僕(看守)が見回りをしていると、城の地下牢に悪役令嬢(幼馴染)が裸で放置されているんだけど。

秋 田之介

僕(看守)が見回りをしていると、城の地下牢に悪役令嬢(幼馴染)が裸で放置されているんだけど。

「今日より配属となりました、サンダーです。よろしくお願いします!!」


同僚や先輩の前で緊張するな……。


でも、ニヤついた笑いが板についているから、きっといい人たちに違いない。


笑顔をする人に悪い人はいないって、婆ちゃんが言ってたもんな。


婆ちゃん……僕、いい配属先に決まったよ。


「おめぇは、なかなかついているな」


ついている?


ラッキーってこと?


「どういうことでしょう?」


「昨日だ。第二王子から差し入れがあってな。今夜あたり、楽しむつもりなんだが……おめえはいける口か?」


酒だろうか?


どうだろう……飲んだことがないから分からないな。


「初めてなので……どうなるか。もしかしたら、皆さんに迷惑を掛けるかも知れません」


「へへっ。初めてとは、良かったな。ここで捨てれば、一気に男になれるってことだな。こいつはいいや」


聞いたことがある。


酒は男の飲み物だと。


やっぱり、いい人たちなようだな。

 

「じゃあよ。差し入れの管理はおめえに任せたぞ。だがよ。俺達より先に味見するような真似だけはするなよ」


どうやら疑われているようだな。


そんな節操なしとは思われたくない。


「僕はそんなに無粋ではありませんよ。でも、正直、初めてなので、ちょっと緊張しますね」


「はっはっはっ。なぁに、緊張するのは最初だけだ。そん次からは気持ちよくなるぜ」


たしかに、酒を飲んでいる爺ちゃんは、それはそれは気持ちよさそうだったもんな。


「分かりました!! それで? それはどこにあるんですか?」


「おお。随分とやる気じゃねぇか。独房分かるか?」


なんで独房の話なんか。


急の仕事の話ってわけか?


「? それは、もちろんです」


「よし。そこに差し入れがあるからよ。まぁ、適当に見張っておいてくれ。かなりの上物だからよ。邪魔されると面倒だ」


一体、どんな酒なのだ!? 


さすがは第二王子からの差し入れと言ったところか。


そんなもののご相伴に預かるとは、初日から本当についているな。


「分かりました。それでは夜まで監視の任に就かせてもらいます」


「よし。見るだけなら好きにしていいからな。夜までに気分を高めておけよ」


なんでもイメージが肝要だと言われているからな。


「分かりました!!」


「へへっ。随分と物分りが良くて助かるぜ。中には、嫌うやつもいるからな」


たしかに。姉などは酒を一滴も飲めないからな。


「僕は他の連中とは違いますよ」


「おっ!! 頼もしいことを言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、差し入れの方、頼んだぞ」


「了解しました!!」


僕が看守として働くことになった場所は、王城の地下牢だ。


王都でなんとか働き口を探していたところ、偶然に求人を見つけて応募したら、採用された。


まさか、こんなにいい職場に出会えるとは、奇跡としかいいようがない。


 

ちなみに僕は王都出身ではない。


ある地方の公爵家の家で生まれた。


といっても貴族ではない。


家付きの家令をしている両親の元で生まれたのだ。


家が屋敷の敷地内にあるから、公爵家の家で生まれたと言っても嘘ではない。


そこには、僕と同じ歳の娘がいた。


いわゆる公爵家の令嬢だ。


高嶺の花としか言えないほど、彼女は可憐で、美しかった。


彼女はよく僕の相手をしてくれた。


騎馬ごっこで、よく馬役をやらされたり……


魔法の稽古でよく的にされたりした。


とてもいい思い出だ。


彼女は今頃何をしているのだろうか?


実は彼女に僕は恋をしていた。


ダメだと分かっていても、自分の心に嘘をつくことは出来ない。


王都に来たのも、もしかしたら彼女に逢えるかもしれない……


そんな邪な思いからだ。


でも、こんな場所で会えるわけないよな。


たしか、彼女は王立の学校に行っているはず。

 

今頃は、学友と楽しく勉強をしているのかも知れないな……


ああ、もう一度、会えるといいな……


随分と考え事をしていたようだ。


目の前に独房の扉が迫っていた。


たしか……独房は今は使われていないはず。


なるほど。隠し場所としては最高か……


独房の扉を開けると、いくつかの扉が見えた。


地下牢だけあって、ジメジメとして、いるだけで気分が悪くなる。


独房は、囚人の中でも反抗的な奴を入れる場所。


それゆえ、環境もあまり良くない。


他は石畳なのに、ここだけ土がむき出し。


虫もよく見かけるな……


命令でなければ、長居をしたいとは思えない場所だ。


こんなところに差し入れを隠すのは、やっぱり間違いじゃないだろうかと、思い始めていた。


「どれどれ……差し入れってどんなのかなぁ」


ひとつひとつ独房を覗くがそれらしいものはない。


ついに最奥の最後の独房だけになった。


「ここかな? ……へ?」


な、なななななな……なんで、ここに人が?


差し入れは……酒ではなかった?


いや、待て。落ち着け……


ここは確認をするのが一番だ。


たしか、威圧的に話しかけるのが正しいんだっけ……


「おい!! そこの」


薄暗く、奥で座り込んでいるせいでよく見えない。


「聞こえているのか!!」


「う、るさいわね」


女か?


掠れているようだが、声は女のものだった。


「女。お前は何者だ!?」


「放っておいてよ!! どうせ、私は慰み者になるんでしょ? もう、嫌!! どうして、こんなことになったのよ」


慰み者? その言葉だけがやけに耳に残った。


……先輩との話を思い出していた。


手を出すな……初めて……そして、第二王子からの差し入れ……全てが合点がいった。


こんな酷い仕打ちを受けるなんて、どんな罪を犯せば、こうなるんだ?


まぁ、罪人に情けは禁物だ。


本人が話したくないというのなら、放っておくか……


とりあえず、独房からはかなり芳ばしい臭いが漂ってくるので、距離を置きつつ、立って監視をすることにした。


……十分後


結構、暇だな。


女は何かモゾモゾしている。


……十分後


「ねぇ、ちょっと……」


無視だ。


……十分後


「ちょっと、あなた!! 無視すんじゃないわよ」


聞く耳は持たないぞ。


……十分後


「ねぇ……あなた……サンダー?」


あん?


なぜ、僕の名を?


どこかで聞かれた?


いや、そんな訳はない。


あまり近寄りたくはないが……


薄暗い中に女の顔が薄っすらと見えた。


そんな……馬鹿な。


そのほくろの位置は……


「ローズ……様。なぜ、ここに」


そこにいたのは、公爵家の末娘ローズ様だった。


僕の幼馴染だ。


いや、それよりも……裸ではないか!!


扇情的な裸体を見ていたいと思ってしまうが、そういう訳にはいかない。


「ささ、この服を着てください」


上着を脱ぎ、牢屋越しに手渡した。


ローズ様はそっと上着を羽織ってから……


「ありがとう」


という言葉を期待したが、返ってきた答えは……


「遅いのよ!! さっきから無視して、どういうつもりなの?」


「いや、あの……まさか、ローズ様だとは思わず……いや、そんなことより、なぜここに?」


「思い出したくないわ!!」


沈黙が流れた……


……十分後。


「私ね、裏切られたの……」


急に話しかけられて、ドキッとしてしまった。


ここは黙っておいたほうが良いのかな?


「第二王子と婚約していたの。幼少の頃から。第二王子って見たことある?」


ないかな……


「あんたごときが見られるわけ無いか」


ちょっとイラッとした。


僕だって王城勤務なんだ。


第二王子に会うことだって!!


まぁ……会ったことないけど。


「すごく美形なの。言い寄ってくる女もいっぱいいるのよ。その中の一人、平民の娘がいたの。第二王子のやつ、平民ごときにご執心で、私を蔑ろにしたのよ」


そんな世界は全く想像もつかないけど、その平民の子はきっと、ものすごく美人なんだろうな……。


「だから、注意してあげたのよ。第二王子は王族。ただの貴族なら可能性はあるかも知れないけど、王族は無理。きっと悲しい思いをする。そういったら、あの平民、私を侮辱したのよ!! 許せる?」


僕も平民だ。貴族はどう考えるか分からないけど、きっと平民の娘は第二王子に本気だったと思う。


僕だって……。


「だから殴ったわ。キレイな顔にね。そしたら、平民は泣いて行ってしまったわ」


そりゃあそうだろうね。


ローズのパンチは何度も経験しているけど、女の子とは思えないほど強い。


うんうん、頷いていると、鉄格子の間から鉄拳が飛んできた。


「ぐふっ……何を……」


「あなたが私の味方をしないからよ」


味方も何もない。


「平民に何をしてもいいと思わないでください!! きっと彼女は本気だったはず。それを侮辱すれば、侮辱し返すのは当然じゃないですか。僕だって!! ……」


……沈黙が流れた。


……十分後。


「確かにそうかも知れないわね。彼女を平民としか見ていなかったから、上から目線で言ってしまったかもしれないわ。反省するわ」


信じられないな。


あの傲慢なローズが……自分の非を認めた!?


まさかな……


……十分後。


「それで? まさか、それが原因ってことはないですよね?」


ここに来た理由だ。


さすがに平民を殴ったくらいで、この扱いはないだろう。


きっと、もっと凄い理由が……。


「多分、それが原因だったと思うわ。第二王子の態度が急に変わったの。今までは冷たいと言うか、私には無関心だったのに、攻撃的と言うか……なんだかよく分からなくなったの」


どういうことだ?


第二王子は平民の娘にご執心だった……


陰口でもしたってことか?


……十分後


「それからは下るように、私と第二王子の関係は悪くなっていったわ。何をやっても裏目。そして、ついに王族である第二王子に対する侮辱……王族侮辱罪で捕まったの」


王族侮辱罪。


それは王法でも厳しい罪を言い渡される。


あらゆる苦痛を与え、そして死刑となる。


原因が平民を殴ったことで、そんなことになってしまうのか……


「ねぇ、私はこれからどうなるの?」


……沈黙が流れた。


……十分後。


その間、僕は考えてしまった。


ローズ様がこれからされるであろうことを……先輩たちに蹂躙される姿を……


ローズ様はそこまでされるほどの罪をしたのだろうか?


なにゆえ、そこまで貶められなければならないのだろうか?


第二王子はローズ様を婚約者として、扱っていれば、こんなことにはならなかったのではないか?


しかも、婚約者を……差し入れだと? ふざけやがって!!


「ローズ様……ここから逃します。命をかけても……」


「……要らないわ。私のために、貴方が犠牲になることはないわ。この仕事……大切なんでしょ?」


答えられなかった……。


……十分後。


「この仕事を探したのは……ローズ様に逢えるかもしれないと、淡い期待をしていたからなんです」


「ふふっ。だとしたら、貴方の読み通りだったわけね。出会い方はこれ以上ないほど、最悪なものだったけど」


ええ、最悪です。


でも、裸を見れたので差し引きゼロです。


……十分後。


「なんで? 私に会いたかったの? 今、思えば……あなたをあの娘のように平民としか見ていなかったわ。だから、色々と酷いことをしてしまったわね。今更だけど……ごめんなさい」


「違うんです!! 謝罪なんて欲しくないんです……ローズ様の……笑顔だけあれば、僕は……ローズ様を好きだったんです。ずっと前から……」


……十分後。


「どこが? 私のどこが好きなの?」


「分かりません。だけど、ローズ様といるだけで嬉しい気持ちになるんです。殴られても蹴られても……嬉しいんです」


「思い出が最悪だけど……嬉しいわ。そんな風に第二王子にも言われたかったわね……本当に今さらだけど」


……十分後。


「好きだったんですか? 第二王子のこと」


「ええ。もちろんよ。これ以上、好きになるのかしらと思うほどに。だからかしら、色々と暴走してしまったのかも知れないわね……」


「羨ましいですね。ローズ様にそこまで想われて……」


……十分後。


「本当?」


「何がです?」


「逃してくれるって……」


「もちろんです。命をかけても」


「それじゃあ、嫌かな」


……十分後。


「貴方と一緒に逃げられないかしら?」


「どういうことです?」


「わからないの? 私と駆け落ちするのよ。いえ、この場合、脱獄かしら?」


「二人で逃げて……その先はどうするつもりなんですか?」


「分からないわ。でも貴方なら信頼出来るの。一緒にいれば安心できるわ」


「それって……」


……十分後


「ダメかしら?」


「気持ちの整理が出来ないんです。ローズ様の言葉は凄く嬉しいです。いや、それが僕の願いだったんです。だけど……」


「私と一緒は嫌? 私は貴方と一緒にいたいの。なんでなのか分からないけど……もしかしたら、ずっとあなたを好きだったのかも知れないわ。だけど平民とは結婚できない。だから、第二王子に逃げていたのかも知れないわ……」


そんな……僕は涙が溢れてきた。


こんなにうれしい言葉はなかった。


僕はずっと思い焦がれていた。


彼女のためならば、死んでも構わない。


だけど……


……十分後


「無理なんです。どうしても……」


「無理なんてことはないはずよ……」


首を何度も横に振った。


この城から抜け出すには、誰かが犠牲にならないといけない。


犠牲になるのは……僕だ。


「そう……それじゃあ、私も潔く、今を受け止めるわ。貴方なしでは生きていても詰まらないもの……」


ローズ様がそう言った時だ。


体がにわかに光り、その光は徐々に収束していった。


……十分後。


「なにかしら? ……ううん。何となく分かるわ」


急にローズ様が呟き始めた。


「な、何があったんですか? 魔法? いや、地下牢は結界で魔法が使えないはず……さっきの光は……」


「聖女になったみたい」


は?


いやいやいや。


は?


どうなっているの?


「私はあなたが好き。それに気づいたの。いいえ、気づいていたのに隠していたの。でもいいわよね? このままだと、死刑なんだし。最後の瞬間くらい正直にって……思ったら、聖女になったみたい」


はぁ……いや、嬉しいよ。凄く嬉しい。


でも、聖女?


よくわからないんだけど……。


「もう貴方の力は不要よ」


いきなりの不要発言。


いきなりの存在否定。


一応、命をかけて、ローズ様を逃がそうとしたんですけど……その覚悟を返して欲しい。


「違うの。聖女の力でなんとかなるってことよ。貴方は一緒に来てくれる?」


「もちろんだよ。もし、その力が本当にあるなら……ローズ様と一緒にいられるなら……どこまでもついていくよ」


「嬉しいわ」


「じゃあ、すぐにでも……」


「ダメよ」


……僕の焦る気持ちと裏腹に、リーズ様は実に凛として、さっきまでの汚らしい……あれ? すごく身が清められている。


これが聖女の力……。


……十分後。


「そろそろね」


「何が?」と言う前に、独房から廊下に出る扉が大きく叩かれた。


ローズ様の方を見ると、静かに頷いて、「行って」と言ってきた。


全てを見通しているのだろうか。


扉を開けると、先輩とその後ろに凄い美形の男がいた。


「おう。味見していないだろうな?」


話が分かってくると、ゲスな先輩を軽蔑してしまう。


なんとか顔には出さずに、首を横に振る。


「まあいい。こちらは第二王子だ。最後に女に別れを言いに来たみたいだ。後は頼んでもいいか?」


「え? ええ」


第二王子は僕を一瞥しただけで、周りを汚らしそうな顔で見つめていた。


「どうぞ、こちらです」


「ふん」


見下すような視線で僕を見てから、先に進んで行ってしまった。


独房のドアは静かに閉められた。


……十秒後。


「よお。ローズ。いい気味だな」


そんな声が聞こえてきた。


美形な容姿と裏腹に、言葉がなんと汚いことか。


「お前にはほとほとうんざりしていたが、こうなってみると少し可愛そうになってな。最後に別れだけでもと思ったのだ」


「……」


ローズ様は沈黙を貫いている。


「一応言っておくぞ。お前との婚約を破棄する!! お前という存在がこの世から消えて、二度と会わないことがこれほど愉快とは思ってもいなかったぞ!! もっと早く、こうするべきだった。ヒャハッハッハ」


なんてゲスなんだ。


こいつにローズ様が恋を? 


いや、平民の娘もそうだが、こんな奴のどこが良いんだ?


そんなことを考えていると、ローズがふっと面をあげた。


何かを口にした。


すると、第二王子の体とローズの体が光り輝き、まばゆい光が閃光のように独房に満ちた。


何が起きたんだ?


すると、第二王子がいた場所に……第二王子の服を着たローズ様?


じゃあ……ローズ様のいた場所には……僕の上着だけを羽織った第二王子がいた。


「おい!! なんだよ、これ。どうなってやがる!!」


第二王子は鉄格子を何度も叩きつける。


「そこの平民。さっさと牢を開けろ!! さもないと、てめえも死刑にするぞ!!」


なにがなんだか……と、とにかく、出さないと……


腰にぶら下げている鍵を手に取ろうとすると、ローズ様がそっと手で押さえ込んできた。


そして、ローズ様は第二王子の方を睨みつけた。


「第二王子様……婚約破棄をしていただいて、感謝しております。私も、貴方のようなゲスな人と金輪際会わないと思うと清々します。そういえば……これから看守さん達と楽しいことが、そこで行われるらしいですわよ」


「何を言うかと思えば、馬鹿馬鹿しい。弄ばれるのはお前だ。オレじゃない。いいから、ここから出せ!!」


「あら? 立場がよく分かっていないようですね……」


そういうと、ローズ様が何かを呟いた。


何も起こらない……と思っていたら、独房にいる虫と言う虫が第二王子に群がり始めた。


「や、やめろ!! くそ……気持ち悪い……助けてくれ」


それをローズ様がすこし笑いながら、じっと眺めていた。


その現場は目を背けたくなるほどだ。


虫が第二王子の穴という穴に入り込む。


なんとおぞましいことだ……。


「ローズ様!!」


「……」


ダメだ。悦に入っていて声が聞こえないようだ。


「ローズ!! いい加減にしろ!!」


びくん、としたローズがようやく戻ってきたようだ。


「ローズ。やめるんだ。もう十分だろ?」


こくっと頷いたローズは、何かを口ずさむと虫たちは一斉にその場から消えていった。


第二王子は放心状態から抜け出せないのか、ボーっとしていた。


「第二王子。気分はどうですか? 抗いようもない力に蹂躙される気持ちは。少しは私の気持ちがわかってくれましたか?」


ローズはどこまでも優しい口調で問いかけるが、第二王子は戻ってくる気配はない。


「あれ? ちょっとやりすぎちゃったかしら? 本番はこれからだって言うのに」


これから? 何を言って。


それよりも第二王子にこんな真似をしたんだ。


王族侮辱罪どころのさわぎではない。完全に王国反逆罪だ。


「ローズ。早く逃げよう」


「あら? いつの間に呼び捨てになったのかしら?」


「あ、いや。つい……」


「ううん。違うの。嬉しいのよ。私も呼んでもいいかしら」


僕の名前かな? 嬉しいな。


「旦・那・様」


色々と飛ばしているけど……嬉し過ぎるぅ!!


じゃない!!


「本当にヤバイから。逃げようよ」

 

「大丈夫よ」


ローズが口ずさむと……再び、ローズと第二王子の体が光りだした。


まばゆい光に目がくらみ、なんとか見えるようになってくると……


目の前に第二王子が。牢獄にはローズがいた。


「また変わったのか……って、第二王子!?」


「私よ。ローズよ。第二王子と私の姿を交換したのよ。どう? 凄いでしょ?」


ああ。凄いよ。声も第二王子のものだ。


なんだか、不思議な感じだ。


牢獄にいるローズ(第二王子)は最初に会ったばかりの頃のように放心状態だ。


「これからどうするつもりなの?」


「もうそろそろね」


……十秒後。


ダンダンダン!!


独房の扉が鳴り響く。


ドアを開けると、先輩と同僚がニヤついた顔で待っていた。


「そろそろ時間だ。オメェは散々眺めていたんだ。順番は最後だ。いいな?」


何も言わずにいると、腰から勝手に鍵を抜き録り、先輩がどんどん先に進む。


途中にいる第二王子には目礼をするのみだった。


話が通じているということか……


それから、牢獄のローズ(第二王子)は、先輩と同僚に取っ替え引っ替え、蹂躙されていった。


放心状態のローズはただただ受け入れるだけの存在となっていた。


「オレは戻る!! 死刑まで一週間だ。それまで好きにしていいからな」


「へへっ。ありがたいこって。おい、サンダーは来ないのか?」


第二王子(ローズ)に睨まれる。


「この平民にはオレの案内をさせる」


「残念だったな。サンダー。でも、一週間もあるんだ。焦らなくても大丈夫だからな!!」


先輩……一応は後輩思いなところがあるんだな……最低だが。


一応、僕も演技をしておこうか。


「それでは第二王子。こちらへ」


すると第二王子(ローズ)がそっと耳元で囁いた。


「これでずっと一緒ね。旦・那・様」


後日……ローズ(第二王子)は処刑された。


その姿は無残なもので、全身に大量のアザがあったと言う。


どんな仕打ちをすれば、そうなるのか……


想像も出来ない。


今でも、先輩たちは楽しくやっていることだろう。


僕とローズはひっそりと辺境で暮らすことになった。


 ローズは聖女の力で孤児たちの村を作った。僕はその傍らでずっと彼女を支えた続けた。

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僕(看守)が見回りをしていると、城の地下牢に悪役令嬢(幼馴染)が裸で放置されているんだけど。 秋 田之介 @muroyan

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