深林編

第280話 出発

「みんな、忘れ物はないよね?」


「お兄ちゃん…私達は遠足に行くわけではないのですから、そんな確認は必要無いですよ」


「あ、そう?」


一応リーダーらしいことしようとしたが、空回りしたようだ。

ちなみに、今回の遠征でも対校戦と同じように、リーダーは俺、副リーダーはソフィである。

ぶっちゃけ能力的にはソフィの方がリーダーに相応しいのだが、コミュニケーション能力的に俺になっている。一応俺の方がソフィよりはみんなとコミュニケーションを取れる。だから時々、ソフィの言うことをみんなに伝える役にもなると思う。



「そんな急ぎでもないから2日目に深林に着く位のペースで走って行くよ」


少しゆっくりめに行くのは、シャナとキャリナのスタミナの確認と、深林に比べて安全なところで1度野営をしてみるためだ。もちろん、これを考えたのはソフィだ。

こうして深林へ向けて俺達は走り出した。




「キャリナ大丈夫?」


「はい、問題ありません」


「シャナ大丈夫?」


「ん」


3時間ほど走り続けたので、一応疲れていないかを確認した。キャリナは余裕そうで、シャナ少しだけ疲れているという感じだ。スタミナに関しては獣人であるキャリナの方がシャナよりも上みたいだ。



「私には確認しないのかしら?」


「いや…お前は大丈夫だろ」


「ふん…」


キャリナとシャナに大丈夫か確認をしたのを見ていたのか、エリーラがそう言ってきた。そんなことでいじけるなよ…。はぁ…全くしょうがないな。



「俺とソフィとエリーラはあの2人が進化するまでは見守る側なんだからよろしくな」


「ま、まあ、そういう事ならあの2人ことは少し気にかけてあげるわよ」


「ありがと」


俺がそう言うと、さっきまでの不機嫌そうな顔はすっかり無くなった。



「というわけだからソフィもよろしくな?」


「はい、お兄ちゃんの次に気にかけますよ」


「いや…当分は俺よりも2人を気にかけてほしいんだけど」


「………」


「ソフィ…」


「…わかりましたよ」



この後から2人ともチラチラとキャリナとシャナの事を気にしてくれるようになってくれた。ちなみに、ソフィは2人のことよりも俺の方を見ていた気がする。





「じゃあ今日はこの辺で夜営をするか」


「そうですね」


昼頃に1度に1時間ほどの休憩をした以外はずっと走りっぱなしだった。このペースなら明日の昼過ぎには深林に着くだろう。

俺達は日が落ちてきたので俺達は野営の準備を始めた。5人で手分けしてやると、想定よりも早く終わった。ちなみにテントは2つ用意した。一応予備としてあと何個かマジックリングに入っている。




「それじゃあ、見張りをどうするかを決めようか」


夜ご飯を軽く食べ終えた時に俺がみんなにそう言った。


「その前に見張りはいくつに分ける?」


「人数的にも2つでいいんじゃないの?」


「そうだな…ソフィもそれで問題ないか?」


「問題ありません」


ソフィの承諾もあったので、見張りはエリーラの案を採用して前半後半で2つに分けることにした。これは俺とソフィが2人で行った時と同じだな。



「次は誰と誰がペアになるかだが…」


「まず、私とお兄ちゃんが…」


「ソフィなら、俺とはペアになれないって分かってるよな?」


「………」


普通に分けるとしたら、実力が均等になるようにするのが正解だと思う。だとしたら、俺とソフィが一緒になることはまずないだろう。



「実力順に1から5で並べて、1、3、5と2、4のペアはどう?」


「……それいいかもな」


シャナが言った案なら確かにペアごとの実力も均等に近くなるだろう。



「ソフィもそれでいいよね?」


「………はい、いいですよ」


こうして決まった組み合わせは、俺、エリーラ、キャリナとソフィ、シャナとなった。



「順番はどうする?」


「私達が先にやります。シャナもそれでいいですか?」


「大丈夫」


というわけでソフィ達が先に見張りをすることになった。ちなみに、今は深林のための訓練として、魔導具を使って魔物が近寄らないようにしたりはしていない。深林の高ランクの魔物にはそんな魔導具は意味ないからな。

後半組の俺達3人は同じテント中に入った。ちなみに男の俺と他のみんなが同じテントなのは、緊急時に2つのテントに行って起こす暇はないと思われるからだ。



「じゃあ寝るか」


「…ちょっと、あんたどこに行くのよ」


「え?端っこだけど?」


一応俺はテントの端の方に行って眠ろうとしたのだが、エリーラに止められた。


「あんたは真ん中で寝なさい」


「え?いや…なんで?」


「え…それは……あんたが私達の中で最大戦力だからよ!もしもの時に1番早く外に出れるように真ん中で寝なさい!」


「えー…」


エリーラの言うことはあってはいる。確かに、もしもの時はその方がいいだろう。だけどな…。


「わ、私も不安なので真ん中で寝てもらえませんか?」


「ん゛…………わかったよ…」


「よかった…」


キャリナが上目遣いでそう言ってきた。普通にキュンときた。まあ、キャリナはあまり野営とかもしたことが無さそうだし、エリーラともあまり面識は無いからな…。とりあえず慣れるまでは俺が真ん中で寝た方がいいかな。



「なんで私が言った時はすぐに聞かないのよ…」


「いや、そういう訳じゃ無いから」


「ちょっと愚痴ってみただけ。そんなこと別にいいわよ。ほら、早く寝るわよ」


「お、おう」


エリーラがぼそっと言ったことを俺は聞き逃さなかった。エリーラも本気で文句を言った訳では無いようだ。俺達は早く体を休めるために横になった。



「…2人ともちょっと近くない?」


「そんなことないわよ。ねえ、キャリナ?」


「は、はい!そ、そうです」


一応テントは5人用なので、それなりに距離を取れるはずなんだが、2人は寝返りをしたら肩が当たりそうなくらい近い。



「そんなこと気にしてないで早く寝なさい」


「は、はい」


俺は近くで聞こえる2人の寝息を気にしないようにしながら何とか眠った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る