第479話 初めての試み

「うわー…綺麗だな…」


俺は地面に横になって、空を見上げながらそう呟いた。結局、1日目の今日中には精霊化をしたまま精霊魔法を使うことができなかった。再開してからそれなりに時間が経ったので、また一旦休憩時間だ。俺には不眠不休の称号があるから1、2日くらいならほとんど寝なくても問題は無いし、精霊は元々睡眠を必要としていないらしいので、夜通し特訓することとなった。

ちなみに、この精霊界にも夜があるようで、周りは真っ暗となった。だが、星や月などは全く見えない。それなのに、何が綺麗だったのかと言うと、それは精霊だ。下位精霊達が光ながら空を飛んでいるのだ。時々中位精霊や上位精霊らしい姿も見える。どうやら、俺がここにユグとジールと来て、ディーネと暴れ回ったので、気になってやってくる精霊が多いようだ。戦闘中も邪魔にならないところからよく精霊が見ている。



「ばあっ」


「…ん?」


真横から声がしたので、首を動かして横を見ると、暗闇から顔だけ出した精霊が居た。


「分かる?」


その精霊は自分を指さしてそう言ってきた。どこかで見た精霊なのは確かだが、パッと思い浮かばない。


「ヒント、契約済み」


「うーん…あっ!」


そのヒントで誰と契約している精霊なのかも含めてちゃんと思い出せた。


「ティヤさんと契約してる影の最上位精霊!」


「正解」


その精霊は俺の答えに嬉しそうにそう言うと、地面からヌルッ…と姿を現した。


「名前はアーテルっていうの。よろしくね」


「ああ、よろしく」


俺はそう言って握手を求めて手を出してきたアーテルの手を上体を起こして握った。


「ずっと君の影から見てたけど、苦戦してるみたいだね」


「まあね…ん!?」


アーテルが影にいたなんて全く気が付かなかった…。ってかそんなところにいて危なくないのか?



「ねえ、あれに勝ちたい?」


アーテルは親指でディーネの方を指さしてそう言ってきた。


「そりゃ勝ちたいよ」


勝とうと思って今まで挑み続けたのだから勝ちたいに決まっている。


「精霊王様の力を借りて、今のルールだとしても、ここで人間が最上位精霊に勝てるわけが無いんだけどね。精霊王様も無理難題をだすよね」


「え!?」


「まあ、君は人間では無いし、精霊王様は君にそこまで期待してるっ事だよ」


「あ、そっか…」


そうだった。俺は人間ではなかったんだった。とはいえ、無理難題ということには変わりないようだ。それでも俺はユグの期待に答えてディーネを水たまりから退かしたい。


「それを聞いてもやる気は無くならないのね。合格。アーも手を貸してあげるよ」


「え?」


アーテルはそう言うと、影を操って俺を立たせた。手を貸してあげるってどういうことだ?


「ティヤに聞いたんだけど、最初は数倍の魔力を使ってのゴリ押しで精霊降臨してたんだよね?覚えてる?」


「あっ」


確かにティヤさん達にそう言われた(※147話)。あれは普通に精霊降臨するにはかなり非効率的だったため、やり方を変えた。しかし、その話には続きがあった。


「察しが良くて助かるよ。その方法でなら普通の10数倍の魔力が必要だけど他の精霊でも精霊降臨できるんだったよね。ここには膨大な魔力もあるし、前代未聞だけど可能だと思うんだよね」


そうなのだ。その方法なら精霊から許可さえでれば誰と契約している精霊だとしても精霊降臨できると言われた。


「でも、いいの?」


「ん?ティヤにはちゃんと許可をとったよ。それにシャーも問題ないよ」


なら構わないのか?でも、いいのか?一旦少しでも慣れるために継続していた精霊化を解いてユグとジールに相談することにした。



「できるなら別にいいんじゃない?」


「いいんじゃねーか?」


「えー…」


まず、それは誰もやったことがないので、良いか悪いのかすら分からないようだ。


「許可も出たことだし、試してみようよ!」


「そうだな…!」


精霊降臨されるアーテルが乗り気だし、ディーネに一泡吹かせるためにもやってみよう。俺はまず、ユグとジールを再び精霊化した。


「えっと…どうすればいいのかな?」


「手を握って、アーのことを強く感じて精霊降臨すればできると思うよ」


「了解」


俺はアーテルの言う通りに、アーテルのことを強く意識して、精霊降臨をしようとした。前までやっていたやり方を少し変えてやるだけなので、意外とそんなりできそうだった。


「今は光源が隠されてるからこの暗闇全てが影になってるよ。だからアーの力ならやりたい放題だからね」


「わかった…精霊降臨」


アーテルのそのアドバイスを受けてから、俺はアーテルを精霊降臨した。

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