第460話 武器交換

「はっ!」


「はっ!」


俺の槍とベクアのメリケンサックが正面からぶつかり合った。ベクアは上手い具合に俺の槍による突きを受け流して、俺の懐に潜り込んできた。俺は慌てて槍を短く持とうとしたが、間に合わなかった。


「ごふっ!」


俺は少しでも衝撃を減らすために後ろに軽く飛んだ。そして、ベクアに腹を殴られて転がっていった。



「やっぱり、これは無い方が戦いやすいな。これを付けていると、どうも拳による攻撃を意識しちまう」


ベクアは横になった俺に手を差し伸べながらそう言った。


「慣れてないのもあるけど、やっぱり槍は使いにくい…」


俺はベクアの手を取って立ち上がりながらそう言った。


「次は何を試そうか」


ベクアはそう言って、俺の槍も持って武器庫の中へと向かった。

俺達は昨日予定していた武器試しを行っているのだ。最初の試しとして、ベクアがメリケンサック、俺が槍を使って戦ったのだ。



「ん?」


俺に向かって何かが飛んできた。俺はそれを掴んで何か確認した。


「レイピア?」


「そうよ。それで私と戦いなさい」


投げてきた方向から話しかけてきたエリーラは両手に剣を持つ二刀流だった。この時点で何が言いたいのか理解できた。


「いいよ」


「じゃあ、これが落ちたら開始ね」


俺がエリーラに応じると、エリーラはそう言ってコインを投げた。そして、コインが落ちると、お互いに向かっていった。


「はっ!ふっ!」


エリーラは2本の剣を振ってきたが、太刀筋がかなり悪い。とはいえ、下手に細いレイピアで受けると折れそうなので、避けるしかない。


「はっ!」


「あっ…!」


そんな中、片方の剣に体が流されて少し体勢が崩れた。俺はその隙により体が流されるように剣をレイピアで押して、更に大きな隙を作った。そして、エリーラの首にレイピアを当てた。



「…よく2本の剣を魔法を使いながら器用に振るわね」


確かに2本の剣を同時に扱うのは普通は難しい。俺はずっと使っている慣れと多重思考により自由に使えている。


「次は私とお願いします」


「了解」


ソフィはエリーラの剣をひょいっと取って、俺にメイスを渡してきた。俺はレイピアをエリーラに返して、今度はソフィとの武器交換で戦った。



「はっ!ふっ!」


「おお…」


俺がつい感心してしまうほど、ソフィの二刀流は上手だった。俺もさっきのレイピアと違い、折れる心配がほぼないメイスで受けていた。


「うーん…」


俺はソフィの太刀筋を見ながらどこか既視感があった。とはいえ、俺以外に二刀流を見た事がないので、その既視感の正体がすぐにはわからなかった。



「あ、俺だ」


そして、その既視感の正体は俺だった。客観的に見たことがないので絶対とは言えないが、ソフィの二刀流は俺とそっくりだ。こうして俺の癖を少し大袈裟にやっているソフィを見ると、俺の悪い所がすぐに分かる。


「あっ…参りました」


俺はソフィの剣を2本ともメイスでぶっ叩いて飛ばした。



「次は俺だぜ!」


ベクアはそう言うと、飛ばした2本の剣を拾って、俺にガントレットを投げてきた。俺はそれを腕にはめると、ベクアと戦い始めた。ベクアは力任せに剣を振るだけで完全に初心者のような使い方だった。だからすぐに隙を見抜いて殴って勝った。俺は剣を持っている時でも、時々拳も使っているので、ガントレットは普通に使いやすい。

次にキャリナとも武器交換で戦った。とはいえ、勝負条件はベクアと一緒で俺はガントレットをつけていた。キャリナはベクアとは逆に、剣を上手く振れずに終始わたわたしていた。その隙に俺は殴ってキャリナに勝った。



「鎖を探すのに時間がかかった」


そう言いながら武器庫から出てきたシャナは大鎌とその柄の先に長い鎖をつけた武器を投げてきた。



「じゃあ、行くよ?」


「お、おう…」


そして、シャナはキャリナから2本の剣を受け取り、俺が鎌を構えたのを見て向かってきた。



「ちょ!」


「ん?どうかした?」


俺が苦戦しながら鎖大鎌を扱っているのに対して、シャナは器用に2本の剣を振っていた。

俺はまだ大鎌だけなら使いずらくても、ここまで防戦一方にはなっていなかっただろう。この鎖が邪魔なのだ。俺にはシャナのように鎖を扱う技術は無いので、俺にとって鎖はただのジャラジャラしたお荷物だ。



「あっ!」


俺はあることを思い付いて、急いでシャナから距離をとった。そして、鎖を左腕の肘から先に巻き付けた。これで右手に大鎌、左手は簡易的ガントレットになった。

しかし、そんな俺を見てもシャナはさっきと同様に向かってきた。俺は左手で攻撃をガードできるようになり、大鎌で攻撃できる場面もできてきた。



「工夫したみたいだけど、これならどうするの?」


シャナはそう言って、俺の後ろに回り込んだ。俺はそのまま後ろに振り向きざまに大鎌を振った。


「あっ…」


しかし、その大鎌はシャナに当たる前に止まった。腕に巻きつけたせいで鎖の長さが足りなかったのだ。


「はい。私の勝ち」


「かふっ!」


そして、シャナにそう言われながら脇に2本の剣で叩かれて転がっていった。俺の武器交換の成績は4勝1敗だった。ちなみに、俺以外ともみんなやっていたが、シャナのみ5勝で全勝だった。

ぶっちゃけ、あれ以上左腕に巻き付ける鎖の量を減らしていたら今まで通り鎖が邪魔でまともに戦えていなかったので、負けた今でもあれがベストだったと思う。こんな使いずらい武器を完璧に扱っているシャナを凄いと素直に思った。


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