暗闇から光を見つけるにはどうしたらいいですか?

謎の養分騎士X

暗闇から光を見つけるにはどうしたらいいですか?

追想

 天井には多くの照明が埋め込まれており、目を細めるくらい明るかった室内は、息が詰まりそうなくらい濃密な魔力が立ち込め、あたりを濁らせる。

 息切れが激しくなり、釘を刺されたように頭が痛い。

 少しでも気を抜けば、意識が闇の中へ消えていきそうだ。

 これまで多くの戦闘で、魔力を使用した代償だろう。

 体格に不釣り合いなほど大きな鎌を持った少女は、一切の隙を見せない。

 どのようにして突破口を見出すか、思考が上手くまとまらない。

 を殺さないとならない人生がこの世に存在するのか 、なぜ神は俺だけに試練を与えるのか。

 世の中は不公平で残酷だ。


「続きを始めよっか、お兄ちゃん」


 そう言うと彼女は、大鎌を後ろに構え、迫ってくる。

 射程に入ろうとした瞬間、上に大きく飛び上がり振り落とす。

 反応が遅れ、寸前のところで刃を受け止める。

 あと少し遅ければ、その刃は首元に入り込んでいただろう。

 素早く後方に飛び下がり、乱れた息を肩で整える。


「お兄ちゃんなら分かってくれると思ったんだけどなー、残念だよ」


「俺も佳奈はもう少し物分りが、いいと思ってたんだけどな」


 佳奈は、先程よりも強力な魔力を解放する。

 その瘴気を纏った魔力は、今の彼女の心情を表しているように見えた。


「それじゃあ行くぞ」


「うん」


 佳奈が頷いたのを合図に、一気に駆け寄る。

 その瞬間、一瞬の隙を作り出す方法が思い浮かぶ。

 ただ、彼女を裏切ることにもなるが、それ以外に方法がない。

 目尻に涙を浮かばせながら、僅かな瞬間、耳元で囁く。


『佳奈──』


 佳奈の手が一瞬だけ止まる。

 その隙を逃がさない。黒く染った剣を隙間を縫うようにして一気に切り上げる。

 何度も経験した生々しい感触が、そこにはあった。

 目の前で鮮血が飛び散る。

 理解していたはずだった結末なのに、感情が抑えきれない。

 嚇怒と哀惜が混ざりあったこの感情を、どこにぶつけたらいいのかも分からない。

 ただ彼女を強く抱き締めながら、泣き叫ぶことしか出来なかった。

 俺は殺してしまったんだ──妹を。



 ────────




 あたりを照らす陽の光は消えつつあり 、時折建物の隙間から風が大きな音を立て、吹き付ける。

 薄暗く少し不気味な路地裏で、信じ難い光景を目の当たりにした。


「久しぶりだね、お兄ちゃん」


 そこに居たのは五年前に死んだはずの妹だった。

 全身に鳥肌がたち、目の前の出来事にまだ理解出来ずにいた。

 そもそも現代魔術社会において、蘇生魔法など開発すらされていない。

 仮に可能だとしても、術者の命を奪うほどの魔力が必要になると言われている。

 しかも術者の命に関わる魔法は禁術タブーだ。


「なんで、お前が⋯⋯」


 ようやく発することが出来た、消え入りそうな声。


「本当にごめんね⋯⋯」


 白い霧が一面に広がり視界が遮られる。

 視界が開けてきた頃には、彼女の姿はもうない。

 突然の出来事に、ただ呆然とするしかなかった。




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