私は魔物が棲む森の中に隠れた
「手配書の確認と報酬の確認をお願いします」
書記官にそう言われて、十七人の報酬を確認していく。
間違っていなければ受領を、間違っていれば却下を選択する。
この支払いは現時点であり、追加報酬がある場合は手配書を通して贈られてくる。
ほとんどは追加報酬がある。
捕縛を知った関係者や無関係者が、捕縛してくれた相手に感謝の報酬を出したりするのだ。
家族が殺された場合、犯人を捕縛してくれた報酬を贈ることが多い。
親や家族を殺された小さな子が、感謝を絵にして贈ることも決して少なくない。
捕縛と同時に届く手配書が連絡用のツールのため、よほどのことがない限りステータス内に保管される。
そして、手配書の枚数によって社会的地位や信頼度が増すため、商人などには大切なものだ。
ただし、表示されるのは『手配書の枚数』だけで、誰を捕縛したかは鑑定でも公開されない。
報復を
たまに、酔って自慢してしまい、報復として殺された人もいる。
忘れてはいけない。
捕縛された人間にも家族や身内がいることを。
彼らにしてみれば、捕縛した相手こそ家族の仇なのだ。
国境警備隊の一団と別れた私はこのまま国境に進むのを止めて、少し離れた森の中で結界を張って休むことにした。
このまま三時間で国境ではないか。
国境を越えて、早くこの国から出た方がいいじゃないか。
何故、この危険な森に入るんだ。
私の様子を見た人がいたなら、きっと、そう聞かれるだろう。
理由は簡単だ。
国境警備隊が十七人の犯罪者を王都に護送したからだ。
連中の捕縛に出た隊長や書記官から、国境に残っている警備隊に簡単な報告が入っているだろう。
そこに私がノコノコ行ったら、報酬を貰ったのが私だとバレる。
それでは、捕縛者が誰か、という個人を特定させないために手配書でやりとりをしている意味がなくなってしまう。
三時間後に到着する距離にいて、休憩を含めても約五時間。
今からなら遅くても夕方には到着するだろう。
国境は町や村と違い二十四時間営業だ。
町や村の開門時間( 六時から二十時 )にあわせて国境を越える商人はよくいるのだ。
そのため、明日の早朝にでも国境に到着すれば、少なくとも『国境から三時間の距離にいた』とは思われにくいだろう。
─── それに、王都でまいたはずの監視者が騎馬で追いかけてきている。
このまま国境に向かえば、確実に国境手前で追いつかれるだろう。
大人しく国境を越えさせてくれればいいが、トラブルに巻き込まれそうだ。
聖女を連れ戻すように言われたのだろう。
たとえお飾りとはいえ『聖女様』という虚像は必要だからだ。
さらに私は異国の娘。
殺された家族は異国の民。
それも不当な理由で家族は殺されている。
下手したら国の存亡に関わる大問題だ。
先ほどの捕縛のことが知られたら、それの調査のためという口実で王都へ連れて行かれるだろう。
それをやり過ごすため。
たったそれだけのことだけど、私は魔物が棲む森の中に隠れたのだった。
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