第4話 はじめの町……ナンパ野郎に御用心! 

 名前 リン


 召喚士 LV2


 HP 55/55

 MP 25/25


 STR 1

 VIT 1

 AGI 1

 DEX 1

 INT 1

 LUK 71


 ステータスポイント残り0


 所持スキル ペット召喚【犬】




「え……え、えぇぇ! ス、ステータスポイントが!」


「わお〜ん♪」



 リンの嘆きに、コタロウは喜びの声を上げていた。



「もう、コタロウ! ダメじゃない……イタズラして! どうしようコレ? やり直しはできないよね?」


「わん」


「これってマズイかな? LUKにステータスポイントを全部振っちゃうなんて……」

 


 いくらゲームに疎いリンでも、ことの重大さに気がついていた。

 成績表で得意科目以外、オール1みたいな……親に見られたら怒られるのが、目に見えているステータス配分に頭を悩ませる。


 もう一度、LUKのステータス説明をリンは表示して確かめる。




 LUK・幸運

 1毎にクリティカル率+0.5%

 5毎に完全回避+1%

 3毎に ATK+2

 製造スキル成功率アップ

 状態異常確率の減少




「攻撃力と回避は上がる見たいだけど、他が……どうしよう? 今のところは、問題なさそうだけど……始めたばかりだから、キャラを消して、もう一度やりなおす?」


「わうわう!」



 コタロウが『そんなの駄目』というように吠え、首を左右にブンブン振る。



「う〜ん……コタロウは反対か〜、やりなおすのは、いつでも出来るし……あとではーちゃんに相談して決めればいいかな?」


「わん!」



 コタロウが『大丈夫、自分が守るから心配ない』と、二本足で立ち上がり、リンの脚に戯れつこうとするが……リンは避けてしまった!



「わう?」


「いや、だって今のコタロウ重そうで、私じゃ押し潰されると思ったの、ごめんね」


「わう……」



 ご主人様とのコミュニティケーションが取れず、少し悲しい声でコタロウが鳴いていた。


 するとリンの視界に表示されたモニターに、システムメッセージが流れる。




【召喚師チュートリアルを終了します。始まりの町へと転送を開始します YES / NO】




「あっ! コタロウ、町に移動するみたいだよ。どんな所かな? 私、コタロウと一緒に冒険するの結構楽しみ♪」


「わん♪」


「えへへ、はーちゃんもいるから、みんなで遊ぼうね。じゃあ、転送するよ? コタロウ準備はいい?」


「わん♪」


「行くよ~♪」



 リンは転送開始する為、高らかに上げた腕を振り下ろし、YESのボタンを意気揚々と押すと……リンの足元の地面に穴がポッカリと空くと、重力に逆らえず真っ逆さまに一人落ちて行く!



「え? ええぇぇぇ コタロウぉぉぉぉ……」


「わ、わん?」



 突然の出来事に、空いた穴の淵で唖然とするコタロウ……。


 すぐにリンを追い掛けようと、急ぎ穴に飛び込む……だが寸前で穴が閉じてしまい頭から地面に激突してしまう!


 コタロウはしきりに足で閉じた地面をほじくり返すが、再び穴が開く気配はなかった。


 せっかく再開できたご主人様と、再び離れ離れになってしまった愛犬コタロウは、空に向かって寂しげに吠えていた。



「わお〜ん!」



 一匹だけ取り残されてしまったコタロウは、ただ遠吠えを上げるしかできないのであった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「な、な、な、なんで私、穴に落ちているのぉぉぉぉ!」



 奈落の底まで続くような深さの穴に、落ち続けること約三十秒……落下する先に明るい光が見えてきた。リンの目に映る明るい光が、落ちるにつれドンドン大きくなる。


 リンの体が光の中に飛び込むと、リンの視界が明るくなり……地面に向かって落下していた!



「きゃあああぁぁぁぁぁ」



 地面にぶつかる恐怖でリンが悲鳴を上げると、『ドン』という凄まじい音を立てながら尻餅をつき、リンはようやく落下から解放された。



「い、痛くはないけど、怖すぎだよ。もう何なのこのゲーム……移動が落とし穴って、どんなファンタジーゲームなの?」



 突然、空から降ってきたリンに広場にいた人々が何事かと顔を向けていた。



「なんだ今の? 空から人が降ってきたけど……」


「あの子か? このゲームにそんな仕様があったか?」


「大丈夫あの子? 初心者かしら?」



 リンの目の前には噴水があり、その周りでさまざまな人が集まっていた。思いおもいに過ごしていたところへ、リンが突然登場し広場にいた人の注目を集めてしまっていた。



「ごめんなさい! お騒がせしました!」



 リンは自分が注目されているのを認識すると、顔を赤らめて恥ずかしそうに立ち上がりながら、ソソクサと噴水から離れた。



 広場の片隅で、キョロキョロと周りを見回すリン……一緒にいたコタロウの姿を探すが見つからない。



「コタロウ置いてきちゃった。また召喚すればいいかな? それにしても……ここ本当にゲームの中なの? 現実みたいで凄いリアルだな〜」



 リンはあらためて神器オンラインの街並みを見渡していた。


 ファンタジーと言えば、お決まりに近い中世のヨーロッパの街並み。石材と木材を組み合わせたレンガ作りの建物。地面は石畳で舗装され、その道を人々が矢継ぎ早に行き交っていた。



「わあ、テレビで見た外国の景色みたい。すっご〜い」



 海外に行ったことがないリンは、はじめて見るノスタルジックな街並みに感嘆の声を上げる。



「この噴水の彫刻とか、本当に人の手で作ったみたい」



 リアルに作り込まれた世界の街並みは、質感もさることながら、細部にまでこだわったデザインと細かさが、現実と見間違う程リアルでリンをさらに驚かせた。



「ねえ君、一人かい?」


「え?」



 リンが街並みに目を奪われていた時、不意に背後から声を掛けられたリンが後ろを振り向く。



「うわ、なにこの子……すごい可愛いじゃん!」



「本当だ! このゲーム容姿変更ができないから、VR機のスウィッドで初期設定時のスキャンデータを元にキャラを作るんだよね」


「だとすると……この子リアルでも同じ容姿で可愛いってことじゃん。いいね〜。なあ君、このゲームはじめてだろ? いろいろ教えてあげるからさ、パーティーを組もうぜ。いいだろう? なっ!」



 リンが振り向くと、そこには少しチャラい感じの剣を腰に帯びた茶髪の男と、槍を手にしたチャラすぎる金髪の男ふたりが、リンの後ろから声を掛けてきた。



「えと、友達がいるので……すみません」



 リアル世界でも、リンは良く街中で声を掛けられる……チャラい男たちがいうように、リンの容姿は綺麗とか美人とは違い、可愛いいに分類される容姿をしていた。


 身長が150cmにも満たない低身長なリン……高校生なのに小学生に間違えられることもしばしあり、それが悩みの種だった。


 細身の身体と低身長が可愛いらしさを強調し、愛嬌のある顔が小動物の可愛さを連想させる。


 雰囲気がのほほ〜んとしており、周りを柔らかにする不思議な空気をもつ女の子だった。


 小・中学校共に、その可愛らしい容姿が災いし、イタズラをする子や告白する子、弱気な性格につけ込んで強引に付き合おうとする輩までいた。


 いつもは大抵コタロウやハルカが一緒で、その手の輩は追い払ってくれていたが、一人っきりの時は自分で切り抜けねばならない。



「見たところ、一人だけっしょ? 大丈夫、大丈夫。俺ら怪しくないからさ」


「そうそう。可愛い子を放っておけないだけだから、これからレベル上げなら、俺ら初心者向けの穴場を知っているから案内するぜ。すぐにレベルの上がる超穴場だからパーティーを組もう」



 お断りを入れたのに、しつこくパーティーに勧誘してくる二人……リンの視界にパーティー加入のシステムメッセージが表示される。




【パーティー加入要請がありました。加入しますか? YES / NO】




 当然リンはNOを選択するが、押しても押しても加入要請をしつこく行うチャラい二人……。



「あの……友達が来ますのでパーティーは組めません。や、やめてください」


「はあ? どこにその友達がいるの? いないじゃん」



「そうそう。はじめてで警戒するかもしれないけど、俺ら優しいからさ、気が合ったらリアルで会おうよ。いろいろ教えてあげるよ」


「お前のいろいろは、アッチの方もだろ? へっへっへっ」


「お前もだろう? あっはっはっはっ」



 リンは二人の会話を聞いて、急に嫌悪感が強くなる。話を聞いているだけで嫌な感じになる。ひとりでは心細くなり、コタロウを召喚して助けてもらおうとしたとき、男がリンに触ろうと手を伸ばす。


 突然のことに、ギュッと身体を縮こませ、目を固く瞑ってしまうリン……そのときだった!



「リン待たせてごめんね。いや〜、チュートリアルの敵を倒すとボーナスがもらえるって聞いてたから、倒すのに時間が掛かっちゃったよ〜」


「はーちゃん!」



 リンの耳に幼馴染であり親友でもあるハルカの声が聞こえてきた。目を開けると……目の前に親友のハルカがいた。リンを守る盾の如く、男たちの前に立ちはだかる。



「お? 本当に友達がいたんだ。じゃあ、友達も一緒にレベル上げするっしょ? ちょうど二対二でペアになるし」


「いいじゃん、いいじゃん! こっちの子は、元気キレイ系か〜、これは四人でレベル上げに行くしかないじゃん」


「はーちゃん……」


「はい、はい。いつも通りだから、言わなくても大丈夫よ。この子は私の連れでこれからパーティーを組むので他をあたってください」


「そんな連れないこと言わずにさ? 俺らもうレベル七だから、君らを守りながら戦えるしさ、一緒に楽しむっしょ」


「そうそう、楽しむべきじゃん。俺らが効率よくレベル上げる方法を教えてあげるからさ」



 断っても引き下がらないチャラい二人に、ハルカが和かに言い放つ!



「私の方が、あなた達より強いと思いますし、効率重視なら私も熟知していますから結構です。お引き取りください」



 キッパリとお断りを入れるハルカ……だがチャラい男ふたりはその言葉に怒りを露わにする。



「はあ? こっちが優しくしていれば、つけ上がりすぎっしょ? はじめたばかりなら、せいぜいレベル二のお前らが、俺らより強い? そこまでいうなら証明して見ろよ」


「そうそう! なら、決闘デュエルで戦って勝ったら、素直に引き下がってやるじゃん! その代わり負けたら、俺たちのパーティーに参加じゃん」



「は、はーちゃん? 駄目だよ」



 リンが凄みながら言い寄るチャラい男たちを見て、ハルカに声を掛ける。



「リン、大丈夫だよ。わかっているでしょ?」


「はーちゃん、わかっているから心配なんだよ。はい、約束!」



 リンが片手をハルカの前に出し小指を立てると、ハルカもまた同じように小指を出してふたりが指切りする。



「相変わらず心配性だな〜、ちゃんと抑えるから平気よ。はい、約束!」



 秘密の約束を交わすふたり……するとハルカの視界に決闘申し込みのメッセージが表示された。




【他のプレイヤーから決闘を申し込まれました。受諾しますか YES / NO (警告)決闘レベルMax 】




 迷わずYESをタップするハルカ……カウントダウンが始まった。



 決闘開始まで残り30秒、29、28、27……。



 ハルカの視界にカウントダウンの数字が表示される。


 そして対戦相手の二人の名前も……チャラい二人が剣と槍を構えてハルカと対峙する。



「あははは、引っかかりやがった。やっぱ初心者だな。一対一で決闘するとやっぱ勘違いしてたっしょ!」


「だな! 決闘はパーティー単位で申請できるから、二対一で申し込むこともできるんだなコレが! 卑怯とか今さらいうなじゃん」


「ズ、ズルイ、二対一なんて⁈ こんなの無効だよ。はーちゃん、やめて!」



 リンの言葉にハルカが不敵な笑みを浮かべて答える。



「リン、大丈夫だよ。うん……まだ大丈夫だから」


「いつまで強がっていられるか見ものっしょ。決闘レベルMaxは、痛覚もMaxだからな? 死にはしないけど相当痛いぜ!」



「あと負けたら装備アイテムが地面にばら撒かれて装備が強制ロストするからな。つまり負けたら下着姿が拝めるじゃん。美少女のシ・タ・ギ! たまらないじゃん。リアルのスキャンデーターだからな、現実と同じスタイルを拝めるワケだ。じっくり見てやるじゃん」



 その言葉に、周りにいたプレイヤーも声を上げ出す。



「おい下着姿が見られるってよ」


「あんな美少女の下着が……このゲームやっていてよかった♪」


「最悪な奴らね……女の敵よ」


「誰かGMに通報しろよ」


「決闘を合意した以上、当事者同志じゃなきゃ止められねーよ」



 広場の中は、ハルカの裸が見たい男性陣と、チャラ男達を非難する女性陣、中立を守り静観する者たちに分かれて決闘の行方を見守っていた。



「リン……ごめんね。いきなり変なことに付き合わせちゃって」


「私は大丈夫だよ。でも、はーちゃん……」


「わかってる。全力ではやらないよ?」


「それが心配なんだよ〜」


「おっとそろそろ時間だ。リンは後ろに下がっていて」


「はーちゃん、気をつけてね」



 リンとハルカはどちらともなく、互いを軽く抱き合い、リンが無事を願うと、そのまま後ろに下がってハルカを応援する。


 チャラ男二人とハルカの三人が距離を五メートルほど空けて対峙していた。




【10……9……8……7……】




「へっへっへっ攻撃されたときの痛みで、美少女の泣き叫ぶ姿が見られるなんて堪らないっしょ」


「苦痛に顔を歪めて命乞いする姿が見られるなんて最高じゃん。やめてと言っても、やめないからな?」



 下衆な言葉を口にするふたりを、ハルカは冷ややかな視線で見つめる。


 せっかく愛犬を亡くし、悲しみに暮れていた親友と神器オンラインの世界で楽しく遊ぼうとした矢先に、こんな下衆な男たちに絡まれるなんて……リンとの貴重な時間をムダにされ、ハルカの心は怒りで燃えていた。


 冷徹に燃えるハルカ……その口元は邪悪な笑みを浮かべていた。




【6……5……4……3……】




「言っておくけど、卑怯とか言わないでよ? やめてと言ってもやめないわよ?」


「ああ?」


「あん?」




【2……1……決闘デュエル開始スタート




 ハルカの言葉に気を取られた二人は、攻撃のタイミングを一呼吸ズラされる。ワンテンポ遅れてハルカに向かって走り出した瞬間、彼らはいつの間にハルカの両手に収まっていた武器を見て、驚愕の表情を浮かべていた。


 少女の手には、剣と魔法の世界ではありえない凶悪な武器が握られていたのだった!

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