第3話 ショタ婚約者にときめきが爆裂ですわ
「本日よりどうぞよろしくお願いいたします。マルコ・オルグレン様」
「……ど、どうも」
優雅に一礼した私に対して、マルコ様は不安げな表情でそう仰っただけでした。
お父様にお願いして早速オルグレン侯爵家に婚約を打診してもらい、侯爵家から二つ返事で了承をいただいてから5日。
私は早速侯爵家の屋敷に赴き、新たに婚約者となったマルコ様とお顔を合わせたのです。
「緊張していらっしゃるのですか? 私はもうあなたの妻も同然です。お気軽に接してくださると嬉しいですわ」
「は、はい。ですが……すみません、僕は軟弱者なので。緊張してしまって」
……か、可愛い。
まるで子犬のように弱々しいマルコ様を見て、私の庇護欲は一気にかき立てられました。
マルコ様にお会いするのはこれが初めてです。彼は私の5歳下の12歳。私がザウアーと婚約した頃にはまだほんの幼児で、それ以降もベルグリット侯爵家と縁のあった私にはオルグレン侯爵家の彼と知り合う機会はありませんでした。
彼については「軟弱で、とても軍家の跡継ぎの器ではない」という社交界の評価でしか存じませんでした。
ですが、いざこうしてお会いするとどうでしょう。可愛すぎです。マルコ様に比べたらザウアーなどニヤついた猿も同然です。
マルコ様の笑顔が、声が、仕草のひとつひとつが起爆剤となって、私の中の新たな性癖……ではなく、新たな母性の扉が開いてしまったみたいです。
私が語りかけても不安げなままの彼がとても可哀想に思えてしまって、思わずギュッと抱いてしまいました。
「えっ!? あ、あの、エレーナ様……」
「『様』など不要です。どうぞエレーナと呼び捨てになさってください。これからは私がお傍であなたをお支えしますわ」
「は、はいぃ……」
顔を真っ赤にしてしまったマルコ様に、私はそう優しく語りかけるのでした。ああ可愛い。おっとよだれが。
・・・・・
マルコ様と運命の出会いを果たした私ですが、その可愛さにいつまでも見惚れてよだれを垂らしている場合ではありません。
彼の立場を守り、オルグレン侯爵家の安泰を成し遂げ、彼と私の幸せな人生の地盤を強固なものにするためにも、憎きザウアーには没落してもらわなければなりません。
「マルコ様、私の夫となるあなた様に、ひとつお話しておかなければならないことがあるのです」
「ああ、ザウアー・ベルグリット様の件ですね」
お茶会や食事会などで数度顔を合わせ、ようやく平常心を保ってお話いただけるようになったマルコ様は、私にそうお返事をくださいました。
「ご存じでしたの?」
「ええ、まあ……ベルグリット侯爵家の動向は、父上からもよく聞かされていますので。ザウアー様がエレーナに行った仕打ちを聞いて、僕もとても心苦しくなりました」
マルコ様にそう憐れんでいただいて、私は思わず彼の手に自分の手を重ねました。
「ありがとうございます、マルコ様……ですがそれはもういいのです。私はマルコ様という運命の殿方と出会えたんですもの。しかし、私の感情だけ満足して済ませるわけには参りません。オルグレン侯爵家の安泰のためにも、私たちはザウアー様に政争で勝たなければならないのです」
これにはほんの少し嘘があります。私たちの安泰のためなのは本当ですが、ザウアーはやっぱり憎いのです。復讐は必ず果たさなければなりません。
「せ、政争ですか……」
「はい。私たちが結びついたことを知れば、軽薄で卑劣なザウアー様は必ずこちらを攻撃してきます。だからこそ、こちらが先手を打たなければならないのです」
「……」
「マルコ様、どうかご決断を。もちろん私も全力でお手伝いさせていただきますわ」
「……分かりました。エレーナを信じます」
決意したようにそう仰ったマルコ様に、私は喜びのあまり抱きつくのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます