曖昧さの物語(19,20話あとがき)

◆幻想ミステリ、あるいは不条理小説


「放課後のタルトタタン~穢れた処女と偽りの神様~」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054954440294


「匿名の悪意」というキーワードがまたも浮上してきます。


 放タルはミステリージャンルなのですけど、作者は幻想ミステリのつもりで書いてて、もっと言うと不条理小説に近いことがやりたいと思っているわけです。ニューロティックスリラーやノワールの要素もあります。


 これらのジャンルの共通点が何かって言うと、世界の不安定さです。あるいは自分という存在の不安定さ。


 作中で提示される謎はミステリ的に見ると伏線となるのですが、単に不安定な世界を表現するためのものでもあるわけです。


 ジョン・フランクリン・バーディンというミステリ作家がいるのですけど、彼の作品は謎の不可解さがそのまま自分や世界の不確かさの表現にもなっていて、そこが好きなんですよね。なんなら真相丸投げでもいいやと思うくらい。


 放タルはここから徐々に伏線を回収して謎を解き明かしていくわけですが、それと同時により曖昧で不確実な話にもなっていきます。


 それは幻想ミステリとして確保すべき曖昧さでもあるし――


 文学の領域で幻想ミステリを何作か送り出している奥泉光氏の言葉を借りれば、『小説のなかの「現実」が、小説の外の「現実」と同様、「ひとつ」であることに耐えられぬ現代作家としては、おいそれと「真相」を明かすわけにはいかないのであった。小説にとって「本当のこと」以上に敵対的な概念はないのである』といったところです。


 なお、ランキングは127位まで上昇した後、251位に急落しました。



◆19話「まるで天使のような」


 タイトルはマーガレット・ミラーの最高傑作とも言われる同名小説から。元はシェイクスピアからの引用になります。


 なんとなく、ここでカナの制服の理由を語らせることになりました。話してるのは五條ですが、話題はカナ、という形でメインヒロインの印象を深める作戦です。


 カナの制服の件はキャラ付けとか、6話の演出とかの要請で考えたもので、ここで語られる背景は後付けです。キャラの掘り下げなんてものはだいたいそうです。


 やっぱり、カナに興味を持ってもらわないとしょうがないんですよ。知佳にしても読者にしても。五條はもういいから、カナに興味持って!


 知佳と重なるような過去となったのは偶然なのですが(引き出しが少ないとも言う)、まあこの後の展開を考えると意味があるのではないでしょうか。メモの件もありますしね。こう、ご期待。



◆20話「紙の迷宮」


 タイトルはデイヴィッド・リスの同名小説から。


 メッセージの差出人は誰かという検討をしつつ、知佳の揺れる心情を描いています。


 そして五條の幼馴染みが再登場です。なんかちょっと空気を読めない登場のしかたをしますね。男子です。

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