第387話 戦い方

「どうする…」


遠距離だといつ斬撃が飛んでくるか警戒しなければならない。さらに、俺は魔法以外の遠距離攻撃手段を持っていない。

また、近距離だといつ身体から飛び出してくるか分からない刃に気をつけなければならない。

遠距離だろうと近距離だろうとウカクは厄介な攻撃を使ってくる。



「あ、そっか」


俺は前世から持っている最大の長所とも言っても良い力を忘れかけていた。最近の俺は無駄に考え過ぎて戦っていたようだ。俺の長所を活かすためにはリュウとの試合時に悪魔憑きと悪魔化を同時に使っていた時のように、少し野生的な動きをした方がいいのかもしれない。



「よし!」


俺は意気込んでから、ウカクに向かって走り出した。


「はあっ!!」


俺はウカクに近寄ると、全力で光翠をウカクの首を狙って振った。


ガキンッ!


ウカクはそれを手の平で受け止めて、素手と剣がぶつかった音とは思えない金属音が鳴り響いた。攻撃が止められることは予想していたので、そのままテンポを崩さないよう自然に下から闇翠を振った。


「っ!」


闇翠を振った瞬間に危機高速感知が反応したが、俺はそのまま攻撃を続けた。



ギギギ……!キンッ!


今度は俺の危機高速感知が反応した原因のウカクの太ももから生えてきた刃を光翠で受け流したことによる金属が擦れる音と、俺の闇翠での攻撃をウカクがチョップで受け止める音が訓練場に響いた。


「はっ!やっ!」


「くっ…」


俺は攻撃を受けることに関してはほぼ全て反射神経に任せることにした。そうしたことで多重思考の大部分を攻撃に使えるようになり、攻撃のみに集中することができた。これは攻撃を受け流すのが反射的にでも行えるくらい上達したからこそできるようになった芸当だ。

俺が戦いのスタイルを変えて少し打ち合いをしていると、ウカクは模擬戦始まってから初めてその場から下がった。



「ゼロス君の方が魔族よりもよっぽど魔物らしい動きだよ」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


時々似たようなことは言われたことがある。今世で前世よりもさらに成長した俺の反射神経速度は相変わらず異常のようだ。



「想像してたよりもゼロス君が獣化のみでも強かったから、もうちょっと頑張ろうかな」


ウカクはそう言うと、初めて自分から俺に向かってきた。


「しっ!」


そして、ウカクは俺に近付くと、指を全て刃に変えて引っかくような攻撃をしてきた。これを剣で受け流そうとすると、掴まれるそうなので、俺はウカクの腕を剣で叩いて少し軌道を逸らして避けた。


「っ!!」


今日一の危機高速感知の反応があり、俺は慌てて頭を下げた。すると、頭のあった部分にウカクの尻尾が通り過ぎた。どうやら、ウカクは近距離戦でも尻尾を使ってくるようになったようだ。



「はっ!らっ!」


「しっ!ふっ!」


ウカクの攻撃は刃を鎌のように曲げて少し受け流しずらいように攻撃をしてきたので、さっきより少し意識を防御にも回さなければならなくなった。

しかし、それでも俺はウカクの至近距離で剣を振ることができている。お互いの攻撃がほぼ当たっていないので、もし見知らぬ誰かが今の俺達を見たとしたら演武のように見えるかもしれない。



ぴくっ!


そんな膠着状態を破るために、俺はウカクの動きをサイコキネシスで止めた。尻尾を9本にしたことでその力が強くなり、獣化のみのウカク相手なら数秒動きを止めることができた。


「はっ!らっ!!」


「おふっ!ぐふっ!」


俺の剣の攻撃をウカクは腹や脇腹に刃を生やして受け止めた。刃を生やせるのに俺の攻撃をわざわざ手や腕で止めていたのは、衝撃は伝わるからだろう。現にウカクは俺の攻撃を食らって苦しそうな声を上げている。


「は……っ!?」


動きを止めている間にもう1回攻撃できると思って闇翠を振ろうとした時に大量に危機高速感知が反応した。その反応の数は受け流せる訳もない量だったので、俺は慌てて後ろに下がった。



「はあっ!!!!」


そう今日初めて力強く叫んだウカクの全身から無数の刃が生えてきた。もう刃が多すぎて、刀に埋もれてウカクの姿が見えない。俺は急いで後ろに下がったからよかったが、あのまま攻撃していたら全身に刃が刺さって蜂の巣になっていただろう。



「ふぅ……」


ウカクがそう一呼吸すると、生えた刃は全て身体の中に戻って行った。


「参った。俺の負けだ」


刃を全身に戻すと、ウカクは両手を上げながらそう言った。


「あの身体の動きを封じるやつをやられたら刃も防御の最低限ほどしか出せないとは思わなかった。このまま続けても俺は身動きを封じられて一方的にボコられるだけだ」


あの全身から生やした刃はサイコキネシスが解けた瞬間に一気に出したようだ。


「どうやら俺は獣王の能力を舐めていたようだな」


「いや、鎌鼬の能力もかなり凄かったよ」


あの斬撃はかなり凄かった。俺も使えるなら使いたいくらいだ。


「あれの本当の強さはまだまだ見せてないぜ」


「え?」


ウカクは少し自慢げにそう言った。俺が疑問を浮かべていると、ウカクは俺の方に尻尾を横殴りに振った。俺は慌てて斬撃を回避しようとしたが、危機高速感知は反応しなかったから斬撃の動きが分からず動けなかった。


ガンッ!!


「え!?」


俺はその場で立ったままなのに、俺の後ろの壁は最初の時と同様に傷が着いた。


「俺の斬撃は俺の意思で斬る対象を選ぶこともできるんだ。この力は護衛にはもってこいだろ?」


「確かにそうだね」


これなら味方や護衛対象がどこに居たとしても、それらをすり抜けて敵のみに斬撃を当てることができる。


「まだ誰も帰ってこないみたいだし、獣の固有の能力は無しにしてさっきの打ち合いをやろうぜ」


「いいよ」


俺はあの斬撃を見た瞬間から、ウカクの言った軽い運動というのは嘘だと思っていた。しかし、もしかするのウカクは本当に軽い運動のつもりだったのかもしれない。俺は縛りの中で全力を出して戦っていたが、ウカクは一体どれくらい力を出していたのだろう…。

それからベクア達が帰ってきて王城内が騒がしくなるまで俺とウカクは演武のような打ち合いをやっていた。

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