第196話 深夜の来訪者

「なんだっ!!」


俺はベットから飛び起きた。なぜ飛び起きたかというと、急に危機高速感知が激しく反応したからだ。




「まだ来たばかりだぞ?気付くのが早いな」


声がした方に目を向けると、そこにはフード付きの黒のロングジャケットを着て、大鎌を2本手に持った見知らぬ男が立っていた。



「もしかしなくても…」


「ああ、我の妹が世話になったな」


この男はディアと同じく銀髪で紅色の眼をしている。さらに、背にはディアに似た羽が三対生えている。見た目からしてディアの兄だと想像できる。


「そう警戒しなくても良い。殺すつもりならもう既に殺している。それに我には契約者が居ないから無理して来た。だからそう長くは居れない。用事を済ませたら悪魔界に帰るから安心しろ」


確かに寝てる時に殺そうと思ったらすぐに殺せただろう。というか、契約者無しでも勝手に来ることができるのね。

悪魔王は話し終えて少し経つと、大鎌を腰に携えてから頭を深々と下げた。




「我の妹のことをよろしく頼む」


「ほぇ…?」


突然の事で驚き過ぎて変な声が出てしまった。とりあえず急いで落ち着きを取り戻した。それから気になったことを質問していった。



「なぜそれを俺に?契約者は妹のソフィですよ?」


1番に気になったのがこれだった。俺はディアと直接関わることはあまり無いだろう。これをお願いするのは俺ではなくてソフィの方が適任だ。


「今日の様子はずっと見ていた。お前の妹の素質、素養…どちらを取っても何百年に1人ほどの逸材だろう。しかし、まだまだ未熟だ。特に心が…だ。今日の件は未熟な心が大いに出た結果だ。

まだ右も左も何も分かっていない我の妹は良くも悪くも契約者の影響を大きく受けるだろう。逆に言うと、契約者が良ければ妹も良い影響を受けると言える。そして我は契約者であるお前の妹を正しい方へと導いて、我の妹を良い方向へと成長させられるのは、お前しかいないと思う。それに万が一契約者共々妹が暴走した時に、精霊王と契約しているお前なら力ずくで止められる。だからお前に妹のことを頼んだのだ」


「そうか…」


悪魔王だからかなり恐ろしい者だと思っていたが、そんなことは無かった。家族思いの優しい奴だったようだ。



「…というのが3%程の理由だ」


「残り97%は?…」


「それはお前もシスコンだからだ!」


シスコン…?どういうことだ?それもお前もってことは…。


「これは我の持論なのだが、シスコンの奴に悪いやつはいない。現に今まで殺してきた悪魔達の中にもシスコンは居なかった。シスコンとは妹を愛し、妹を守護する者だ。我はそんなシスコンを他の誰よりも信頼している。だから我と同じシスコンで、妹を嗜む者であるお前に頼んだ」


おおう…。悪魔王のことを人格者として尊敬していたのが一瞬で崩れ去った。


「妹のためを思って誰とも契約できないようにしていたのが、今回は完全に裏目に出てしまった。我の妹はとても純粋で最高に可愛いから変な契約者に当たると大変だ。だから契約者は我が厳正な審査を持って決めようとしていたのだが、なかなか相手が見つからなくてな…。まぁ…その点だとお前の妹なら契約者として及第点だから良かったが…。どうやら我は妹を束縛し過ぎていたようだな。だから今回のような無茶をしてしまったのだろう。もっと自由に伸び伸びと育てた方が良かったのか?いや…しかし、悪魔界には危ないやつが多い。もし妹が悪魔に何かされたら、我は悪魔を滅ぼしてしまう…。それに…」


「……時間大丈夫?」


「おっと…そうだったな。愛しの妹トークばかりしている時間はないな」


悪魔王のディア話が終わらないから途中で話を遮った。もし時間が許せば何時間でも話してそうだ。


「それと、今は精霊とエルフには邪魔されないように眠ってもらっている。明日の朝には起きているだろう」


「え?」


確かに悪魔王が来ているのに、ユグとジールからの反応が何も無いというのもおかしい。実際に話しかけても反応が無い。本当に眠っているのだろう。


「我はシスコンのお前を高く評価している。契約枠が空いていれば我が……」


「我が?」


「そうか、その手があるな………。いや、何でもない。お前に契約枠が空いていれば我が契約してやってもいいと考えたが、お前は悪魔魔法を取得していないから無理だなと思っただけだ」


「そうだね」


前半の少しは小声だったので何を言っているか分からなかった。俺は悪魔魔法を取得していないので契約したくてもできない。そして、どうやら契約できる数は精霊も含めた数のようだ。だから俺はもう2人と契約しているのでもう誰とも契約はできない。



「そろそろ時間だ。それにここに向かっている者も居るから我は帰るぞ」


「向かっている者?」


何か疲れた気がする。突然の訪問は心の準備ができないので辞めて欲しい。というかみんな眠ってるんじゃないの?ここに誰か来るの?


「1つ言い忘れていた」


俺に背を向けて空間にウォンッ!と黒い渦を作った後に、悪魔王は再び俺の方を見てそう言った。


「もし妹に手を出したら、お前の大事な人をお前の目の前で殺す。その後はお前を我ができる限りの苦痛を与えて殺す。絶対に手を出すなよ?」


「安心しろ!絶対に出さない!」


そんなことを大鎌を向けて言ってくるから心臓に悪い。一瞬だけ危機高速感知がありえないほど反応した。多分、今の反応は過去最高値だと思う。


「またな」


そう言い残して悪魔王は黒い渦に入って去っていった。渦は悪魔王が入ってすぐに消えた。

本当にお願いと忠告するためだけに来たのか…。というか今の黒い渦は特殊能力だよな?空間系の能力なのか?でも精霊とエルフを眠らせたのも特殊能力だよな?兄妹だからディアの反射と似たような能力だと思っていたが、違うのか?それよりも、やはり悪魔王は能力を複数持っているのか?

そんなことを考えていると、俺の部屋のドアがバンッ!と勢いよく開いた。



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