第439話 先鋒 ベクア対キャリナ 1
「さて、キャリナ。俺と戦う場所はどこがいいんだ?」
今日は3対3の模擬戦当日だ。今日までの数日間に審判役のウカクは模擬戦をやるに相応しい場所を探し回ってくれていた。ウカクの探した場所まで移動する関係上、この模擬戦は1日1戦で3日間で行われることに変更となった。
ちなみに、その場所の候補は、
1.森の中
2.岩場
3.荒地
4.海上
5.海上の小型ボート上
6.砂浜海岸
7.岩石海岸
の合計7つだ。
この候補から場所を選べるのはチャレンジャー的ポジションであるキャリナ、シャナ、エリーラの3人だ。ちなみに、始まる場所の指定のため、決められた場所から他の場所に移動するのも問題ない。
「森の中でお願いします」
「分かった」
ベクアとキャリナの戦いは森の中で行われると決まった。
「両者準備は良いですか?」
「ああ」
「大丈夫です」
数時間かけて人気の全くない森の中に入って来た。竜車も奥まで来れないほどの木々が密集している森なので、竜車は森の手前で置いてきた。念の為に数人残っていた王都からやってきていた部隊に竜車の見張りは任せてある。
「「結界」」
俺とソフィでの合体魔法でかなりの魔力を込めて結界を張った。これの中に入ればちょっとやそっとの流れ弾は全く警戒する必要は無いだろう。
ちなみに、何気にソフィとの合体魔法は初めてなのだが、俺一人での複合魔法よりも簡単にできた気がする。やはり、前世からの兄妹ということで相性がいいのだろうか?
「試合開始!」
「獣化、氷雪纏」
「獣化、闇鎧」
ウカクが試合開始の宣言をすると、2人揃って獣化と獣鎧を行った。
「しゃあ!行く…ぜ?」
勢いよくキャリナに向かって行こうとしたベクアだったが、キャリナがすーっと消えたことでそれはできなかった。
「だから森の中を選んだんだね」
「そうですね」
この森は誰からの手入れもされていないため、下まで陽の光があまり来ていない。そのため、この場所は薄暗いのだ。その暗さに便乗してキャリナは姿を隠したのだろう。というか、闇鎧にそんな効果があったのか。
「ちっ…!」
当たりをキョロキョロしてキャリナを探しているベクアに火の槍が向かっていった。ベクアはそれを舌打ちをしながら殴り消した。
「本気ってことなら当然借りてるはずだよな」
今回、敵という立場になる俺とソフィはキャリナに魔法を貸してはいない。つまり、この魔法を貸したのはシャナかエリーラとなる。
「ゼロスを相手に特訓した俺にはこんなちゃちな魔法如きに遅れは取らねえぞ!」
ちらっと横を恐る恐る見たが、シャナとエリーラは特に怒った様子はなかった。自分が貸した魔法が貶されても、使う者が違ければ別にいいのかな?
しかし、それにしても死角からちょこちょこやってくる魔法をベクアは完璧に殴り消している。ベクアからしたら俺が接近戦で使ってくる雷刃よりは対処は簡単なのだろうか。
「かくれんぼはもう終わりだっ!」
ベクアはそう言うと、大きく腕を上にあげて振り下ろした。ベクアは地面を叩き付けて周りの木々を吹き飛ばすつもりだったのだろう。そうすれば、この場に光が差し込んで、キャリナが隠れられなくなる。しかし、それは腕が影に埋まってできなかった。
「にゃっ!」
「がっ…!」
そして、埋まった腕のすぐ近くの地面から現れたキャリナによって顔面を手の平でぶん殴られた。キャリナは現れた時に埋まった腕を踏んで勢いを付けていたこともあり、腕を引き戻してガードができなかったベクアはノーガードでキャリナの攻撃を受けることになった。
「いって…。流石は俺の妹だ。もう闇纏に進化していたのか。そして、俺がゼロスにやった事と同じことをやるとはな」
闇鎧では、今のように地面にまで闇を広げることができない。これができるのは闇纏だ。
俺も1回ベクアに氷雪鎧と言ったくせに氷雪纏をやられたことがあった。キャリナはベクアにそれをしたのだ。口では闇鎧と言っておきながら、実際には闇纏を行ったのだ。ベクアとは同じチームだが、キャリナにナイスと言ってやりたい。
「お手本が近くに2人も居たおかげですぐに上達できた」
「それなら良かったぜ」
ベクアは顔の横4本線の傷から垂れる血を氷を纏わせて止血しながら嬉しそうにキャリナに答えた。どうやらキャリナは殴ったベクアが吹っ飛ぶ前にその鋭い爪で引っ掻いてもいたようだ。だから手の平で殴ったのか。
「これなら俺も手加減は無用だな!」
ベクアはそう言うと、自分を中心に半径1m程の範囲の地面に氷を這わせた。さらに、自身の体に薄らと魔力を纏わせた。
ベクアも本気になったので、これからが本番になるだろう。
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