第150話 ソフィア視点

「…ねぇどうして?どうして!」


お兄ちゃんがいなくなって3日が過ぎた。アドルフォ領に行ってもお兄ちゃんはいなかった。……右手しか無かった。持ち帰って腐らないように冷凍して大切に保管している。

手を持ち帰って家に帰ると、お兄ちゃんは魔族に襲われていたところをたまたま通りかかったエルフの女王に助けてもらったらしい。そんな偶然あるわけない。そしてそのままエルフの里に留学するらしい。その留学期間は特に決まっていないらしい。お兄ちゃんはエルフの里にいるので、私はお兄ちゃんの居場所がわからなかったのだろう。私もエルフの里に行こうと思った。でもそれは無理だ。私にエルフの里にある結界を壊す…または通り抜ける力は無い。私にはお兄ちゃんが帰ってくるのを指をくわえて待っていることしかできない。シャイナにはお兄ちゃんが無事だと伝えた。そしてお兄ちゃんがいないからしばらくは冒険者パーティーは休業とした。ただ、個人で勝手にやるのは自由だ。


「なんでこうなったの?」


私はお兄ちゃんとは片時も離れたくはない。本音はどんな時でも常に一緒にいたい。それを叶える方法で簡単に思いつくのは監禁だ。それなら常に一緒にいられる。でもそれは違う。私は前世でお兄ちゃんに酷いことをしてしまった。前世でお兄ちゃんの心を再起不能にしたのは私だ。だから今世ではお兄ちゃんがしたいようにさせたい。だから結婚できない双子になって、お兄ちゃんを近くで支えているだけで良かった。


でも、双子なのに、お兄ちゃんなのに私たちは結婚できてしまう。私たちが結ばれることが許されてしまう。そのせいで私はおかしくなってしまった。お兄ちゃんを支えるだけでよかったはずなのに、お兄ちゃんと結ばれたい。お兄ちゃんの1番になりたい。そう思ってしまった。


前世のお兄ちゃんの折れた心を本人は転生してもう元通りに治ったと思っている。しかしそうではない。まだお兄ちゃんの心は完治していない。完璧にへし折れて、粉々になった心が転生したからといってそう簡単には治らない。今のお兄ちゃんは強くなることに存在意義を感じている。だから自分が弱いと思った時にすぐ折れる。私が園内戦で勝った時も心を折りそうになってしまった。その時は私が半ば狡いような勝ち方だったのもあってその時は大丈夫だった。でも魔族との戦いの負け方によっては今度こそ心が折れてしまうだろう。きっとお兄ちゃんは魔族におられた心を治ったように思い込むだろう。でも再び心の折れ方を思い出してしまったら、例え治ったように思い込んでもまたすぐに折れてしまうだろう。


そもそも私はなんであんな神なんかの言葉をあてにしたのだろうか?なんで私はお兄ちゃんを強くさせようとしてしまったのだろうか。なぜ私が強くなろうとしなかったのだろうか。私が同時に2人転移できるほどの力があれば、お兄ちゃんと同じ速度で走れる力があれば、ドラゴンを瞬殺できる力があれば、魔族を殺せる力があれば……お兄ちゃんと離れ離れにならなくて済んだのに。そうしたら園内戦でお兄ちゃんにもっと強くなってもらうために私が勝つ必要も無かった。そしてお兄ちゃんが存在意義を保つためにさらに強くなろうとする必要もなかった。


3日間何も食べず、飲まず、寝ずに悩み続けてやっと何をするべきかがわかった。他の案としては、神に会いに行こうかとも考えた。でも多分今私があれに会ったら本気で殺そうとしてしまう。そして返り討ちにあって殺されてしまう。本気で私が殺そうとしたらあの神はきっと殺り返すだろう。私がするべきことは神への八つ当たりなんかではない。私が強くなればいいんだ。もうどんな障害が立ち塞がってもそれを粉砕できるほどの力があればいいんだ。どんな理不尽も打ち砕けるほどの力が。お兄ちゃんが帰ってくるまでに…いや、強くなってお兄ちゃんのところに行こう。誰にも私の行動を文句言えないほどの絶対的な力を手に入れよう。そうすれば、私はお兄ちゃんをどんな時でも支えられるし、一生離れなくていられる。



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