ」


 ―――逃げた。

 全速力で。しかもありすを捨ておいて。脱兎のごとく。


「待てコラァ!置いてくなぁ!!」


 ありすはすぐに追いかけた。


「なに一人で逃げてんだ!ふざけんなよお前!乙女を置いてくとか何考えてんだ!てか、何アイツ、アンタのペット!?飼い主ならなんとかしなさいよ!」

「**********************」

「はぁ!?何言ってるかわかんな―――うわッ!」


 突然腕を引っ張られたありすはそのまま男の胸に飛び込んでいった。

 と、思ったがギリギリのところで男は華麗にかわし、ありすはごみ袋の山へダイブした。

 ありすはすぐに顔を上げ、男の方を見ると――――


「なっ―――」


 怪物の鋭利な牙が男の腕に食い込んでいた。


「私を助けて……」


 ありすが目の前の光景に呆然としていると、男は怪物を蹴り飛ばし向かいの壁にぶつけると、ありすの元へと近づいた。


「あの、ありがと……」


 血の滴る左腕を見たありすには、それ以外の言葉が思い付かなかった。

 たとえ通じないとしても言わずにはいられなかった。

 そんなありすの言葉に答えるかのように、男はありすに向かって手を延ばした。

 ありすはその手をとろうとした。しかしその手はありすに触れることなく隣に落ちている白い板を取った。


「・・・」


 そして男は白い板に血を使って何かを描き始めた。

 十数秒程で描かき終わるとその絵をありすに見せつけた。


「はい?」


 お世辞にも上手いとはいえない絵。しかし伝えたいことはわかった。

 だからこそ余計に訳がわからなかった。

 戸惑いを見せるありすに男は板を叩き絵の内容を強調した。


「わかるけどわかんないの!どういうこと!?」


 そうこうしている内に倒れていた化物が起き上がっていた。


「ヴ―――ギギ……」


 その様子を見た男は更に強く板を叩いた。


「――――――――――ッわかったわよ!もうどうにでもなれ!」


 ありすは袖をまくり男に向かって差し出した。


「ウギャギャギャギャギャギャ、ギャーーーーー!」


 化物は翼を大きく広げるとありすと男を襲わんと爪を立て、牙をむき出しにして飛びかかった。


「ヒッ―――!」


 ありすがおもわず目を閉じ悲鳴を上げると同時、一瞬だけ腕に針を刺されたかのよう痛みが走った。

 そしてありすが目を開けると―――


「え?え!えええぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ありすは空に浮いていた。

 正しく言うなればコウモリのような翼が生えた男に抱えられ飛んでいた。


「よくやった小娘。褒めてやる」


 そう言い、男は血にまみれた左腕を真下で見上げている化物に向けて振り、血を飛ばした。


「消えろ」


 そして男の言葉に反応するように無数の血が槍状に変形すると、速度を増して化物の全身を貫いた。


「なっ……アッ……」


 今まで見たこともない光景にありすは言葉が出なかった。

 が、直ぐに我を取り戻すと体をひねり男の胸ぐらを掴んだ。


「おいコラ、日本語喋れてんじゃん。ねぇ、どういうこと?」


 ありすの質問に男は心の底から嫌そうな顔をした。

 そんな男の態度にまたもやありすの心の糸が切れた。


「こっちはアンタに聞きたいことがいっっっっぱいあるの!全部説明するまで絶対に離さないからね!」

「オイ暴れるな!バランスが―――」


 男は必死に体制を立て直そうとしたが健闘むなしく、そのままありすもろとも墜落していった。


「イタタタタ……」

「だから暴れるなと言っただろ」

「なっ―――そもそもアンタが……」


 詰め寄ってやろうと、ありすは立ち上がろうとしたが強い立ちくらみに襲われた。


「あ……れ……?」


 立っていることもままならず目の前が黒く染まっていき、ありすの意識は途絶えてしまった。

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