エレナの契約者
時雨色
第一部
第1話 契約
「3だって……?」
「私の方でも何回か確認をしたんですが、評価査定は間違いないそうです」
記録された手帳とともに渡されたのは銅貨60枚だった。
ランクが1上がるごとに銅貨20枚。この程度では何もすることは出来ない。宿泊をする以前に食事すらまともに摂ることが出来ない。
「とりあえず、今日はこの辺でお引取りを。私の方でもボーナスを付けられる依頼を探しておきますので」
そうして今日の仕事が終わった。
***
この世界ではよく、異界の人間が町の近くにある「鳴じの森」から現れることが度々あり、その人達は固有スキルと呼ばれるものを持っている。
その人達が颯爽とギルドの仕事を解決していく。そこでだ、スキル無しの人間は他にもいるだろうと考えてしまうが、その存在はイレギュラーな存在で、ただ一人。
それが俺だ。完全にギルドのお荷物となってしまっている。
「手持ちが銅貨65枚って……いつものあれしかないか」
何かをするためにはせめて銀貨1枚からが基本の世界。銅貨ははっきり言って、誰も使っていない。
残り少ない手持ちを持ちながら、露店が立ち並んだ栄えた通りを抜け、人通りが少なくなった隅。
その店では、カピカピに乾燥して品物にならないパンを売っている。俺はいつも夜の飯として買わせてもらっている。銅貨25枚だ。
クソ不味いものを頬張りながら帰路を辿る。
「俺も何かしら力があれば、こんな生活からおさらば出来るってのによ」
「そこのお前」
後ろから声をかけられ振り向くと、目立つピンク髪がつばの付いた帽子から飛び出して見える。そこにはスーツを着た胸のデカイ女だった。異世界人が持ってきた知識で作られ、同じようなものを量産し、流通をさせているらしいが、心底どうでもいい。
そんなものを着たヤツが俺になんの用があるってんだ。
「あ?」
「みすぼらしいカッコをしている、お前だよ」
「なんだテメェ。用が無いなら失せろ」
「いやいや、用があるからきみに声かけたんだよ。もっとマシな生活をしたいと思わないかい?」
「そんなにうまい話があるかよ。ただでさえ、仕事が取られて何もねぇのに」
一瞬にして目の前に立たれる。その目は獲物を逃さない目をしていた。
「そうそう。その異世界人だよ。知っているかい? ここからだいぶ離れているけど、都市が出来上がっていてね……」
口を止めてしまった。
「それがどうした?」
「これから先は話すことは出来なくてね。契約をしてくれるなら話してあげてもいいけど」
「契約?」
「そう。契約」
「内容は?」
「簡単に言ってしまえば、今の生活から抜け出すことが可能だよ」
「飯は?」
「もちろん」
「寝床は?」
「もちろん」
「金は?」
「もちろん出すとも。お前が欲しいものは全部くれてやる。ただ、加減はしてくれよ?」
「……」
「どうする?」
悪くない。ただ、させられる仕事が分からなさすぎて手を出しにくいが、こんな機会はめったにない。
「……1日」
「ダメだ。今すぐ決めてほしい」
「分かった。やってやるよ」
「契約ね。お前、名前は? 私はエレナ」
「レイ」
「レイね……私は好きだよ」
そうして俺はエレナとかいう女と契約をした。
「契約したんだからさ、仕事について教えてくれよ。何も分からないままってのは落ち着かねぇから」
「そうだね。けど今日はもう遅いから、また明日来るよ。朝早いと思うけどまた同じ場所に日の出のタイミングで会おう」
「分かった」
そう言ってこの場から離れていった。向かった方向には宿泊施設があるだろうからそのまま泊まっていくつもりだろう。対して俺は、家畜の小屋へひっそりと隠れ、枯れ草をクッションにしながら寝るのが日常だった。
「なんか今日はあちーな」
眠りにつこうとするも、なにかに邪魔されているのか体が火照り、なかなか寝付けることが出来ない。
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