第178話 ソフィの新たな種族

「ゼロ兄様、そろそろいいですか?」


「あ、ごめん!」


ステータスを確認するのに集中していてソフィのことを忘れてしまっていた。もしかしたらかなり長い時間待たしてしまったかもしれない。


「それでゼロ兄様はなんの種族になったのですか?」


「それはー…」


ここまで言って少し考えてしまった。俺の雷獣精人王は明らかに異様な種族だ。素直に言ってもいいのだろうか?という疑問がでてきた。




「雷獣精人王、俺の新しい種族は雷獣精人王だ」


色々考えた結果素直に言うことにした。雷人王や雷精人など、誤魔化し方もいっぱいあった。しかし、お互いに教え合うというソフィとの約束を破ってまで隠す必要は無いと判断した。まあ、この種族になった俺ですらどんな種族か全然分からないから言っても何も分からないだろうし。


「雷獣精人王?」


「うん」


やはりソフィはきょとん?としている。まあ、普通はそうなるだろう。


「簡単に言うと、雷の獣と雷の精霊と雷の人間の王?ってことですか?」


「多分?」


名前を言っただけでここまで判断できるソフィはやはり凄いと思う。今思えば俺の種族は名前のまんまの効果があるのだろう。


「強そうな種族に進化できてよかったですね!」


「う、うん…」


正直良かったのかはまだ分からない。とりあえずレベルアップした時にどれだけステータスが上がるか次第だ。


「では、私の種族を教えますね?」


「うん」


そこでソフィは少し覚悟を決めたような顔をした。そして一呼吸おいて話し出した。




「私の種族は魔人です。魔人族です」


「魔人?」


「…はい」


魔人族と言われても全くピンと来なかった。魔族は小さい頃から昔話的なもので聞いた事はあったが、魔人族は1度も聞いたことがない。魔人族とは何なのか、魔族とどう違うのか聞きたいが、聞いていいものなのかとも思う。


「では、魔族との違いを説明しますね?」


「う、うん」


俺のそんな気持ちは見透かされていたのか、ソフィから魔族と魔人族との違いについての説明が始まった。


「まず人間、つまり人族、獣人、エルフ、ドワーフに近い魔物が魔族です」


「うん」


それはソフィに勉強を教わっている時に習った気がする。魔族の中にもコミュニケーションが取れる者もいるが、人間に姿形が似ているだけで魔物である。だから人間の敵なのだと本に書いてあった。本に書いてあったことが絶対に正しいとは思わないが、今の俺の敵なのは違いない。



「そして魔物に近い人間、それが魔人族です」


「………」


それになんてコメントしていいか分からなかった。別にソフィが魔物に近いからといって、嫌悪感は全くない。だけど少し寂しそうにそう言うソフィになんと言えばいいかわからなかった。


「なので魔人族は魔法が得意な種族なんですよ」


元々人間達は魔物が魔法を使っているのを参考に自分達でも使えるように研究してきた。それを実現したのが詠唱だ。まあ様々なスキルによってその詠唱も省略したり、破棄したりできるのだが…。だから魔物に近い魔人族は魔力の量が多いし、魔法の威力も高いのだろう。



「ありがとうね」


俺がソフィに言わなければならないことはこれだと思った。ソフィはきっと俺のためにもっと強くなりたいと思って魔人に進化したのだろう。……きっとそうだよね?なら俺はソフィにその種族で良かったのか?とか、他にもっといい種族無かったのか?なんて聞いてはいけない。ソフィも好き好んで魔物に近い魔人族に進化した訳では無いと思う。ならここはお礼を言うべきだろう。


「はいっ!どういたしましてっ」


ソフィが安心したような顔でそう言った。きっと拒絶されたらどうしようとか考えていたのだろう。俺はその程度のことではソフィを拒絶するなんてことはありえない。ソフィも俺がどんな姿になっても拒絶はしないだろう。



「魔人族って魔物とか操れたりするの?」


ここからは気になったことを失礼にならない範囲で聞いてくことにした。ソフィに遠慮するのもなんか悪い気がした。


「この先どうなるかは分かりませんが、今のところは無理ですね」


「そうなんだ」


「はい。あと、魔族のように殺人衝動や破壊衝動とかも無いですね」


「そっか…」


殺人衝動と破壊衝動がないと聞けただけで凄く安心した。魔族の最大の欠点とも言えるそれらがないなら一安心だ。


「ただ…」


そう言うとソフィは俺が座っているベットに左手を置いて顔を近付けてきた。


「元々持っていた欲求は強くなってしまいました」


「へ、へー……」


そしてソフィは自分の唇に右手の人差し指をちょんっと当てながらそんなことを言ってきた。その仕草で俺の目線はソフィの唇に固定されてしまった。どう考えても13歳が出していいような色気では無い。そーゆーのにあまり免疫が無い俺は、目線を外してからそう言うのが限界だった。


「ところでゼロ兄様?」


「なんでしょう…」


まだドキドキが収まらない俺は未だ距離が近いソフィのことが直視できないでいた。逃げてないだけでも偉いと思う。あっ…このベット疲労回復しないと出れないやつだ…。多分起きたばっかりの俺はこのベットから出たくても出れなさそう…。要するに逃げ場はない。


「ハグはいつしてくれるのですか?」


「あっ…」


進化先の選択をしなければならないからと後回しにしてたやつだ…。やべっ…完全に忘れてたわ……。


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