会敵12 Ambush -待伏せ:Z・L Allianceにて-
「ターゲットを確認。一個小隊、全八名。武装は重機関銃1、アサルトライフル7、遠距離攻撃の手段を認めず。手順通りやるぞ」
“……カーピー”
ミアからやる気のなさそうな返事が返ってきた。昨晩ずっと、高台の上から虫が怖いだの、変な声がするだの、蛙がどうだのうるさく無線で言ってきていたが、やっとお客さんが来た頃には、既に披露困ぱいなのか……頼むよ。
俺達は、
もう、目と鼻の先に奴らの前線補給基地があって、そこから俺達を探しに出てくるであろう部隊を狙い撃ちするために昨日の夕刻から、街道沿いの廃村を見下ろせる高台の上でボーイスカウトよろしくキャンプ中といったところだ。あ、ガールもいたか。
ミアは街道沿いを見渡せる1700m離れた側面の崖の上で、俺は奴らから見れば、背面に当たる、広場が見渡せる1500m離れた高台に陣取って、既に一日が過ぎている。いやはや、いくら何でも遅すぎやしないか?もう来ないかと思っていたぞ。
この廃村を逃すと周囲15kmに渡ってキャンプに適した場所は無い。普通の奴ならここで惰眠をむさぼろうとするはずなのだがこいつらはどうかな?
俺達は、昨日国境沿いの街道で偵察部隊2名の前にワザと姿をさらし消えてやった。こうすれば、パトロール部隊も出るしかないだろうと踏んでいた。偵察部隊2名よりもパトロール小隊8名を選んだ俺の勝ちだ。でも、あと数時間もしたらまた夜で、ミアがグズリそうだから、あきらめて帰るか考えていた矢先だ。
「ターゲットは村に入った。キャンプするようだ。歌うならやれ」
“………………”
「ジレーネ? どうした? 応答しろ」
“ごめん寝てた”
頼むよ、ミア。眠いのは一晩中無線の相手とお前の代わりに哨戒していたこっちだっての。
「敵はダイアモンド陣を敷いた。俺はダイアの6時から10時を受け持つ、ミアはリーダーと思われる先頭の脚を狙え」
“カーピー”
今日は
“あ~、ちゃんと声出るかな?”
知らねぇよ、いやならやんなよ。
“んっんっ”
咳払いしてミアが歌いだした。
今日も讃美歌らしい。ミアはその日の気分で歌を決めているのか?そう言えば聞いたことないな……今度聞いてみるか。
センサ1:温度15℃、湿度32%、風速1m/s西
センサ2:温度14℃、湿度33%、風速2m/s西
センサ3:温度14℃、湿度32%、風速1m/s西
センサ1は広場、センサ2は俺と広場の中間、センサ3はミアと広場の中間。
広場までの間に河川、湖沼無し。水辺があると、その周囲の空気の屈折現象で目測を誤るからな。それは重要だ。
ミアが1700m、俺が1500m。今日、俺は対物ライフルを構えている。これなら建物の中に隠れても打ち抜けるし、場合によっては建物のなかで跳弾していい感じに当たってくれるのを期待している。まぁ、逃げ込まれる前に仕事を終える自信はあるが
ダイアモンドの形に広がり村の広場から周囲を捜索し始めているお客さんの先頭にいる男が、仕掛けたスピーカーがある教会へと近づいていく。そろそろ、ミアの歌の前で大混乱になるはずだが……
……あ、無反応だな。どうなってる?
“アーメン”
気持ちよく歌い上げたミアが先頭の奴にぶっ放した。
「アーメン」
一人目、俺も9時の奴からいただいていく。ミアの初撃は狙い通り先頭の教会の前で突っ立っていた奴の脚を綺麗に打ち抜いた。
9時の奴の背中に照準を合わせ優しくトリガを引く。
---
あまり、ミアには見せたくない光景だ。また、大泣きして飛び起きて目が覚めるとか、見ていても苦しいからな。
二人目、ダイアの8時、背中にターゲットを決めて打ち抜く。血しぶきどころか……やはり、この弾丸で人間を撃つのはこんな俺でさえも抵抗がある。次、三人目、隣の奴の上半身が消滅して驚いている6時の男を同じ方法で打ち抜い……外した。
6時にいた奴が先頭で倒れている男の元へ走り出した。そいつが何やら周囲に指示を出している。もうこうなるとダイア陣どころではない。
「ジレーネ、負傷兵を救出している街道側の奴を狙え」
戦果報告の好きなミアに指示を出す。
負傷兵は両脇を抱えられて後方の200m離れた建屋に移動するようだ。少しは知恵の廻る奴がいるんだな。
そう、正解だ。
その教会の中に入ればミアからの的に、だからと言って背面の壁に隠れても同じ。残る左の壁では俺の正面になる。まとまったところで俺の餌食だ。
十字砲火。
避けるには後方200mの建屋の中しかない。そこに爆薬を仕込んでも良いのだが、それは俺の流儀に反する。俺には自分が撃った相手の最後を見届ける義務がある。そして、そいつらの事を忘れてはならない。それが、俺自身が負う枷なのだ。
ミアが負傷兵を担いでいた街道側の奴をやった。
逃げようとしている建屋は12.7mm徹甲弾を使っている今日の俺の対物ライフルの前にはベニヤ板造りの様なものだ。昨日、そこの建屋の構造と壁の材質は確認している……厚さ50mmのドイツブリック、含水率の低い一般的なレンガだ。
負傷兵が建屋まで残り80mになった。そこまでだ……右肩を担いでいる奴を始末する。
胸に狙いをつけて、トリガを引く……そして、流れるような動作で俺はボルトを素早く引いた。甲高い一瞬の発砲音と共に金属の転がる音がする。排莢された薬きょうが近くの岩に当たった音、残るは周囲の山々にぶつかった行き場のない発砲音のコダマが静寂の山あいに聞こえている。
---すまない、頭に当たっちまったようだ。
「残弾0、マガジン交換する!」
くそ、もう6発も撃っちまったのか。こりゃあ、もう一回、訓練施設行きだな。
残り3人。一人は物陰に隠れている。別の二人は伏せながら前進し負傷兵の方へとにじり寄っている。……これだけ高低差があると全部丸見えなんだよ。
マガジン交換の終了と同時に、にじり寄っていた二人は負傷兵に駆け寄り……
俺の速射の前に二人ともなすすべなく消えていった。
最後の残りは、ミアがやったようだ。
お客さんは律儀な奴が多かった。ミアが撃った先頭の負傷兵を何人もで救出しようと試みて俺達の標的になった。心情は理解できる。俺もそこにいたら、そんな奴になっているだろうし。だが、恨まないでくれ、これは戦争でお互い戦闘服を来ている以上どちらかが白旗を上げるまで続けるしかないのだから。
仕事は予定通り終わったが、動く相手の長距離狙撃の難しさを改めて思い知った。標的の2秒ほどの先の位置を、先読みして撃たないとならないからな。
スコープに映っていた奴らは何処から撃たれているのかさえ分からずに死んでいった。全体的に練度が低いか、リーダーが能無しだったか……両方か……それにしても、結構、無駄玉撃った。今日の奴らはそれほどでは無かったから良かったが、これだけ打てば、こちらが感づかれて反撃をいただくことだってある。次はツナ缶じゃなかったスタンの確認を俺がすることにしよう。
“先頭のやつどうする?”
一通り仕事を終えたミアが俺に聞いて来た?どうするって迷う事など無いのだが何故聞いているのか?
“逃がすってどう? 多分この辺じゃ私有名じゃないんだよ。だから、歌、歌ってても誰も無反応で、これじゃ、やる気が起こんないよ”
ミアがキレている。自分の無名さにか。仕事がやりやすくて、無反応大いに結構なのだが、ミアには不満なのだろう。
「村の入り口で落ち合おう。撤収するので荷物は全部持って来いよ。ツナ缶もな」
“カーピー、ツナ缶なんて昨日食べちゃったよ“
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