テニス
弱腰ペンギン
テニス
俺は今、困惑している。
「オラァ!」
高校のテニスの試合なんだが、わけのわからないことになっている。
前の試合で負けたため、審判をやっているのだが。
「くらえ!」
俺の右側の選手は七色のサーブを持つ九条という人らしい。
で、左側はキレのある変化球を撃ってくる煙道というらしい。
なんでそんな異名が付いているのか、そして俺がそれを知ったのかというと。
「さすがは九条。煙道にレシーブを撃たせないつもりだな」
とか。
「煙道はそれをわかってるから読みでレシーブしているな。一度でも読みが当たればカミソリレシーブが飛んでくる。これは白熱した試合になるな!」
などと解説するおっさんが俺の後ろにいるのだ。
なんだ、有名なのかこの人ら。
さっきから変な試合だなって思ってたら、そういうことらしい。……どういうことだよ。
九条のサーブが相手のコートに飛んでいく。一見普通のサーブだが、ネットを越すと急に、鋭角に曲がる。
下だったり横だったり上だったり。レシーブに飛び出した煙道の頭の上を高速で通り過ぎていく。
下に落ちたボールは一切跳ねることなく動きを止めたりするので、こっちはどういう判断をしたらいいのか困る。
基本九条がサーブするか、煙道がサーブした後のラリーで、くの字に曲がる変化球が決まって点が入る。
……意味わかんないだろ?
「やるね」
九条がニヤリと笑った。けどまぁ、負けてるんだけどね。なんやかんやいってコートに入ってきたら力技でねじ伏せてるからね。煙道が。
最初は優勢だったけど、慣れてからは変化前に潰されるが多くなっている。
だが、煙道のボールもまた予測しやすい。
というのも『どこからでもエグイ変化をする』んだが『どこからでも変化の方向は大体一緒』なのだ。
左に曲がるか右に曲がるかだ。
対して九条は何処へでも曲がる。上にも曲がるんだからこいつ、なんかやべえことやってるんじゃねえかって思うほどに。
結果何が起こるかというと。
「はぁ、はぁ」
「くそ……」
世紀の凡戦だ。
九条は『変化するけど力技でどうにかなってしまう』し、煙道は『予測しやすい軌道だから落下地点に回り込めばいい』だけなので。
まぁ、それが出来るだけすごいんだけどね。
もう何回も点数が行ったり来たりしてるからさっさと終わってほしいよね。
お互いに『力技が出来なくなったら』と『回り込むことが出来なくなったら』負けになるだろうな。
それでも九条が有利かなぁー。サーブは相変わらずの切れだし、予想が外れれば決まることが多いし。
まぁネットに引っ掛けてフォルトすることが多くなってきたから、そこから崩れだすかもしれないけど。
後、さっきからずっと九条がサーブを打ってるのなんでかな。注意してるんだけど、なんで直してくれないのかな。反則だよ?
それと煙道もなんでそれを受け入れてるのかな?
レシーブのほうが有利だからなのかな?
今更だけどこれテニスかな?
ボールになんか機械入ってんじゃないの?
そもそもまず『上に変化する』ってなんだよ。なんの変化球だよ。ライジングボールってのはあるけどわかりやすく上に上がってったりしねえよ。
なんで相手を避ける軌道のサーブなんだよ。
それと、人の容姿についてアレコレはダメだってのわかってるけど、お前ら高校一年っつったよな。
どう見ても20代のガタイしてんじゃねえか。
さっきから『九条様ー!』って黄色い声援浴びやがって。金髪のサラサラヘアーで、風になびかせてんじゃねえよ。お前のキューティクルを死滅させてやろうか。
煙道はテクニックタイプみたいな技を使うくせになんでそんな筋肉質なんだよ。身長高い、のはまぁ、あり得るとしても。その筋肉はどういうことだよ。
3歳からボディービルディングし続けてきたのか。そしたらそうなるのか。で、イケメンか。チクショウ!
あーやってらんねぇ。これ地区予選だぞ。神奈川の。なんだ、全国はこういう奴らばっかりいるのか。勝てるわけねえっつの。そのうち観客席を破壊したり天変地異を起こすような奴出てくるんじゃねえのか?
取材しろよ。環境問題解決してくれるぞ、そいつら。テニスで。
「はい試合終了―」
ようやく決着がついた。
結果はサーブを高く上げ、コートの端ギリギリに落とし、打ち返そうとした煙道のラケットを滑り落ちるように回転をかけた九条の勝利だ。
はぁ。テニス辞めよう。バスケでもするか。
テニス 弱腰ペンギン @kuwentorow
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