オートマン
つぎはぎ
オートマン
「助けてくれ! オートマン!」
その声はストーロムック都市の住民街からだった。
『オートマン、また助けの声だ。今すぐ現場に急行しろ』
その声は一瞬でルカをオートマンに改造したノヴィー博士の研究所に届き、それと同時にノヴィー博士はマップデータと共にルカへ指示を送信した。
それを受け取った時ルカはまだ寝ていたが、問題はなかった。ルカはすぐに準備は整えられた。それはオートマンへと改造された時に付けられた、睡眠時に指示信号を受け取ったら強制的に意識を覚醒させる機能のおかげだった。
ルカは窓から家の外に飛び降りると、家の上に家が建てられ、大きさも素材も違う家を使った積木と表現できるものが、縦横無尽にずらりと並んでいる光景がルカの視界いっぱいに映った。
ルカにとっては何も思うことはないいつもの光景であったが、有識者ならその後継が遥か昔香港にあった九龍城砦を思い起こす光景であった。
ルカは一秒経過するかしないかで、地面まであと1メートルもないところに辿り着き、その瞬間両足の脹ら脛に収納されているジェットを展開した。刹那、カメラのフラッシュほどの長さで青白い閃光が強く放たれ、一瞬でルカことオートマンは上空600メートル地点に移動していた。
ルカがオートマンになってから十年の月日が経過していたが、十年前は楽しかったヒーロー活動が今ではただの事務作業へとなっていた。
ただそれでもルカはオートマンを辞めなかった。
いや、辞められなかった。
ルカが本気でオートマンを辞めようかと考えると、その瞬間思考が混濁し、ルカは何を考えていたのかわからなくなるのだ。
ルカは四年ほど前、一度ノヴィー博士にオートマンを辞めたいと申し出たことがあった。
その時ノヴィー博士はルカの申し出を承諾するといい、オートマンの装備を体から取り外すからとルカを手術台に乗せた。
ただ、その言葉は嘘だった。
ノヴィー博士はその時に思考制御機能をルカに付けられた。
それから、ルカは一度も辞めたいなどと考えられなくなった。
ただそれでも、ルカは心のどこかで蟠りを感じている。
オートマンは誰かの役に立ちたい、ヒーローになりたいという14歳のころのルカの純真な願望と、今の錆びれた世の中に必要なものは、ヒーローのような光あるものだというノヴィー博士の思想が上手く嵌って始まったものだった。
オートマンが誕生した当時、世界で初めてのアメコミヒーローのような存在に、世間は大いに沸いた。メディアはオートマンを続々と取り上げ、街を歩けば人々はオートマンに感謝と応援の言葉をかけた。
それは当時青年期でアイデンティティの確立を行う時期のルカにとっては、自分が必要とされていると感じることができる環境であり、自分自身が光輝いてるように見えた。
ただ、三年もすればオートマンの存在なんて誰も気にかけなくなった。それでもルカは一生懸命また褒められようと、感謝されようと、世間の話題になっていた当時よりも必死にオートマンとして活動した。
ただその努力は虚しく、もうオートマンは過去のものだった。
どんな善行でも日常的にそれをやっていると、人々は当たり前のことであり、感謝に値するものだとは思わなくなるのだ。
とうとうオートマンに助けられた人の中にも、感謝の言葉を言わない人がでてきた。
世間はすでにオートマンの存在を、食用オイル屋の店員かのような認識をしており、オートマンは特別な存在じゃなくなっていた。
そしてルカはある時気がついた。自分自身が光っていたわけではないと。
ルカにあった光はルカ自身の光ではなく、オートマンの光でもなく、世間の光を映しているだけ。
世間から忘れられたルカにもう光は当たっておらず、光ることはない。
ルカは博士に付けられた数々の機能のせいで、オートマンとしてしか生きる道がない。
ルカに残ったのは空っぽのオートマンという役職だけ。
そこからルカは、アイデンティティを失ったルカは悶々とした気持ちを抱え、その気持ちを思考制御機能に誤魔化されながらオートマンとして生きている。
オートマンの名に相応しく、自動的な毎日を送っている。
オートマン つぎはぎ @tombo1
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