第24話 幕間・チーター、ミドカルズオルムにきたる……その顛末・上

 今回はセルフスピンオフというか、同世界観を使ったアナザーストーリーです。

 クロエ、トリスタンとはあまり関係ないのですが、最終話以後はボーナストラックのようなものなので、気軽にお楽しみ頂けたらと。


 時系列的には、クロエがミドカルズオルムに戻ってきてから半年後、終幕の少し後くらいです。




 野太い悲鳴を上げてダンジョンマスター、ブラックヒドラの巨体が倒れた。

 ダンジョンの攻略のエフェクトが出てファンファーレが鳴る。


 ヒドラが守っていた宝箱が開いてその中から、クリア報酬トロフィーが出た。

 SSR装備、天槍・蜻蛉斬だ。

 流石の俺でもここだけは運まかせだが、いいものがとれたな。


「どうだい?皆?俺もやるもんだろ?」 


 ポーズを決めて呼びかける。


『スゲェ!』

『ソロでSランクダンジョン攻略とか、クロエ以外で初めて見たよ』

『レベル40でなんであんな動き出来るの?』

『天才かよ。マジ天才かよ』

『蜻蛉斬、クッソ羨ましいわ!譲って!』


 視界の端のメッセージウインドウにメッセージが大量に流れてくる。 

 プレイ実況していたが今日も受けは良かった。視聴者も多い。これなら広告収入も期待できるな。


 俺はプレイヤーネーム、ヴァロア・スレイプニル。クラスは精鋭兵エリートソルジャー

 盗賊系クラスチェンジ・ツリーの中級クラスで、攻撃力は低めだが動きが早く盗賊系の探知能力や限定された魔法を使える、いわゆる便利屋クラスだ。

 それがレベル40でSランクダンジョンをソロで攻略する……なんてことは当然出来るはずがない。

 

 最近姿を見ないが星騎士ステラナイトクロエ・ファレンは徹底した研究でSランクダンジョンをソロで攻略したらしいが。

 賢い俺様はそんな面倒なことはしない。


 俺がやっているのは、コード操作。いわゆるチートズルだ。

 戦闘時や特定の時に自分や敵のステータスコードを操作して戦っている。操作していると言ってもほんのわずかな時間だけだが。


 攻撃が命中する瞬間にSTRを操作してダメージを上げたり、ヤバい状況でAGLを上げて回避したり、敵の攻撃の攻撃力を下げたり。

 そんな感じだ。


 チートをつかうために大事なのは目立たないことだ。いつもそんなのを使っていれば流石に怪しまれてバレてしまう。

 VRMMOはプレイヤーの身体感覚というか運動神経と言うか、そういうものがプレーに影響する。だからキャラのレベルより上手い奴は多い。

 なので俺のこれもバレてはいないわけだ。


 それに、この仕込みには結構時間がかかっているから、すぐバレてしまっては割に合わない。

 ほんの一瞬の間しか操作しなければ運営にもそうは見破れない。バレなければ、これは不正ではない。


「じゃあ、今日のヴァロア・スレイプニルの配信はそろそろ終わりだ。また見てくれよ?」


 短めの金髪に顔に傷があるワイルドな男性風イケメンのアバターを動かして手を振る。

 まあ俺自体もイケメンなんだがな。


『お疲れ様です!』

『次も楽しみにしてますね!』

『いつも見て研究してます。頑張って!』


 メッセージに交じってDMが届いた。どうやらアイコンから見て女の子らしい。


『ヴァロア様!よかったら……あのこんど私のダンジョン攻略を手伝ってもらえませんか?ロゴス宮殿がどうしてもクリアできないんです』


 ロゴス宮殿はAランクのダンジョン。

 敵はさほど強くないが、内部構造がややこしく、仕掛けも多い。

 迷ったりもたついてる間に接敵して連戦になりやすいからランクより難易度が高いと言われている。


 DMに添付された写真を見た。

 黒髪に眼鏡姿で素朴な雰囲気だが中々かわいい感じの女の子だ。大学生くらいだろうか。

 こういう時は勿体ぶる方がいい。


「そうだね……考えておくよ。俺も忙しいからね」

『いつでも声を掛けてください!待ってます!これ、私のIDです!PNはエレナ・シェフィールドです』

「可愛い名前だね。待っていてくれよ?必ず連絡するからさ」

『はい!ありがとうございます!』

 

 女の子のファンに広告収入。今日の配信も成功だ。

 蜻蛉斬はRMTで売り払えば金になる。SSRの上位武器だ。欲しい奴はいるだろう

 まったく世の中はチョロいもんだな。


 メッセージウインドウのコメントも少なくなってきている。

 そろそろログアウト、そう思ったところで、耳障りな音がヘッドセットから響いた。



 何かと思ったが……不意に視界に赤いウィンドウが割り込んできた。


『ミッドガルド・オンライン運営です。

本日、貴方のプレーに18件の違反行為を確認しました』


 浮かれた気分が一瞬で冷めて血の気が引いた。バレてたのかよ!


『これに対してプレイヤー規約5条及び26条が適用されます。

貴方のID・FY584Ht-027 プレイヤー名ヴァロア・スレイプニルは削除の対象となります。この処理は直ちに適用されます』

「ちょっと待て!」


『同IDは永久削除となります。また、同一IPからのアカウント作成は行えません。

いままでミッドガルド・オンラインをご利用いただきありがとうございました。ごきげんよう』 


 一方的にメッセージが流れてウインドウが消える。

 同時に警告音が大きく鳴って、目を刺すような赤い光が視界を染めた。



 ……やってしまった。運営を甘く見ていた。


 折角苦労してチートコードを書いたっていうのに、永久アカウントBANは痛い。一応、別のIPを使ってアカウントを作ることはできるが。

 とはいえ、もう目を付けられていると考えた方がいいだろう。

 配信で稼いだ預金の残高を思い出す。結構稼いだし潮時かもな。本業は会社員だし。


 頭の中の警告音の残響と、目の奥に残っていた赤い光の残像が消えていく。

 目を開けると……そこにはVRヘッドセットの黒いディスプレイではなく、緑の草原が広がっていた。



 周りを見回すと、石造りで蛇の口を象った地下への入り口が見えた。

 このビジュアルは見覚えがあった。たった今攻略したSランクダンジョン、ラグナロク回廊の入り口だ。

 アカウント削除で強制ログアウトになったのかと思ったが、一体どういうことだ?


 ヘッドセットを外そうとして気付いた。

 頭を覆っているヘッドセットの重さを感じない。手に嵌めているモーションコントローラーの感覚もない。 

 これはまさか……信じられないことだが。


「これ!まさかゲームの中かよ!」



 暫く気持ちを落ち着かせて状況を考える。

 頬をつねってもリアルに痛いし、どうやら夢ではなさそうだ。


 これは世に言う異世界転移なんだろうか。

 それともゲームの中に飛ばされたということなのか。


 俺の体はどうなっているんだ。

 あまりにリアルすぎてゲームに没入した結果、文字通りの意味でVRゲーム廃人になってしまった奴がいるなんて話は聞くが。

 これはその状態なんだろうか。

 

 ……分からない

 こんなものが現実に起きるとは思わなかった。そもそもこれは現実なのか。


 とはいえ……これはこれでいいかもしれない。難しいことを考えても仕方ない。

 平凡な会社員としてなんとなく過ごすよりは、この世界で格好良くヒーローになるのもいいな。


 チートコードを書くにあたって、ミッドガルド・オンラインについてはかなり調べた。

 ここがゲーム準拠なら、俺は何とでもできる。


「ステータス、オープン」


 そういうとステータス・ウインドウが開いた。

 やはりこの辺は本家ミッドガルド・オンラインと同じだな。ならいける。


クラス・操作手チーター

レベル・××

称号 ・なし

装備 ・バルバロッサの大剣(SR)

   ・蛇盾・メデューサ(SSR)

   ・四方防壁(SR)

スキル・コード操作

STR・108

AGI・189

DEX・173

WIZ・145

INT・125

HP ・543

MP ・370


 見慣れたステータス。見慣れた装備、さすがに蜻蛉斬は没収か。

 しかし、それより気になったのはクラス。そしてスキルだ。


 精鋭兵エリートソルジャー操作手チーターになっている。そんなクラスは聞いたこともない。

 レベルも40のはずだが、数値欄が×になっている。これも見たことがない。


 とはいえ、そんなことはどうでもいい。

 スキル欄のコード操作の方が注目に値する。試しに頭の中で使うことをイメージした。

 自分のステータス欄が点滅する……直感的にだが書き換えられることが分かった。


 つまり俺はこの世界に転移するときコード操作のスキルを持って転移した、ということか。

 コード操作に関してはお手の物だ。その使い方はよく知っている。バレたのは今日だけで、今まで何度も使っていたしな。


 これは精鋭兵エリートソルジャーとして転移するよりいい……というかむしろ最高なのでは?



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