第2話 星空の天幕亭・出会い・上
トマトスープで煮込んだリゾットと香ばしく焼かれた肉と葉野菜、付け合わせのライ麦のパン。
食事の味は申し分ない。
そして大事であるがゆえにここに留め置かれる。
ここで俺はきっと新人冒険者のガイド役をして、このレベルのまま年を取る。
いずれ戦えなくなれば、
そうなった先輩を見てきた。
「まあ考えてみろ」
昔、その先輩が言っていたことを思い出す。
「深い階層に行けば危険も増す。華々しい英雄の後ろには山ほど死人がいる。
だが、俺たちはそんなところで無理をしなくても食い扶持には困らない。考えようによってはいいじゃないか?」
その先輩はにこやかに笑いながら言った。
「お前は自分が英雄になれると思っているのか?
ダンジョンマスターを倒して英雄になれると思うのか?俺たちは
天井を見上げる。天窓の向こうに星が見えた。
今の境遇を、上手い飯が食べられるが星に向かって手を伸ばせない上等な檻の中とみるべきだろうか。
星を掴むことはできないが風雨から守られる安全な家の中、とみるべきだろうか。
そんなことを考えていたらまたホールのドアが開いた。
また誰か戻ってきたらしい。俺には関係ないが。
◆
一瞬の静けさの後に全員がどよめいた。
俺も目をやって、そのどよめきの意味が分かった。
短めの黒髪の女騎士だ。
彼女が手に持っている円を組み合わせたような穂先の槍、傍に付き従うように浮かぶ盾、体のあちこちを覆う部分鎧は、どれも魔法の術式らしき文様が刻まれていて、淡い光を放っている。
すべてが恐らく
一個もってる奴だって多くはないのに、あれだけを一人で持っている奴がいるのか。
その人が全員の注目を浴びながらカウンターに歩み寄る。
注目の視線を意に介していないのか、世間話でもするようにカウンターの奥の受付嬢と何かを話すとこっちに歩いてきた。
スープを飲みつつ横目で見ていると、その人が俺の前に立った。
全員の視線が俺たちに集まる……いたたまれないぞ。何なんだ。
その人が俺を見て軽く会釈した。
肩くらいで切りそろえた黒髪。三つ編みのように編み上げられた一房の髪が後ろで髪飾りで留められている。
白い肌に大きめの黒い目。優し気な目元の整った容姿、軽く微笑んだような口元だが、あまりこの辺では見かけない顔立ちだ。
装備は立派だが、穏やかな雰囲気でなんとなく冒険者っぽくない。
「貴方は
「ああ……はい、そうですが」
余所余所しいが礼儀正しい口調だ。思わずこっちもつられて敬語になってしまう。
というか、やはり冒険者らしくない。露骨に格上っぽいからこっちは敬語を使わないといけないんだが、相手はそうする理由がないはずだ。
彼女が軽く頷いた。
「私と一緒に来てもらいます。いいですね」
「どこへです?」
どう見てもこの人が5階層までのダンジョン案内を必要としている新人とは思えない。
「星見の尖塔へ」
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