第25話 空回る洗濯機
「何これ?」
ちひろが洗濯機を指さす。
「洗濯機だよ」
蒼乃が答える。
「洗濯機?」
「うん」
あれから蒼乃は台所だけでなく、それ以外の生活用品も揃えていっていた。
「そういえば、ちひろ、洗濯はどうしてたの」
「洗濯?」
「うん」
ちひろは不思議と、いつもきれいな服を着ている。
「何それ」
「え?」
「わっ」
ちひろが開けた部屋をのぞくと、部屋いっぱいに、ちひろがいつも着ている派手派手な服が乱雑に散らばっていた。
「これ全部買ったの?」
ちひろは頷いた。
「着ていた服は?」
「捨てた」
「えっ」
「わっ」
別の部屋を開けるとそこにも服が散乱していた。それはちひろが着ていた服だった。
「じゃあ、全部、買い替えてたんだ・・」
蒼乃は茫然とした。そういえばかくれんぼしていた時に、この部屋を見て不思議に思ったことを思い出した。
「・・・」
やはり、ちひろの常識のなさはぶっ飛んでいる。
「こうやって、洗うんだよ」
「洗う?」
ちひろはそれすらが分かっていないようだった。
「うん、見てて」
蒼乃は洗濯機に洗濯物を入れて、洗剤を入れるとスイッチを押す。
「後は機械がやってくれる」
蒼乃は説明をして、ちひろを見る。
「ふ~ん」
ちひろは不思議そうに洗濯機を見つめる。
「ほらで来た」
洗濯が終わり、洗濯機が止まると、蒼乃は蓋を開け中の洗濯ものを取り出してちひろに言った。
「これで、洗った、の?」
ちひろが首を傾げながら言う。
「そう、これを干せばいいんだ」
「ふ~ん」
ちひろはしかし、まだよく分かっていないようだった。
「ん?」
次の日、廊下の向こうで洗濯機の回っている音がした。蒼乃が近づいていって見てみると、ちょうど、洗濯が終わって洗濯機の回転が止まった。そして、ピーッ、ピーッ、という終了を知らせる電子音が鳴った。
「ちひろが動かしたんだな」
蒼乃は、ちひろの進歩にほくそ笑んだ。そして、洗濯物を干してやろうと、蓋を開けた。
「あっ」
蒼乃は中を覗き驚いた。洗濯機の中には、靴下が一足入っているだけだった。
「・・・」
蒼乃はそれをつまみ上げ、茫然と眺めた。
「あっ、できた」
そこに、うれしそうな表情でちひろがやって来た。
「やったぁ、できた」
そして、蒼乃から靴下を奪うと、どうだと言わんばかりに、靴下を蒼乃に突き出し、ちひろはドヤ顔で蒼乃を見る。
「あたしにだってできるんだよ」
「・・・」
蒼乃は言葉もなかった。
ちひろの生活感と常識の無さは尋常じゃない。蒼乃は諦めた。
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