第369話 珍しく…

「結局、ここに来て得られたことは無かったな…」


神雷に新たな使い道が無かったので、ここに来た目的は果たせなかった。明日のリュウとの試合のためになったことは無かった。

まあ、神雷についてよく知れただけでも良しとするしかないな。実際に神雷について知れたことはかなりプラスになった。



「あ、そうだ。神雷エンチャントを魔力無しでもできようにしておいたよ」


「え!?」


急に神が超大事なことを言ってきた。絶対にそんなついでのように言うことではない。


「元々神雷は魔法なんかじゃないから、エンチャントで消費するのは魔力と体力のどちらでも良かったんだよね。他のエンチャントは魔力だし、魔力なら簡単に補充方法もあったら魔力にしてたんだよ。ただ、今回に限っては体力消費の方が必要そうだからね」


「ありがとう!!!」


それができるなら、デュラとの試合の前にしてくれとはかなり思っているが、そんなことよりもしてくれたこと自体がすごくありがたい。


「おおっ…こんな素直に君に喜ばれたのは初めてだね」


確かにいつも変な事を、時々いい事をしても追加で余計なものもしてくるような神にこんな素直に感謝したのは初めてだ。



「あ、それからもちろんだけど、神雷エンチャントは魔力でもかなり消費するんだから、比例して体力もかなり消費するからね」


「…分かった」


そこは文句を言えないから仕方がない。

魔力と同じ消費ペースで体力が消費されると考えるなら、そう易々とは使えないな。魔力は精霊界から持ってこれるが、回復エンチャントはできないので体力に関してはそうともいかない。ダーキに体力の補充や温存方法を相談するとして、できるだけここぞと言う時まで神雷エンチャントは取っておかなければならないな。


「今日の夜にでも体力を消費しての神雷エンチャントを試してみてね。見た目的には魔力消費のと変化はないから、リュウに見られても問題ないよ」


「そうするよ」


当たり前だが、試合前に1度試しておいた方がいいよな。実際にどのくらい体力を消費するかは事前に知っておいた方がいい。試してもリュウにバレないのは良かった。


「ハーフエンチャントも含めて念入りに試しておいてね。もしかしたら魔力を使っての神雷エンチャントと効果がほんの少し違うかもしれないから、魔力でのも使って、比べながら試してみてね。それと、自分では大丈夫だと思っても、念の為に次の日に聖女に会って、体力は回復してもらってね」


「そう…だな」


効果が少し違うのは逆に戸惑うかもしれないから、魔力での神雷エンチャントも含めて試してみよう。

また、体力を回復できるのは聖女が使う聖魔法だけで、普通の回復魔法には不可能だ。一応、俺の回復エンチャントでも体力は少しづつではあるけど回復できる。しかし、万全の状態にする為にも聖女に頼んでおいた方がいいだろう。貸しを作るみたいになるのは少し嫌だけど仕方がないな。


「あ、それからセットする【称号】の変更を一々ステータスを開かなくても、口頭で変更できるようにしておいたよ」


「あ、ありがとう」


例えば、「戦闘に必要な称号をセット」と言えば、自動でセットする称号を戦闘に特化したやつにしてくれるそうだ。これにより、戦闘中に獲得した称号でも簡単にセットすることができるようになった。これは普通に便利だ。なんか、今日はこの神にしては珍しくいい事ばかりしてくれる。




「あっ」


「そろそろ終わりみたいだね」


俺の体が少しずつ透けてきた。そろそろここに居られる時間が終わろうとしている。


「最後に1つ言っておく」


神がいつにも増して真剣そうな顔でそう言った。


「試合には反則負けしてもいい。所詮はただの年に1度の獣人の大会だ。これに負けても問題は無い。だから絶対に死なないでくれ」


「え?」


「それから……もしもの時はゼロスだけでもいいから逃げてくれ」


「え!それってどういう…」


そこで俺の意識は現実に戻ってきた。



「くそっ……」


何でいつも大事そうなことを最後に言うんだよ…。多分、それ以上追求されないためなんだろうが、中途半端に言わずにはっきりと教えてもらいたい。

一応、それから何度も祈ってみたが、もうあの場所に呼ばれることは無かった。



「戻るか…」


俺は午後からのリュウの試合を見るために、闘技場まで歩き始めた。ちなみに、昼食はそこらの屋台で適当に美味しそうなのを買って食べた。






◆◇◆◇◆◇◆


「いつにも増して真面目にしちゃったな」


今日会ってふざけたのは最初の1回と話の途中の数回くらいしかない。


「でも、あんな運命があると知っちゃったらね」


私が見える未来は確定事項ではない。ある事象が起こることだけが確定していて、そこから先はまだ未確定だ。その未確定の複数の選択肢を見ることができる。また、その未確定の選択肢の中で、それぞれが起こる確率なんかも知ることができる。

…前世であの子は死ぬことが確定事項なのに、そこまでのプロセスを尽く回避してたから焦ったよ…。



「…神失格かもね」


まだ前のドラゴンの時みたいに本人の生死を変えるために他人に警告することは大丈夫だ。いや、もちろんそれも絶対にダメではあるけど、まだギリギリ許される範囲内だ。

しかし、生死を分けることを本人に伝えることは禁忌中の禁忌だ。

また、最後の多数の命を犠牲にして、1人の命を優先するような発言をするのも禁忌だ。神とは少数の命を犠牲にしても多くの命を救わなければならない。その象徴となるのが勇者や聖女だったりする。



「私は私が思っていよりもゼロスのことを好いているみたいだ」


暇さえあればゼロスのことを見ているせいか、きっと情が移ってしまったのだろう。

それを私が悪い事と思えないのがまた厄介だ。



「さて、証拠隠滅作業に入りますか」


私は恒例となっている、誰かがここを訪れた痕跡を消す作業に取り掛かった。明日の午後の試合までには終わらせなければならないので、急いでやらなければならないな。


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