第204話 到着

「はぁ〜〜」


今日で王都に向い出して3日目だ。今は昼ご飯を食べた後の少しの休憩時間だ。ずっと馬車の中にいるのも体に悪いからと、みんな外に出ている。俺は翠剣を見ながらため息を吐いた。

この剣は良い剣だ。俺が今まで使った剣の中で1番斬れ味も良い。だけどなんか最初使っていた時と違って、ほんの少し違和感があるから貰いたくはなかった。ヒビとか入ってもないし、刃こぼれとかもないから壊れそうということではないと思う。でも使っているとなんか違和感を感じてしまう。一応それはちょっと前にそれとなく伝えて調べてもらったけど、原因は分からなかった。だからこの剣はエルフの里に置いて行きたかったのだ。今みたいに持ってきてしまうと、渡される気がしたから。なら貰っても使わなければ良いという話なんだが、違和感があるのに、今まで使ってきたどの剣よりも使いやすいので、持っているとつい使ってしまう。




「どうしたものか……」


「お兄ちゃん、どうしました?」


「いや、何でもないよ」


それから少し経って馬車の中に戻った。この馬車は魔物と見間違うくらい屈強な3頭の馬が引いている。そのため、普通の馬車よりも何倍のスピードが出る。だから2週間ほどで王都に到着するそうだ。ただ、エルフの領土から人間の領土に入るための手続きは1日ほどかかるらしい。



「あれ?そういえば、ソフィはどうやってエルフの領土に入ったの?」


他種族の領土に入るのは、今の俺たちのような正当な理由があったとしても手続きは1日ほどはかかってしまう。まあ、今回手続きが1日ほどかかるのは、エルフの女王がいるという理由もあるのだろうけど。



「私が合法的にエルフの領土に1人で入る方法なんてあると思いますか?」


「おいおい…まさか……」


確かにソフィにエルフの領土に入るための許可が下りる正当な理由はないと思う。


「転移って便利ですよね」


「はぁ……」


どうやらソフィは手続きなんてしないでエルフの領土に入ったらしい。だからといって、門番がザル警備だとは思わない。転移なんていうチート魔法を使えるソフィがおかしいのだ。でも、逆に言うと、ソフィ程の実力者なら手続き何かしないで他種族の国に行けるということだ。



「その辺の問題は各種族で長年話し合っているが、解決策は見つからないんだよ」


「まあ、そうだよね」


ジュディーさんも言っているが、解決策はなかなか見つからないだろう。魔道具を設置すれば、種族の領土を分けている高い壁を自力でよじ登ることでしか他種族の領土へ行けなくなるが、そんな大量に魔法を封じる高価な魔道具は用意できる訳が無い。




「ソフィもあんまりそういうことしたらダメだからね」


「はーい」


多分聞かないと思うけど一応言っておいた。ソフィは前世からあまりルールを厳守していない。他人に迷惑をかけなければある程度破ってもいいだろうという考えなのだろうか。

だからもしまた、今回のように、俺に何かあればソフィは平気で他種族の領土に行くだろう。


その後の旅も何の問題無く進んだ。時々休憩時にエリーラやソフィと模擬戦をしたりしながら王都へ向かった。







「申し訳ありません。少しの間はこちらでお休み下さい」


「ええ。ありがとう」


そしてついに人間領までやってきた。この門を通り抜けると、リンガリア王国だ。そして2日後には王都に到着するだろう。今は門から少し離れたところに仮設立された少し豪華な建物の中にいる。きっとエルフの女王が来るからと急いで作ったとだろう。家具なんかも上等なものに見える。




「ゼロス様、王都に到着したら私とジュディーとは別行動になります」


「そうなの?分かったよ」



まあ、エルフの女王達は色々とやることも多く、忙しいのだろう。ただ、エリーラは暇だから連れ出しても良いと言われた。



「王都に着いたら何する?やっぱり冒険者かな?」


俺はわくわくしながらソフィに聞いた。まずはシャナとクラウディアさんに挨拶かな?急に居なくなったことを謝らないといけない。




「やることなら既に決まってますよ」


「え?何するの?」



特に予定とかはなかったと思う。あ、急に留学なんかしたから手続きとかしなきゃダメなのかな?




「王都に着いたらまずは勉強ですよ」


「……なんで?」


「お兄ちゃんが留学中に行われたテストは留学終了後2ヶ月以内に受けなければなりません。なら早く済ませてしまいましょう。1度は勉強させたところなので勉強はそこまで大変では無いですよ。ちゃんと私が付きっきりで完璧になるまで教えてあげますので、心配いりませんよ」


「……」


ちなみに、ソフィは馬車の中で勉強させたかったそうだが、勉強道具なんて持っていなかったので断念してそうだ。やばい…どうしよう…。一気に王都に着くのが楽しみじゃなくなってしまった。しかし、そんなことを言っても、日は着実に過ぎていき、俺達は王都に到着した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る