第254話 深林

「雷爆」


「ピギィ!」


「お兄ちゃん、お疲れ様です」


ジールとの精霊魔法で魔物を倒した。ソフィと魔物を討伐の遠征に出て1週間が経過した。依然としてレベルが上がっていない。あの神は進化のためにどんだけ俺の経験値を奪ったんだよ…。



「この1週間で精霊魔法も上達しましたね」


「ああ」


俺が今やっているのは自力で精霊界から魔力を取り出しながらの精霊魔法だ。俺が自力で魔力を取り出すことが出来れば、勇者に遭遇する前にジールを俺から出して、大量の魔力を渡しておいて精霊魔法を使うことが出来る。もちろん勇者から精霊達を剥がす間は魔力を渡すのに精一杯なので、ジールに蓄えた魔力が無くなれば精霊魔法はそこで終わりだ。

そのため、精霊魔法の練習もしている。俺は自由が取り柄の精霊魔法なのに、レパートリーが少ない。今はソフィのアドバイスも聞きながら工夫している。



「今1番いい感じなのは雷爆ですね」


「ああ」


色々新しいのはできたが、1番俺に合っていたのが雷爆だ。他にも何個も作ったが、ソフィが考えたからか、使うのに工夫が必要なやつが多かった。それに比べて雷爆という魔法は単純で、俺を中心として雷を爆発させるだけだ。これはソフィとの喧嘩の時に放ったサンダースパークの強化版だ。威力は同じ量の魔力を使っても何倍にもなっている。



「この魔法はお兄ちゃんしか真似出来ない魔法ですけどね」


こんなにも威力が高いのにもわけがある。この魔法は俺から近くにいるほど威力が強い。つまり、本来は俺が誰よりもダメージを受けてしまうのだ。普通はそんな魔法は割に合わない。だからこそ雷を吸収できる俺ぐらいしか最大限にこの魔法を活かせない。



「じゃあ今日はそろそろ引き上げますか」


「そうだね」


今、俺達は魔族や龍がいると噂の4つの種族の領土の中心にある深林の中にいる。そこの比較的浅いところで狩りを続けている。もちろん普通は高い壁や検問があるので、Aランク以上の冒険者などの資格がないと入れないのだが、ソフィと転移してやってきた。そのせいで3日間転移ができなかったが、シャナから信号が送られてこなくてよかった。




「おやすみ」


「おやすみなさい」


壁の近くはバレる危険性があるので、少し深林に入った場所で俺達は寝泊まりをしている。浅いとはいえ高ランクが多い深林の中に居るので必ずどちらかが見張りをしている。だからソフィと一緒に眠ったりすることは無い。





「今日もレベルは上がりそうにないな…」


「そうですか」


A+ランクの魔物を大量に倒しているが、レベルが全く上がってくれない。



「まだ信号は届いてないよね?」


「はい」


信号は緊急事態の他に、対校戦が始まる2日前にも送られるそうだ。一応まだ送られてないので狩りを続けることができる。



「お兄ちゃん止まってください」


「ん?」


ソフィが急に俺の腕を掴んで止めた。



「誰か1人来ます」


「……」


誰か1人…つまりソフィが察知したのは魔物ではないということだ。こんなところに1人で入って問題無く歩いているということはかなりの強者だ。俺でも1人では眠っている時の警戒が出来ないので入れない。俺は魔族をではないかと警戒した。



「そう警戒するなや。嬢ちゃんの方はドラゴンの時に1度会っているであろう」


「あっ…」


木の間から白髪のおじいちゃん?が出てきた。腰には白の鞘に入った得物を2本下げていた。



「ドラゴンの時と刀が違いますね」


「よく覚えていたのう」


「え!」


剣にしては細いからレイピアなのかと思っていた。レイピアを二刀流で使うのは珍しいと思ってたけどそれは刀なのか!?



「あの時は買い出しで王都に来ておっただけだからこの刀は持っておらんかった。そのせいで皆には迷惑をかけたのう」


「そうでしたか…」


どうやらこのおじいちゃんはソフィがドラゴン討伐の時にお世話になった人のようだ。



「では、私達はこれで…」


ソフィがそう言っておじいちゃんから離れようとした。ドラゴンの時に初対面なら別にそこまでの仲では無い。だから何でこんなところに1人でいるのかとかは質問しないで別れるつもりなのだろう。



「…儂から逃げるようにどこかに行かなくても良いでは無いか」


おじいちゃんは、警戒しながら自然に背を向けて歩き出した俺達の前まで一瞬で移動してきた。今のに魔力高速感知は反応しなかった。つまり、魔法は使っていない。魔法以外で一瞬で移動するスキルは縮地が思い浮かぶ。ただ、縮地は直線でしか動けない。だから俺達を回り込むのは不可能だ。つまり、縮地以外の未知のスキルまたは、俺の雷縮のように進化した縮地を取得していることになる。



「ドラゴンの時に世話になった礼として、そのぼうずの剣の腕を見てやるぞ」


こんなにいらない感謝の押し売りは前世も含めても初めてだ。断っても意味無さそうだよな…。



「ソフィ」


「はぁ…わかりました」


ソフィとアイコンタクトを取ってこの誘いを受けると伝えた。このまま無視していたら一生付きまとってきそうな雰囲気があった。

ソフィはため息を吐きながら俺達から数歩下がって離れた。


「何か不穏な動きをしたらすぐに殺します」


「ほほっ嬢ちゃんは怖いのう…」


おじいちゃんはソフィの本気の脅しを笑って流した。脅しを受けたおじいちゃんは突然、刀を掴み出した。その行動に俺とソフィが警戒していると、おじいちゃんは刀を抜いて遠くに投げた。



「ほれ、これでいいであろう?」


おじいちゃんは投げられた刀が入っていた2つの鞘を持ちながらそう言ってきた。ちなみに投げられた刀は綺麗に木に刺さっている。


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