第190話 精霊王ユグ
「ソ、ソフィ?」
「な〜に?」
「えっと…離れて欲しいんだけど…」
「え〜?やーだっ!」
ソフィの性格が幼児退行したかのようになっている。それだけなら可愛いだけなので最高なのだが、なんか黒い靄のようなものも出ている。それにどこかソフィであってソフィでは無いような気もする。
『ゼロくん!ソフィアちゃんには悪魔が憑いてるよ!』
『え!?悪魔!?』
『しかも無理やり憑けたのか分からないけど、ステータスが普通よりもかなり上がってるよ。でもその代わりにだいぶ自我の方がおかしくなってるよ』
『大丈夫なの!それって!?』
『これで大丈夫に見える?』
『………』
どう見ても正気には見えないので、大丈夫では無いだろう。
『ソフィアちゃんを元に戻したい?』
『戻したい』
『…分かった。ちょっと待って』
ユグはそう言うと話さなくなってしまった。ジールに事情を聞きたくても、精霊降臨中なので何も話せない。
「…ねぇ?今…誰と話してたの?」
「精霊だよ?」
素直に言ってしまったが、少し後悔した。ここは誤魔化した方が良かったかもしれない。
「へー、私がこんなに傍にいるのに他の女と話す余裕あるんだ〜?」
「痛い痛い!首が…!」
「お兄ちゃんはどうやったら私を女として見てくれるの?私を1番に見てくれるの?やっぱり既成事実を作らなきゃダメなの?」
ソフィは抱き着く力を強めた。そのせいで少し俺の首が閉まってしまう。そんなソフィに水の槍が飛んできた。俺はソフィの抱き着きを解くので精一杯だったのでソフィに当たるまで気が付かなかった。
「なに?」
しかし、ソフィの頭に水の槍が当たったのに、ソフィは全くダメージを受けていなかった。ちなみに水の槍を放ったのはエリーラだ。というか…迷い無しに頭に放ったらダメでしょ。
「…あなたも私とお兄ちゃんの仲を邪魔するの?」
「少なくても今のあんたよりは私の方が何百倍もお兄ちゃんとやらに相応しいと思うわよ?」
「殺すよ?」
「そう言えば、さっきの模擬戦も結局決着ついてなかったわね。いいわよ、相手してあげる」
ソフィはそう言うと、俺から離れた。そしてエリーラの方へと向かおうとした。
「お兄ちゃん、ちょっと退いて。あいつ殺せない」
「退けない」
今のソフィを行かせてしまったら本当にエリーラを殺してしまいそうだ。だからソフィの前に立って進路を塞いだ。
「どうしても退けないなら、気絶させちゃうよ?」
『ゼロくん!精霊降臨解除して!!』
ソフィのセリフに被せるようにユグがそう言ってきた。俺はすぐに精霊降臨を解除した。すると、突然身体に魔力が延々と流れ込んできた。
『その魔力をユグにちょうだい!』
俺は言われるがままにユグに余剰分の魔力を渡した。そしてそのままユグを具現化させた。
「お兄ちゃん、もしかして私と殺り合おうって言うの?」
「違うよ?殺り合わないから安心していいよ。とりあえず一方的にユグ達がやるだけだから」
そしてソフィが動こうとした瞬間にユグが先に動いた。
「引力」
ユグがそう言うと、ソフィは地面に這い蹲った。ソフィは動こうともがいているが、全く動けないようだ。精霊降臨をユグですることは無理だが、魔力さえかなりの量があればユグで精霊魔法を使うことができるようだ。
「とりあえず、悪魔を剥がそうかな」
今度はそう言いながら這い蹲るソフィに右手を銃のような形に変えて向けた。そんな状況だが、俺にはソフィが大丈夫かどうかなどの不安は全くない。何故なら俺にはユグが何をしたいかが分かるからだ。今は俺がユグでの精霊魔法を使っているようなものなのだ。だからユグが主体となっているだけで、魔法を使うのは俺だ。だから何をやるかも当然分かる。
「「天誅」」
すると、天高くから神々しい光がソフィに向かって降り注いだ。そしてソフィを覆った。そしてこの魔法でソフィが悪魔と契約したことがわかった。俺とユグ、ジールみたいな不利益がない契約だといいが…。
「悪魔2人は私が相手するから、ソフィアちゃんはゼロくん、お願い」
「分かった」
「それと今起こっていることの詳しい説明は後でするね。大雑把に言うと精霊使いと新しい種族の力って感じ。あと、ジールには無茶して貰ってるから決着はできるだけ早く付けてね」
「了解」
なんて事を話していると、天からの光が止んだ。すると、地面にはソフィの他に2人の女が苦しそうにそこに横たわっていた。きっとこれが悪魔なのだろう。1人は羽生えてるし。もう1人がメイド服なのが気になるけど。
「斥力」
ユグがそう言うと、悪魔の2人は勢いよく、遠くへ吹っ飛んだ。ユグはそれに着いて行った。
ユグが離れたことによって、魔法が消えたのでソフィも起き上がった。エリーラや他のエルフが動こうとしたのを口パクで「手を出すな」と言っておいた。すると、みんな少し離れてくれた。エリーラは呆れた顔をしていたが…。
「…これからお兄ちゃんは私と殺り合うつもり?」
悪魔が離れたことで、意識も正常に戻っていることを期待していた。しかし、そんなことは無かった。
「俺はソフィと兄妹喧嘩をするつもり」
「兄妹喧嘩?」
「そう。ソフィと俺との一対一で、正々堂々兄妹喧嘩。勝った方が負けた方に何でも一つだけ言うことを聞かせられる」
「何でも?」
「何でも」
兄妹喧嘩と言うだけではソフィはあまり興味がなさそうだったので、条件を追加した。これでソフィは周りのエルフ達に危害を加える心配は無くなっただろう。とは言え、俺は勝つつもりだし問題ない。言いなり権の使い道ももう決まっている。
「魔力はちゃんとある?」
「あの悪魔達も離れたし、まだまだいっぱいあるよ」
「それなら良かった」
俺には精霊、ソフィには悪魔がそれぞれ居ない。
俺とソフィどちらも魔力はほぼ無限。
2人とも全く同じ条件だ。今までは俺だけ精霊という契約者がいて、ソフィだけ魔力がほぼ無限だった。しかし、今回は初めて全く同じ条件だ。そして今のソフィなら勝った時の言いなり権を得るために本気で来るだろう。
「じゃあいくよ?」
「ああ!来い!」
そして俺とソフィとの本気の兄妹喧嘩が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます