第41話 もう逃がさない
ノエル視点
「スカーレットと婚約する」
「あっそ。なら国に許可を貰わないとな」
「もうすでに取ってある」
「‥…相変わらず、スカーレット嬢のことになると行動が早いことで」
当然だ。
レイクロードは何をそんなに呆れている。
まるで俺のことを理解できないみたいな顔をしているけど俺の方が理解できないよ。俺がスカーレットに関する案件を翌日に先延ばすわけないだろ。
「問題はブラッティーネ公爵家とこの国の許可だ。到底、下りるとは思えないが」
ああ、分かっているさ。
この国にとって彼女は大切(?)な道具だ。
でもどんなに大切にしていたって所詮は道具。
道具というのは使い古されたらいつかは捨てられる。古くなった道具を、壊れた道具を、人の関心をひかなくなった道具をいつまでも後生大事に持っている人間なんていない。
「すでに彼女は王子たちの婚約者候補に名前が挙がっている」
レイクロードの言葉に俺はこの国に生きる全ての人間に殺意がわいた。
彼女を瞳に映す全ての人間が死に絶えたらいいのに。
スカーレットを死に追いやった連中のくせに、彼女を苦しめるだけの存在のくせに図々しい。
彼らにその記憶がないからなんだと言うんだ。そんなものは何の弁明にもならない。
いっそう、全員殺しちゃおうかな。
「おい、今物凄く物騒なことを考えたろ。さすがに王子を殺すのはまずいからな」
「‥‥‥」
レイクロードの欠点は勘が良すぎるところだよね。
気づかないふりをしていればそこまで胃を痛めつけることもないのに。
「ノエル」
「分かったって。極力、我慢する」
「ちがーうっ!!絶対に、だ!」
「そんな約束できるわけないだろ。彼らが俺のスカーレットに手を出すなら当然、苦しめて殺すよ。それが原因で戦争になっても俺の知ったことじゃないね。俺はね、自国民が何千人死のうが俺は気にしない」
俺のことをとてもよく理解しているレイクロードは「頼むから気にしてくれ」と言いたかっただろうにその言葉を飲み込んだ。
そんなことを言われたところで気にするわけがないのだ。
それに‥‥‥。
「ルシフェルと俺の国なら俺の国の方が強いよ。大丈夫、俺とスカーレットの婚約に口出しなんかさせないよ」
邪魔なんかなせない。昔から彼女は俺のものだと決まっている。
「もしスカーレットが手に入らないのなら俺はスカーレットを殺して俺も死ぬ。誰にも邪魔はなせないし、誰にも奪わせない。スカーレットは俺だけのものだよ」
ああ、だから釘を刺しておかないといけないな。
「じゃあ、俺は用事があるから」
「どこに行く?」
「内緒。ついて来ないでね。俺がいない間のスカーレットの護衛はレイ、君だよ。いくら君でもスカーレットに傷つけたら殺すからね」
レイクロードは顔を引き攣らせながら快く了承した。
さて、じゃあ行こうか。
◇◇◇
「誰だ?」
豪華な作りの寝室。王としての威厳を保つためだけに揃えられた歴史のある調度品
そんな飾りに何の意味があるのだろう。
「こんばんは、ルシフェル国王」
王は俺の姿を認識すると不快気に眉を潜めた。
「幾ら大国の王子とは言え、些か礼儀に反するのではないか。こんな時間に許可も得ずにしかも王のプライベートルームに侵入するなど。貴殿の国では賊の真似事が許されているのか?忘れてもらっては困る。そなたはお忍びで我が国に留学した客人であるということ」
客人ならその分を弁えろということか。
自分たちがそれをできていないのに俺に説教とかマジでうざい。
いっそう殺してやろうかと思った。思った瞬間にレイクロードの間抜け面が浮かんだ。
何だかやる気が失せたな。
この男も大概、悪運が強い。
「スカーレット・ブラッティーネと婚約する。国の許可は貰っている。だから王子の婚約者にするのは諦めろ」
「なっ!そんな勝手が許されると思っているのか。彼女は我が国の」
「黙れ」
「っ」
ああ、つい抑えきれずに本気で殺気が出ちゃった。だって、まるで自分の所有物のように言おうとしたから。
本当、何様だよ。
たかが人間風情が。
「スカーレット・ブラッティーネは今、行方不明だ」
「俺の邸に招待している」
「彼女の同意を得ているのか?だとしても、なぜ公爵家に連絡を入れない。彼女の家族がどれほど心配しているか考えなかったのか」
ああ、本当にうぜぇ。
「考える必要がないことは考えない主義だ。心配?笑わせるな。今まで放置していたくせに。嫌悪していたくせに。ちょっと彼女の態度が変わるとすぐに家族面か?オルガの心臓の使い道ができたらすぐに理解者面して彼女を上手く使おうってか?ふざけるなよ。オルガの心臓はあくまでオルガが彼女を守る為に与えたもの。貴様らのような貪欲な人間の道具にする為でも、守る為でもない」
「‥‥‥そなた何者だ?」
俺は王の質問に答えない代わりに奴の頭を鷲掴みにして、彼が望んだ情報を直接頭に入れ込んだ。
「ぐあっ」
大量の情報を一気に流し込んだ為に王の頭は膨大な情報を処理することができずに苦しみだした。
頭が割れるように痛いのだろう。
頭を抱えながら苦しむ姿を見ると少し胸がすいた。
やがて、全ての情報処理を終えた王は死神にでもあったかのように俺を見る。
「スカーレット・ブラッティーネを傷つけるのなら今度は俺がお前たちを地獄に叩き落としてやる」
俺はそれだけ言って王の寝室から出た。
早く邸に帰ってスカーレットの顔を見て癒されよう。
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