過去を変えてみた件について
恋するメンチカツ
第1話 俺と少年①
「信じられないかもしれないけど、俺は未来のお前だ」
キョトンとした少年を尻目に俺は話を続ける。
「いや……信じられないよな。でも、信じて欲しい。ほら、これ好きだろ?」
俺はポケットから蒲焼きさん太郎を取り出すと少年に手渡した。
「ありがとう」
初対面の怪しい相手でも食い意地が勝るとは如何にも小学生の俺らしいな。
少年は蒲焼きさん太郎を小さく噛みちぎると口の中で転がし始めた。
「それで、おじさん誰?」
人の話を聞かない所も俺らしい。
「えー、もう一度言うが俺は未来のお前だ」
「ふーん、じゃあおじさんは警察官なの?」
「いや……ニートだ」
「ニート? って何?」
「仕事をしてないって事だ」
「なんで? 大人になったら仕事をするんじゃないの?」
「うーん……俺は子供のまま大人になったから働く気にならなかったのかもな」
「よくわからないや」
「まぁ、そんな事は今どうでもいい。あのな……」
「おーい! ケンボー!」
少年の俺を呼ぶ子供の声が俺の話を遮った。懐かしい呼び名につい俺も振り向きそうになる。
「おじさん、友達が呼んでるから行かなきゃ」
「あっ……あー、行ってこい」
俺は近くのコンビニで缶ビールを買うと、しばらく公園のベンチから少年達の遊びを眺める事にした。少年達は輪になると一つのサッカーボールを下手くそなパスで回し始めた。勝ち負けもルールも無い単純な遊びでキャッキャと騒ぎながら遊んでいる少年達を遠目で見ていると、競馬や競艇、パチンコ等とギャンブルでしかキャッキャと騒げなくなった自分が愚かに感じると共に少年達が羨ましくなった。
缶ビールが底をつきそうな頃、少年の俺が声をかけてきた。
「ねぇ、おじさん。暇ならキーパーやってよ」
「俺は暇じゃないの」
「でも、仕事してないんでしょ?」
「仕事してなくても暇じゃないの!」
気がつくと、少年の俺を追うように後ろから他の少年達がぞろぞろと俺の周りに集まりだした。
「ケンボーの知り合い?」
「誰だれ?」
「オッサンじゃん」
「うわ、デブだ」
と、少年達が口々に声を上げる。勿論俺からすればみんな知っている顔ぶれだ。懐かしさについ顔が緩むと俺は「デブだ」と言ってきた少年の肩を叩きながら、
「お前も中学に入ると登下校の買い食いの成果で一気にデブになる。心配するな」
と笑顔で答えた。その一言でますます不審がる少年達とは対照的に少年の俺は俺の腕を引っ張るとベンチから立ち上がらせた。
「ほら、キーパーね」
少年の俺はそう言うと俺にボールを手渡してきた。
「ね? みんないいでしょ?」
少年の俺の問いに他の少年達も頷く。
「ケンボーがそう言うなら」
「仕方ない」
「オッサンキーパー」
「デブには負けない」
この頃の俺は謎に発言権があり、みんなのリーダー的存在だった事を思い出した。
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